作業療法士から強迫性障害の患者家族へのアドバイス
公開日:2023.04.12 更新日:2023.04.14
文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)
集団作業療法の目的と効用
不安障害のひとつとされる強迫性障害には、強い不安や恐怖心を打ち消そうと同じ行為を執拗に繰り返してしまう「強迫行為」と、同じ思考に繰り返しとらわれてしまう「強迫観念」の2つの特性があります。
多くのケースで、自分では道理に沿わないと十分わかっていながらも抑えることができず、日常生活や社会生活において多くの苦痛をきたすことが多くなっています。
たとえば、以下のようなことです。
・過剰な手洗いで手荒れや皮膚の損傷が悪化し、なかなか回復しない
・「ドアの鍵を閉め忘れたのでは?」と何度も確認せずにいられず、なかなか出発できない
・「誰かを傷つけてしまったのではないか」と極端に心配し、第三者に確認を迫る など
強迫性障害では、対象者本人の健康だけではなく、家族など身近な人の心理的な健康にも配慮する必要があります。作業療法士の国家試験では以下のような問題が出題されています。
《問題》作業療法士から家族へのアドバイスとして最も適切なのはどれか
【作業療法士】第57回 午後 15
24歳の女性。大学卒業後に事務職として勤務していたが、汚物が付着していないかと気になり、頻繁に手を洗い何度も確認するようになった。確認行為により仕事に支障をきたすようになり退職した。家族は本人の確認行為に応じていた。精神科を受診したところ強迫性障害と診断され、外来での作業療法が処方された。
作業療法士から家族へのアドバイスとして最も適切なのはどれか。
<選択肢>
- 1. 常に本人を監視するように伝える。
- 2. 本人の再就職を促すように伝える。
- 3. 家の中の消毒を徹底するように伝える。
- 4. 病気の原因を本人と話し合うように伝える。
- 5. 本人からの確認の要求に応じないように伝える。
解答と解説
正解:5
家族を支援する際に最も注意したいのが、対象者が家族に対し強迫観念や強迫行為を強制する「巻き込み」。自分の行為に対して家族に「確認」を迫ったり、時に強迫行為を「強要」したりするものです。
はじめのうちは対応できていても、家族の負担が増せば、主張に応じきれないこともあるでしょう。そうなると本人が抱える不安や恐怖が増大し、やがて怒りとなって家族を傷つけてしまう恐れもあります。家族に対しては「本人からの確認の要求に応じない」よう、その理由とともに伝えておくことが大切です。
臨床での活かし方~強迫性障害患者の作業療法の進め方~
強迫性障害は、薬物療法と曝露反応妨害法をはじめとした心理療法により症状の緩和と改善が期待できるといわれていますが、複雑な背景により慢性化・重症化してしまうケースも少なくありません。作業療法では、強迫行為や強迫観念があっても作業活動や集団活動が程よく遂行できることや、場に慣れていく体験を契機としながら、日常生活における課題や社会生活上の疲労・ストレスから自らを守るための技能獲得を進めていきます。
また強迫性障害は、出題事例にもある通り20歳代前後の成人に発症するケースが多いといわれていますが、神経発達的過程における問題として幼い子どもにも表れている可能性があります。自閉症スペクトラム障害でよくみられる「常同行為」は、同じ感覚を得続けることにより感覚の低減や安定化(自己制御)を図るために行っているという説があります。何らかの危険から自分の身を守ろうとするために行う「強迫行為」とは目的が異なります。
しかしながら、表面的には常同行為と思われていたなかにも、強迫的な背景が潜んでいたというケースもあるかもしれません。丁寧な行動の観察と、対象者の個人・環境因子を含めた全体像の把握をおこたらないようにしましょう。
中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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