高次脳機能障害の患者や家族への説明で言語聴覚士ができること
公開日:2023.03.01
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
今回の記事の概要
今回取り上げる過去問は「高次脳機能障害の評価とその介入について」です。脳血管障害では高次脳機能障害を認めることがあり、言語聴覚士の臨床では対応する場面が多くあります。高次脳機能障害は実際の臨床場面ではどのように評価し、介入していくのでしょうか。
高次脳機能障害の評価とその介入のポイントについて解説していきます。
今回は言語聴覚療法におけるリスク管理(リスクマネジメント)のポイントについて解説していきます。
《問題》高次脳機能障害のリハビリテーションについて正しいのはどれか
【言語聴覚士】第22回 第163問
高次脳機能障害のリハビリテーションについて正しいのはどれか。
<選択肢>
- a. 評価はまずWAIS-Ⅲから始める
- b. 前頭葉機能の評価にはWAIS-Ⅲは感度が低い
- c. 評価結果を本人・家族に伝える際は、得意なところや強みも伝える
- d. 障害に対する認識や心理状態についても支持的な面接の中で聞き取っていく
- e. 高次脳機能障害の家族への支援は集団では行わない
- 1. a,b,c
- 2. a,b,e
- 3. a,d,e
- 4. b,c,d
- 5. c,d,e
解答と解説
正解:4
高次脳機能障害の評価には各種検査バッテリーを実施する必要があります。検査の実施に際しては、検査の目的を明確にし、得られた結果をもとに訓練計画を立案していきます。また、検査結果を本人やご家族にお伝えすることもあります。
今回の設問ではb.c.dはどれも正しい記述になります。a,については、評価はまずスクリーニング検査から実施をしますので誤りとなり、e,は集団でも実施する場合がありますので誤りとなります。したがって、正解は<4.>になります。
実務での活かし方~高次脳機能障害の評価と介入のポイント~
言語聴覚療法における高次脳機能障害の評価とその介入について解説していきます。
(1)高次脳機能障害の評価と介入の流れ
言語聴覚療法における主な臨床の流れは、評価→訓練→再評価となります。評価は、検査だけでなく事前の情報収集や面接、実際の生活場面での状況の観察などから包括的に実施します。
検査には、以下のようなものがあります。
・短時間で患者の状態像を把握するスクリーニング検査
・類似の障害と鑑別し、主な障害を多面的・総合的に評価し確定する鑑別診断検査
・特定の側面に焦点を当て詳細に評価する掘り下げ検査
その後、評価結果をもとに目標方針を決定していきますが、この際はICF(国際生活機能分類)を用いて「心身機能・構造」「活動」「参加」の3つのレベルから包括的に検討していきます。
(ICFについての記事はこちら↓
https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/career/drill/8911/)
訓練プログラムを立案し訓練を実施した後には、アウトカム評価(再評価)を実施し、初期評価時との比較を行い、訓練目標や訓練内容を再設定します。
(2)本人や家族への評価結果の説明
高次脳機能障害の臨床において、評価結果を本人や家族へお伝えすることは言語聴覚士の重要な役割になります。高次脳機能障害の患者さんは、自己の状態に関する認識をもちにくい場合が多く、日常生活での困難が高次脳機能障害に起因しているということにも気づきにくいことが報告されています。そのため、自身の症状について適切な理解を促すことは、心理的側面を支援することだけでなく、社会生活における活動の拡大に繋がると考えられています。
本人や家族へ結果をお伝えする際には、障害された能力についての説明にとどまらず、得意な点や強み、残存能力についても説明をすることが重要です。実際に、高次脳機能障害のリハビリテーションにおいては家族への支援が効果的であるといった報告があります。
まとめ
言語聴覚療法における高次脳機能障害の評価とその介入について解説しました。高次脳機能障害の臨床の流れは、評価→訓練→再評価であり、評価にはスクリーニング検査、鑑別診断検査、掘り下げ検査があることを解説しました。評価は検査結果だけでなく面接や実際の日常生活での状況の観察などからの情報収集によって包括的に実施することが重要です。また、本人や家族に対し適切な説明を行うことは、コミュニケーションを支援する専門職である言語聴覚士の重要な役割になります。

近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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