摂食嚥下障害患者のご家族に伝えたい「食事の作り方」と注意点
公開日:2022.03.07
文:牧 咲(管理栄養士)
摂食嚥下障害患者が自宅へ退院する際、食事を準備するご家族へ、食事の形態や調理の工夫など、気を付けるポイントを伝える必要があります。管理栄養士の立場から、患者一人ひとりに合わせたアドバイスについて、解説していきます。
嚥下調整食の食形態を的確に伝えるには?
摂食嚥下障害の患者さんが退院する際には、食事の軟らかさや形状、とろみの程度など、ご本人に最適な食形態を伝えなければなりません。しかし、名称やたとえなど説明する言葉が人によってまちまちでは、混乱や認識の相違が生じる可能性があります。
そこで、「日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2021(※1)」を用います。医療や福祉、リハビリ職など、患者さんに関わる関係者が共通の認識を持って使用できること目的として作られたもので、略して「学会分類2021」と呼ばれることもあります。
嚥下調整食の段階を示す「学会分類2021(食事)」と、とろみの程度を示す「学会分類2021(とろみ)」の2項目があり、それぞれの段階にコードや名称が設定されています。
患者さんのご家族に説明する際も、「学会分類2021」をもとに、院内で設定している食形態を説明し、現在どのような食事が適しているのか示したほうが、混乱や認識の相違を避けられます(※2) 。
口頭で説明するだけではイメージが湧きにくい場合もあるため、図表や食事の写真、実際に食べている様子を示すとよりわかりやすいでしょう。
指導資料例
「学会分類2021」をもとに、入院中にどのような食形態で食べているかを具体的に示しています。
※1)参考:一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
形態、特色などの詳細は「『嚥下調整食分類2021』の本文及び学会分類2021(食事)早見表」を参照してください。
※2)参考:栄養指導Navi「学会分類2021と他分類の対応」
学会分類2021のピラミッドと食事例の写真・説明文が一体化しているため、説明しやすいです。
注意が必要な食形態と食べやすくする調理の工夫
嚥下機能が低下した患者さんが自宅で安全に食事をするには、調理に注意が必要な食材もあります。飲み込みにくく誤嚥しやすい食形態を説明し、自宅でも気を付けていただくよう伝えましょう。
また、軟らかく調理をしたり、素材の形状を変えたりするなどの工夫によって、家族と同じメニューでも食べやすくすることができます。
(1)注意が必要な形態
特徴 | 理由 | 例 |
---|---|---|
ボロボロ | ばらけやすい | そぼろ、かまぼこなど |
パサパサ | ぱさつきやすい | パン、芋類など |
ペラペラ | はりつきやすい | のり、わかめなど |
サラサラ | むせやすい | 水、お茶、汁ものなど |
(2)食べやすい食品と調理の工夫
▼食材選び
肉・魚 | 脂肪を含む軟らかい部位、ミンチ状のもの |
---|---|
野菜 | 繊維の少ないもの(芋、豆、かぼちゃ、軟らかい葉物) |
▼食べやすくする調理法
特徴 | 工夫 | 例 |
---|---|---|
硬いもの | 煮込む・蒸す・つぶす | シチュー、煮魚、つみれ、ハンバーグ |
バラバラなもの | ・食材にあん風のとろみをかける ・マヨネーズなどの油脂類でまとめる |
かきたま汁、白あえ、ポテトサラダ |
サラサラな液体 | とろみをつける | とろみ調整食品を利用する |
低栄養・脱水への注意を促す
高齢者は低栄養や脱水に注意が必要です。特に摂食嚥下障害患者は、一度に食べられる量が少なく栄養量が不足しやすいため、栄養バランスや食事のとり方が重要になります。
(1)栄養バランスのとり方
低栄養予防のために、1日3食、三大栄養素である糖質、脂質、たんぱく質をバランスよく摂ることが基本となります。主食、主菜、副菜がそろった献立を心がけることを、ご家族にも伝えましょう。食材は、肉・魚・卵・大豆製品・乳製品などのたんぱく質を多く含む食品や油脂類を積極的に使うことで、栄養量が確保でき、低栄養の予防につながります。
一度に多くの献立をそろえることが難しければ、一品にいろいろな食材を使うと良いでしょう(例:お粥に鶏肉や卵、葉物野菜を入れ、「具だくさんおじや」にするなど)。水分の摂取もすすめ、必要であればとろみ調整食品の利用を説明します。
(2)食事の回数を増やす
一度に食べる量が少ない場合、1食の栄養量が不足しやすいため、1日3食の他に、10時・15時にカロリーのある飲み物を飲んだり、おやつを食べたりすることをすすめましょう。患者さんが好きなものを選択し、楽しみの時間にすることで、栄養量確保も期待できます。
市販されている食品や栄養補助食品の利用をすすめる
自宅で全て「手作り」は負担に感じるご家族も多いため、スーパーやコンビニで買える食べやすい食品や摂食嚥下障害患者用の商品、栄養補助食品を紹介します。
摂食嚥下障害患者用の商品や栄養補助食品は、スーパーで手に入らない場合も多いため、専用のカタログなどを利用して、適した商品と購入の仕方も説明しましょう。
(1)すぐに食べられる食品
レトルトのお粥、レトルトのカレー、缶詰、茶わん蒸し、豆腐、魚の煮つけ、ハンバーグ、プリン、ヨーグルトのようなレトルト食品や調理済みの商品を自宅にストックしておけば、手間をかけず、すぐに提供することができます。
高エネルギー、高タンパク質の食品を選択することがポイントです。
(2)嚥下障害患者用の商品
嚥下障害患者用として、主食や主菜など、おいしい商品が数多く売られています。これらには、「学会分類2021」のコードが記載されていますので、一人ひとりの患者に適したコードを伝え、正しい食形態を選択できるように説明しましょう。
(3)栄養補助食品
食事のみでは栄養量が不足する場合は、患者の病態に合わせた栄養補助食品を紹介します。入院中に利用している栄養補助食品があれば、自宅でも継続するようにすすめます。栄養補助食品は、種類が多く特徴もさまざまです。病態に合わせた商品を選択できるように、どのような特徴のものが適しているかを説明しましょう。
さまざまなものを試して、特に好む味付けや商品を見つけることで、食の楽しみにもつながります。また、おやつの時間に利用すれば、ご家族が準備する手間を省くことができ、栄養量の確保が可能になるでしょう。
患者家族の背景を大切にする
自宅へ退院後、食事を作るのはご家族です。「できるだけ手作りをしてあげたい」、「自宅での食事の準備は不安に感じている」、「普段から料理はあまりしない」など、ご家族の思いや背景はさまざまです。ご家族の思いや生活背景を大切にしながら、丁寧に説明することがポイントです。
ご家族の負担が少しでも軽減されるよう配慮しつつ向き合えば、それぞれのご家庭で継続可能な、そして患者さんに最適な嚥下調整食についてのアドバイスができるでしょう。
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牧 咲
管理栄養士
大分県、茨城県内の医療施設(急性期病院、回復期病院、老人保健施設)に6年間勤務。栄養管理業務、栄養指導、レシピの提案、食や健康に関する情報発信を行ってきた。
現在は子育てをしながらフリーランスとして活動中。レシピの提案やコラム執筆、離乳食のアドバイスなどを行っている。
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