自助具に使われる「てこの原理」とは?臨床で活かす方法
公開日:2022.12.11 更新日:2022.12.13
文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)
日常生活に欠かせない「てこの原理」の基本
小さな力で大きなものを動かすなど、小さな運動を大きな運動に換える道具を「てこ」と呼びます。
たとえば、身近にある「はさみ」もてこの原理を用いた道具のひとつ。はさみの場合、手指で握り力を入れる部分(人が力を加える部分)を「力点」、刃が重なっている部分(回転の中心になる部分)を「支点(重さを支える点)」、紙などを挟み刃の力が加わる部分(道具が力を加える部分)を「作用点」と呼びます。
このとき、支点と作用点をできるだけ近づけると、より小さな力で楽に切ることができます。支点と力点を遠ざけた場合も同様です。はさみ以外にも、「てこの原理」を用いた道具はさまざま。作業療法の領域でも、てこの原理を用いた道具がたくさん使われています。
作業療法士の国家試験には、以下のような問題が出題されています。
解答と解説
正解:3
てこの原理は、力点、支点、作用点の位置によって3つの種類に分けられ、それぞれ特性が異なります(下表)。
<1>の片手はさみ、<2>のリンクプルオープナー、<5>のレバー付きコンセントは、第一のてこです。
支点と作用点をできるだけ近くし、実際に手腕を使って力を入れる場所は遠ざけて距離をとることで、安定して楽に道具を操作することができます。
<3>の点眼用自助具に用いられている第二のてこの特性は、力の増幅を意味する「力の有利性」。作用点が真ん中にあるので、わずかな力で大きな力を発揮したいときや、力を微調整する必要があるときに有効です。
<4>のばね箸は、力点が中心にある第三のてこです。力に対しては不利である一方、力が伝わる速さに対して有利な特性があります。
実務での活かし方
最近では、便利で耐久性のある自助具が安価で購入できるようになっていますが、柄の長さを調整するなど、てこの原理を活用し市販品にほんの少し手を加えるだけで、対象者の身体状態に合った道具に改良することも可能です。
また、てこの原理は、弱い力で道具を操作するだけではなく、身体介助にも有効です。てこの原理を理解していれば、楽に介助が行えます。専門職が活用するだけではなく、対象者やそのご家族にもてこの原理を用いた日常生活動作の指導が有用な場面が多々あるでしょう。
たとえば移乗動作の介助でも、「支点・力点・作用点」がある状態をつくることで、介助する側・介助される側の負担が大きく変わります。重心をできるだけ低くして相手の身体に近づけ、相手の膝(殿部の中心)を支点として、移動したい部分(力を加えたい相手の重心:作用点)に力を加える(介助者の筋収縮:力点)と、介助される側もスムーズに安心して移乗することができます。

中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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