医療介護・リハビリ・療法士のお役立ち情報

セラピストプラス

マイナビコメディカル
マイナビコメディカル

医療介護・リハビリ・療法士のお役立ち情報

セラピストプラス

リハビリテーションの臨床で役立つ「統計」の基礎知識

公開日:2023.01.31 更新日:2023.02.07

pixta_84547607_S

文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授

リハビリテーションの臨床でも必要な「統計」

臨床においては、さまざまな患者の状態を調査・測定し、その結果を数値で示すことも多く、その結果についていろいろな検討がおこなわれます。一人の患者の結果について、発症から現在まで、あるいは将来の時間的変化などを確認したい場合や、異なる機能の状態の間の関連性を確認したい場合など。また、異なる患者の間に差があるのかを知りたいことも多いです。

例えば、違う疾患の患者のグループについて、ある機能の状態に差があるのか、同じ疾患の患者のグループに対して、異なる介入をおこなった場合に、効果に差があるのか、などのような場合です。
結果の数値をグラフで示すことで、視覚的に変化や差、関連性などを確認することもできますが、その判断が主観だけの場合、判断する人によって解釈が異なる場合もあり、可能であれば、客観的に、科学的に判断したほうが、説得力があります。

そのための強力な手段が統計です。統計を活用するためには、尺度の分類、分布の種類、統計の仮説と有意性、主な統計の種類など、統計の基礎のポイントを理解する必要があります。

「尺度」と「分布」の種類

(1)尺度の分類
測定された数値・変数は、その性質によって、名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比率尺度に分類されます。

●名義尺度:他と区別するための分類の名称で、性別(男女)、病名、住所などです。
●順序尺度:大小や順序に意味がありますが、その間隔には意味がありません。順位や程度で、日常生活活動や心身機能の評価尺度の多くは、順序尺度です。基本的に四則演算はできません。
●間隔尺度:目盛の間隔が等間隔で、その間隔に意味があります。温度(気温、体温)や年号(西暦)などです。
●比率尺度:間隔に加えて、比率にも意味があり、身長、体重、時間、距離、力、速度などです。

比率尺度と間隔尺度は似ていますが、比率尺度の原点は0で、その0には絶対的な意味があります。また、比率尺度は10kgが20kgになれば、2倍と比率として解釈できますが、間隔尺度の年号が、1000年から2000年になっても、2倍とは解釈しません。しかし、統計処理においては、間隔尺度と比率尺度はほぼ同様に扱われます。

尺度毎に使用できる主な統計量に違いがあり(表)、名義尺度と順序尺度を質的データ(カテゴリカルデータ)、間隔尺度と比率尺度を量的データと分けて扱ったほうが実際的です。順序尺度でも量的データとほぼ同様に扱う場合もあります。
また、離散変数と連続変数という分け方もあります。離散変数はとびとびの値で、間に値を取らない数値です。例えばサイコロのコマや回数、個数などです。1.5回や2.6個などはありません。
連続変数は、間に無限に値がある変数で、距離、身長、体重などで、5.8mなどのように測定されますが、5.84m、5.846mのように無限に小数点を取り得ます。

表 尺度毎に使用できる主な統計量
画像1
(2)分布の種類:正規分布
測定された数値の散らばり具合の様相を分布といい、統計を活用する際には、正規分布か否かで使用する手法が異なります。今回は、正規分布について説明します。

正規分布は図のような鐘のような形をしています。横軸が測定データで、縦軸がその値が生じる確率です。主な特徴は、左右対称であること、平均のデータが生じる確率が最も大きいこと、平均から離れるほど確率が小さくなることです。自然現象や社会現象では、標本数が十分に大きい場合、正規分布を示すことが多く、この性質を中心極限定理と呼びます。図は、平均が0、標準偏差が1の場合で、標準正規分布といいます。この場合には、平均±1×標準偏差の間には68.3%のデータが存在し、平均±2×標準偏差には95.4%のデータが存在します。

図 正規分布
画像2

統計学的仮説と有意性

群によって差があるかどうか、変数間に関連があるかどうか、などを検討する際に、統計学的仮説検定がおこなわれます。その際、帰無仮説と対立仮説を立てて検定します。

検定の結果、帰無仮説が採択されれば、対立仮説が棄却され、反対に、帰無仮説が棄却されれば、対立仮説が採択される関係にあります。一般に帰無仮説は、できるだけ棄却したい立場で、「条件間に差がない」「条件間に関連がない」のように設定します。対立仮説はこれとは反対の事象として設定します。そのため、帰無仮説が棄却されると、「条件間に差がある」「条件間に関連がある」と判断され、これが統計学的検定です。

しかし、統計学的検定は推定であるため、100%確実な結果ではありません。確率的な割合の目安が有意水準で、帰無仮説を棄却・否定するための基準確率点がp値です。一般的に有意水準は、5%や1%に設定します。検定によってp値がこの5%や1%未満となった場合に、「条件間に有意な差がある」「条件間に有意な関連がある」と判定します。例えば、有意水準5%は、仮説が正しい場合に、この手順を何回も実施して検定するときに、間違って帰無仮説を棄却する確率が5%であるということです。

・主な検定の種類
データの分布によってパラメトリック検定とノンパラメトリック検定に分けられます。パラメトリック検定は、正規分布に従うデータを対象とした検定です。ノンパラメトリック検定は、分布のタイプによらない検定です。
統計の主な目的としては、複数の群間の差を検定する場合、データ間の関連性・相関を検討する場合の2つです。前者の場合で、異なる2群であれば独立2群の差の検定、同じ群で時期が異なる場合には関連2群の差の検定といいます。例えば、ある治療の前後で差を検定する場合は、関連2群の差の検定です。

《問題》対応がなく正規分布を示さない連続変数の3群間の差を検討するのに用いるのはどれか。

【理学療法士】第56回 午後22
対応がなく正規分布を示さない連続変数の3群間の差を検討するのに用いるのはどれか。

<選択肢>

  1. 1. 相関分析
  2. 2. 分散分析
  3. 3. Paired-t 検定
  4. 4. Kruskal-Wallis 検定
  5. 5. Mann-Whitney のU検定

解答と解説

正解:4

過去問題の選択肢から、代表的な統計学的手法を解説します。

(1)相関分析
2つのデータの関連性の程度を表す相関係数を計算する分析手法です。相関係数は-1から1に分散します。1に近いほど正の相関関係が強く、-1に近いほど負の相関関係が強く、0に近いと関連性がないと解釈されます。データが正規分布に従っている場合にはパラメトリック検定であるPearsonの相関係数、正規分布に従っていない場合にはノンパラメトリック検定である「Spearmanの順位相関係数」が使用されます。

(2)分散分析
3つのグループ(群)間の平均の差の検定を一般化した方法です。量的データに対するパラメトリック検定の一つです。さまざまなモデルがあり、1要因の差を検定する一元配置分散分析や2要因の差を検討する二元配置分散分析などがあります。また、要因において、対応のある要因と対応のない要因も組み合わせて検定することも可能です。

(3)Paired-t検定
「対応のあるt検定」ともいいます。量的データで、正規分布に従う場合のパラメトリック検定の一つです。ある治療の前後のような、対応のある関連2群の平均の差を検定します。

(4)Kruskal-Wallis 検定
対応のない、独立3群以上の群間の平均の差の検定で、パラメトリック検定の一元配置分散分析に対応した、正規分布に従わないノンパラメトリック検定の一つです。間隔尺度、比率尺度だけでなく、順序尺度のデータでも使用されます。

(5)Mann-Whitney のU検定
対応のない、独立2群の平均の差の検定で、パラメトリック検定のt検定に対応した、正規分布に従わないノンパラメトリック検定の一つです。間隔尺度、比率尺度だけでなく、順序尺度のデータでも使用されます。

実務での活かし方

検定手法を選択する際に、データが正規分布に従っているかいなかを判断することが、必要になります。この正規分布しているかいなかの検定を「正規性の検定」といいます。

この正規性の検定の代表的な検定手法が、Shapiro-Wilk検定とKolmogorov-Smirnovの正規性の検定です。少数例では、前者のShapiro-Wilk検定が用いられることが一般です。検定の結果、5%未満(p<0.05)で有意なときに「有意に正規分布に従っていない」と判断します。この判断に基づいて、パラメトリック検定とノンパラメトリック検定を使い分けます。

パラメトリック検定とノンパラメトリック検定の主な統計手法を表に示します。一般に、順序尺度であれば、ノンパラメトリック検定を使用し、間隔尺度と比率尺度では、正規性が認められれば、パラメトリック検定を。正規性が認められなければ、ノンパラメトリック検定を使用します。

表 主なパラメトリック検定とノンパラメトリック検定の統計手法
画像3

簡単な方法では、手計算やエクセルに公式を入力した計算も可能ですが、一般的には統計ソフトを使用します。極めて多数の統計ソフトが販売されていますが、学会発表や論文投稿なども予定している場合には、信頼性が高く、さまざまな統計手法が可能なソフトを選択することが用いられます。
代表的な統計ソフトとして、SPSS、SAS、JMPが有料ソフトでは定評があります。また、無料ソフトとしては、RやEZRが、多彩な統計解析が可能な代表的です。

統計について理解することは、研究をデザインする場合や、実際に得られたデータを分析する際に必要となるだけではなく、公開されている論文等の情報を正確に理解するためにも必要です。そして、統計について学習してから論文を読むことも可能です。しかし、研究領域やテーマによって用いられる統計手法にも特徴があるため、論文を読みながら、その論文で使用されている統計手法を学習するほうが効率的です。日ごろから、一人で、あるいは同僚や仲間と論文に触れる機会を多くするよう心がけてみてください。

臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。

今よりさらに良い環境で働けるよう
キャリアドバイザーが全力でサポートします
\今すぐ1分で完了/

    <PR>マイナビコメディカル

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  •  LINEで送る

他の記事も読む

おすすめ

TOPへ