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理学療法における発達検査の基本

公開日:2023.03.24

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文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授

「発達」とは何か?

発達は、心身機能、社会的機能の質的な変化であり、新しい機能の獲得や複数の多くの機能が統合される複雑な過程です。多くの関連要因もあるため、極めて個別的です。発達の遅れそのものが問題となる症例や、ある疾患やその治療等のための経験の偏りか生じる発達への影響が問題となる症例などがあります。発達の遅れの有無の判断や発達を支援する方法の検討のために、発達の検査が必要となります。多くの発達検査があり、それらの特徴を理解して、使用することが大切です。

ライフサイクルから見る発達の各段階の課題

「発達」と類似の表現である「成長・発育」は、形態や重量などの量的な変化で、身長や体重など、長さや重さなどの尺度で量的に測定可能です。また、「成熟」という表現も用いられることがありますが、身体の多様な器官やシステムの形態や機能が、成人の状態に至ることで、特に遺伝的要因に関連して用いられます。

このように発達には、成長・発育、成熟が関連します。また、発達過程を考える際に重要な概念として、「適応」と「学習」があります。適応とは、周囲の環境に対する身体の調整や順応。学習は経験による行動の永続的な変化であり、これらにより発達が促されます。そのため、周囲の環境が発達に多大な影響をもたらします。

発達はいくつかの領域に分けられ、身体的発達(運動発達)、認知的発達・知的(知能)発達、情緒的発達、社会的発達などです。これらの領域は相互に関連しながら発達します。例えば、運動発達に問題があると、知的発達にも影響することがあり、社会的発達に問題がある場合に運動発達が遅れることなどがあります。多次元的で、多くの関連要因による影響を受けるため、発達は人によって異なる点も多く、個別的です。

出生から死亡するまでの一生のライフサイクルは、いくつかに区分されます。Eriksonの心理社会的発達段階(表)では、乳児期から老年期までの8つの段階に区分され、その時期における解決すべき課題などが示されています。年齢だけでなく、その時期の生活環境や社会から求められる役割との関係で、発達が影響されます。そして、小児期だけでなく、生涯発達としてとらえられますが、発達検査は一般に小児期を中心に用いられます。

表1_Eriksonの心理社会的発達段階

発達検査の種類

発達検査は、発達の状況を客観的に測定する検査です。多くの種類があり、目的や対象年齢、扱う領域などが異なります(表)。発達プロフィールは、検査項目と月年齢を軸とした折れ線グラフのように示される結果で、領域毎の発達状況を視覚的に確認でき、発達の特徴を把握することができます。また、遠城寺式乳幼児分析的発達検査法や津守式乳幼児発達質問紙、新版K式発達検査などでは、発達の状況が相当する年齢である発達年齢が得られ、実年齢(暦年齢)で割り、100を掛けた発達指数(DQ: Developmental Quotient)を算出できます。

今回のコラムでは、発達プロフィールによるスクリーニングテストである遠城寺式乳幼児分析的発達検査法について、解説します。
表2_小児において使用される主な発達検査

《問題》遠城寺式乳幼児分析的発達検査で1歳6か月までに獲得されるのはどれか。

【理学療法士】第56回 午前92
遠城寺式乳幼児分析的発達検査(九大小児科改訂版)で1歳6か月までに獲得されるのはどれか。

<選択肢>

  1. 1. ボールを前にける。
  2. 2. 積木を横に二つ以上ならべる。
  3. 3. お菓子のつつみ紙をとって食べる。
  4. 4. 親から離れて遊ぶ。
  5. 5. 大きい、小さいがわかる。

解答と解説

正解:3

正解は、<3.>です。
遠城寺式乳幼児分析的発達検査について、詳しく解説します。

(1)遠城寺式乳幼児分析的発達検査
わが国で開発された検査法で、対象年齢は0ヵ月から4歳7カ月までです。運動(移動運動、手の運動)、社会性(基本的習慣・対人関係)、言語(発語・言語理解)の6つの領域の発達状況を検査します。各時期に代表的な課題が示され、その合否の判定方法が明確に規定されています。暦年齢相当の課題から検査を始め、その合否の状況から各領域の発達年齢を測定し、6つの領域の発達年齢から、発達プロフィールを視覚的に分析できます。検査は簡単に短時間で実施でき、ボール、積木などの用具を使用し、判定方法はマニュアルに記載されています。

(2)1歳から3歳までの各領域の課題(図)
・移動運動のボールを前にける:1歳9か月〜2歳
・手の運動の積木を横に二つ以上ならべる:1歳9か月〜2歳
・基本的習慣のお菓子のつつみ紙をとって食べる:1歳〜1歳2か月
・対人関係の親から離れて遊ぶ:1歳9か月〜2歳
・言語理解の大きい、小さいがわかる:2歳3か月〜2歳6か月

図  1歳から3歳までの各領域の課題
図_1歳から3歳までの各領域の課題

実務での活かし方

遠城寺式乳幼児分析的発達検査は、各領域の課題について、暦年齢相当の課題から検査を開始します。できれば○印をつけ、できなければ×印をつけます。上の課題に進んで、領域毎にできない課題が3つ連続した時点で検査を中止します。下の課題でできる課題が3つ連続すれば、それ以下は検査しません。飛び越しがある場合には、できる課題とできない課題を入れ替えます。
できる課題の1番上がそれぞれの発達年齢となります。

発達年齢のプロフィールの形と暦年齢との関係から解釈を行います。プロフィールが直線に近ければバランスのとれた発達であり、凹凸が目立つ場合には不均衡な発達です。

例えば、脳性麻痺では運動(移動運動・手の運動)の遅れがあり、言語理解に比べて、発語の発達の遅れを示すことが多いです。
知的障害では、移動運動の発達は良好ですが、手の運動や言語の発達の遅れが目立ちます。
自閉症スペクトラム障害では、運動の発達は比較的高いですが、社会性や言語の発達の遅れを認めることが多いです。

検査結果から、今後獲得すべき課題とそのための支援を検討します。その際、獲得する課題の順序性や領域間の因果関係も考慮します。領域間の発達状況に差がある場合、遅れている領域の発達を促す具体的な支援を検討することもありますが、発達の良好な領域の行動・経験を利用して、遅れている領域の発達を期待することもあります。

また、○と×が連続せずに、一部飛び越しを認める場合にも注意が必要です。飛び越しを認めるできない課題が、少し期間が経過した後に獲得されてくれば、問題はありませんが、長期に経過しても、獲得が取り残される場合もあり、飛び越した課題の経験を促す支援を試みることも必要です。

発達検査は、実際に目の前で主な課題を行って、課題遂行の可否を観察して実施しますが、一部は日常の様子を保護者から聴取して用紙に記録することもあります。それにより保護者がお子さんの日常の発達状況を振り返り、自宅での遊びや子育ての場面での工夫などを考える機会にもなり、保護者と医療者間の情報交換としても大切です。

臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。

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