フレイル早期発見のポイントと介入の方法
公開日:2018.04.13 更新日:2021.08.04
日本はすでに高齢社会になっており、内閣府の「高齢社会白書(平成29年度版)」によると、平成28年10月1日現在、65歳以上の高齢者の占める割合は27.3%と、4人に1人は高齢者です。
フレイルとは?概念を理解して早期発見や予防に取り組もう
高齢者の場合、いろいろな原因で要介護状態となります。その原因は脳卒中などの病気以外に、高齢による衰弱や転倒・骨折などがあります。高齢による衰弱とほぼ同じ意味で、最近ではフレイルという概念が用いられています。入院患者も高齢者の占める割合が増えており、高齢者に対して理学療法を実施する場合に、フレイルの概念を理解して、早期発見や予防に取り組む必要があります。
今回は、フレイル早期発見のポイントと介入方法について、解説していきます。
《問題》フレイルの説明で正しいのはどれか。
【理学療法士】第52回 午前25
- 1. サルコペニアと関連がある。
- 2. 体重は増加している者が多い。
- 3. 虚弱高齢者とは区別される病態を有する。
- 4. 地域在住高齢者での該当者は2%程度である。
- 5. 精神的な活力の低下は判断の要素に含まれない。
解答と解答
正解:1
解説
Frailtyの記載は1968年のO’Brienら※1の論文が最初で、高齢者の脆弱性が亢進した状態として用いられました。その後、1980年代以降、予後予測や高齢者の機能評価、Frailtyの評価尺度の開発など、フレイルに関する研究が増加しました。
わが国では、Frailtyの訳語として当初は「虚弱」が用いられていましたが、2014年5月に日本老年医学会がその訳語として「フレイル」を用いることを提言しています。
図1にフレイルと加齢の関係を示した通り、高齢者は加齢に伴い、生理的予備能が徐々に低下して恒常性が失われていきます。健康な状態からフレイルという中間的な段階を経て、要介護状態に至ると考えられています。また、生理的予備能が低下することでストレスに対して脆弱になり、不活発な生活習慣、低栄養などがその経過に影響します。具体的には筋力低下や転倒のしやすさなどの身体的問題、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、一人暮らしや経済的な困窮などの社会的問題を含みます。
フレイルは適切な介入によって再び健康な状態に戻るという、可逆的な状態です。よって、フレイルの状態になった高齢者を早期に発見し、適切な介入を行うことによって、生活機能を維持・向上できることが期待されます。
フレイルの判定基準はいくつかの方法が用いられており、十分な見解の一致はみられていません。代表的な判定基準のFriedら※2の要件は、(1)体重減少、(2)筋力低下、(3)疲労感、(4)歩行速度の低下、(5)身体活動の低下の5つです。
これらのうち3つ以上該当する場合をフレイル、1~2つ該当する場合をプレフレイルとすることがあります。わが国で介護予防のために使用されている基本チェックリストは、25項目の中に、手段的ADL、運動器・転倒、栄養状態、口腔機能、閉じこもり、認知機能、うつの6領域が含まれており、フレイルのスクリーニングに使用できます。
フレイルの有症率は、国、地域、判定方法によって異なりますが、フレイルは概ね10%、プレフレイルを含めると50%に達します。男性より女性に多く、高齢になるほど有症率は高くなります。
過去問題の解答にあたるサルコペニアは、加齢に伴って生じる筋肉量の低下と機能的低下(筋力、歩行速度)を含む概念です。フレイルの重要な一因で、低栄養や活動量の低下などのフレイルの要素と悪循環(図2)を形成します※3。
フレイルを予防するためには、フレイル ・サイクルの悪循環を断ち、運動(レジスタンストレーニング、バランストレーニング、有酸素運動など)、栄養支援(食事量の確保、たんぱく質・ビタミンDの摂取など)、マルチタスクトレーニング、楽しみながら行える知的活動や人との交流などが有効とされています。
実務での活かし方
地域での介護予防事業や通所リハビリテーションなどで、定期的に評価を行い、プレフレイルやフレイルをできるだけ早期に発見することが重要です。プレフレイルやフレイルの状態の高齢者に対しては、その高齢者の個別性に配慮して、取り組みやすい介入プログラムを提案する必要があります。
ある病気や手術で入院した高齢者の場合、入院後にフレイルになることも少なくありません。ほとんどの高齢者が入院をきっかけにフレイルになる可能性があります。
過度な安静を減らし、治療による合併症をできるだけ予防して、不必要なチューブやカテーテルなどを使用しないことも大切で、できるだけ早い時期に離床して活動的な状態になるよう、支援する必要があります。
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※1 O’Brien TD , et al.: Some aspects of community care of the frail and elderly: the need for assessment. Gerontol Clin. (Basel) 10(4), 215-27, 1968.
※2 Fried LP, et al.: Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 56(3), M146-156, 2001.
※3 Xue QL, et al.: Initial manifestations of frailty phenotype in the Women’s Health and Aging Study II. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 63(9), 984-990, 2008
臼田 滋
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。
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