作業療法士がMCIを評価する際のポイント
公開日:2017.06.12 更新日:2017.06.23
はじめまして。作業療法士の中山奈保子と申します。
私は「病気や障害、災害に負けない身体づくり」をテーマに、東日本大震災被災地の暮らしをお伝えする活動や、家庭介護と仕事・育児の両立を支援する専門職の育成など、作業療法本来の現場とは少しだけ離れた分野に身をおいております。作業療法の歴史や専門性が、皆さんの身近で起きる社会問題の解決に活かされるよう、お手伝いができればと思っております。
第1回目は、地域リハビリテーションの領域に携わる作業療法士として、もはや最前線の課題といっても過言ではない認知症高齢者および、その予備軍にある高齢者の支援について取り上げます。
厚生労働省の発表によると、認知症を患う高齢者の数は全国で460万人以上にのぼり、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)高齢者は約400万人いると推計されています(2012年・厚生労働省調査)。さらに、いわゆる団塊の世代が後期高齢者となる2025年までに、その数は現状の1.5倍にも増加すると予測されています。認知症の予防・治療は、まさに国家を挙げての一大プロジェクトとして取り組む必要があるでしょう。
今回は、国家試験の過去問から、軽度認知障害(MCI)についておさらいしましょう。

過去問題【作業療法士】
第51回 午前33:軽度認知障害(MCI)
軽度認知障害(MCI)と診断された患者に対し外来作業療法を開始する際の対応で最も優先すべきなのはどれか。
- 1. 記憶低下に対する不安の軽減
- 2. 記憶障害の改善
- 3. 身辺動作の改善
- 4. 攻撃性の軽減
- 5. 徘徊の軽減
解答
正解:1
■解説
MCIの段階では、2~5に挙げられる症状はほとんど現れないとされています(2・3は主に中核症状によるもの、4・5はBPSD)。ここでMCIの定義と概念について整理しておきましょう。
◆MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)
Petersenらによる定義
- 1) 本人または家族から記憶障害の訴えがある
- 2) 日常生活動作は支障ない
- 3) 全般的認知機能は正常
- 4) 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
- 5) 認知症ではない
主な症状
MCIでは、基本的ADLよりも手段的・拡大(高度)ADLが問題になりやすい。
- 1) 昔から知っている物の名前が出にくい(会話に代名詞が多い)
- 2) 最近の出来事を忘れることがある
- 3) 雑談をしにくくなった(最近のニュースや話題に関心が低い))
- 4) 積極性が低下する
- 5) 約束を忘れる・間違える
- 6) 料理に時間がかかる(段取りが悪い・味付けに変化が起こる)
※長谷川修:MCI(軽度認知障害)とADL(日常生活動作)、日本臨床内科医会会誌 : 207-211, 2016.より改変引用
MCIは「疾患」ではなくあくまでも「その状態を表す名前」ですが、その裏側には、うつ状態やごく初期のアルツハイマー型認知症、特発性正常圧水頭症などの疾患が潜んでいる可能性がなきにしもあらずです。作業療法士としては、注意深く広範囲に渡って日常生活を観察し、ご本人はもちろんご家族、多職種医療スタッフとのコミュニケーションを図り、些細なサインを見逃さないよう配慮します。
次回は、対象者さんの評価ポイントや状態の確認方法について、より具体的にご紹介します。

中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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