言語聴覚士による摂食嚥下機能の評価 各評価法の視点について
公開日:2019.03.08 更新日:2023.04.19
東京都言語聴覚士会所属の本田です。言語聴覚士養成校を卒業後、維持期病院、併設の小児科クリニック勤務を経て、現在は回復期病棟に勤務しています。
さて、われわれ言語聴覚士の業務の中で、摂食嚥下障害を持つ患者様に関わる頻度は非常に高く、その方の「食べたい」という気持ちに応えるには十分な知識が必要不可欠です。
今回は国家試験の問題から、嚥下機能評価について整理していきたいと思います。
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改訂水飲みテスト(MWST)とは?摂食嚥下機能のスクリーニングテスト(評価)について
過去問題【言語聴覚士】
第13回 午後 第184問
摂食・嚥下機能評価について誤っている組み合わせはどれか。
- 1.喉頭挙上開始遅延 - 嚥下造影検査
- 2.食物残留 - 内視鏡検査
- 3.湿性嗄声 - 頸部聴診法
- 4.silent aspiration - 水飲みテスト
- 5.随意嚥下運動 - 反復唾液嚥下テスト
解答と解説
正解:4
■解説
設問にある検査について解説します。
嚥下造影検査
嚥下造影検査(videofluoroscopic examination of swallowing:VF)は、X線を用いて嚥下の様子を透視し、誤嚥の有無の確認、誤嚥発生のメカニズムとその防止方法の検討を行うことが目的です。摂食・嚥下関連器官の動き、食塊の動き、嚥下反射惹起のタイミングや位置の評価が可能であるため、画面上で喉頭挙上開始を確認することができます。
嚥下内視鏡検査
嚥下内視鏡検査(videoendoscopic evaluation of swallowing:VE)は、ファイバースコープを用いて実際の食事場面の評価が可能で、VFと異なり被曝のリスクはありません。VEの利点としては、咽頭残留の検出に関して優れており、直視下でどの食材がどの程度、どこに残留しているかを直接観察することができます。また、唾液など分泌物の貯留・残留はVEでのみ評価が可能です。しかし、嚥下の瞬間は咽頭が収縮し閉鎖されるため、white outとなり観察できず、嚥下中誤嚥の検出は困難であることに注意が必要です。
頚部聴診法
頚部聴診法は、嚥下の際の咽頭部で生じる嚥下音、嚥下前後の呼吸音を聴取し、嚥下障害を評価する方法です。前述のVF、VEのような詳細な評価法ではありませんが、日常の臨床の場で簡便に実施できる方法として広く用いられています。嚥下前後の呼吸音に伴って湿性音が聴取される場合は、中咽頭・下咽頭・喉頭前庭に食塊や分泌物(唾液や痰など)が存在していることが予測されます。その際に発声を促すと、痰が絡んだような湿性嗄声が聴取されます。
水飲みテストと改訂水飲みテスト
水飲みテストと改訂水飲みテスト(modified water swallowing test:MWST)もまた、臨床的によく用いられるスクリーニングテストです。MWSTは冷水3mlを注射器で口腔底に注ぎ、嚥下するよう指示し、その際のむせ、呼吸変化、湿性嗄声の出現、追加嚥下の可否で評価します。注意点としては、前述のむせや呼吸変化、湿性嗄声により判定を行うため不顕性誤嚥(silent aspiration)は判断できない点が挙げられます。したがって、4の組み合わせは誤りです。
反復唾液嚥下テスト
反復唾液嚥下テスト(repetitive saliva swallowing test:RSST)は、嚥下機能のスクリーニングとして最も簡便な方法として用いられます。第二指で舌骨を、第三指で甲状軟骨を触知した状態で空嚥下を指示し、30秒間で何回嚥下できたかを評価します。甲状軟骨が指を十分に乗り越えた場合のみ1回とカウントし、3回/30秒未満であれば陽性(嚥下障害の疑いあり)と判断します。指示に従い随意的な嚥下運動により嚥下反射の惹起性を評価するため、注意の持続や覚醒が低下している場合には実施が難しい場合があります。
■実務での活かし方
私の勤務する病院においても、摂食嚥下障害の患者さんに対応する機会は非常に多いです。摂食嚥下障害を疑うポイントとして、関連のある主訴をピックアップします。
・食べられない、飲み込めない
・食事中にむせる
・よく咳が出る、睡眠中に咳き込む
・食事時間が長くなった
・食欲が低下した
・声がかすれる、ガラガラ声が出る
・よく発熱する
・体重が減った
こういった主訴が聞かれた場合や、患者さんの状態から観察された場合には嚥下障害を疑い、嚥下機能のスクリーニングを実施し評価を行います。
摂食・嚥下機能障害の診断には、嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)が主として用いられます。しかし、VFは少なからず被曝のリスクがあること、VEはファイバースコープ挿入による患者さんの苦痛、鼻腔内の刺激による出血の可能性等の侵襲が伴うため、必要な患者さんに対し必要なタイミングで実施すべきものです。また、上記の検査が実施できる設備がない病院や、訪問リハビリ先である患者さんの自宅などでは、簡便に実施できるスクリーニングテストの実施が必要となります。
病院での勤務でも同様、嚥下障害がある患者さんに対して、やみくもにVF、VEを実施することは適切ではありません。患者さん本人の全身状態の確認、家族からの情報収集、私たちのリハビリ介入以外の時間、特に夜間の様子などの看護師からの情報、そして前述のスクリーニングテストを実施した結果など、評価には様々な情報を統合する必要があります。
患者さんが安全に口から食べるには、我々STの嚥下機能評価が必要不可欠です。患者さん本人、ご家族の希望を伺いながら取り組んでいきましょう。
本田裕治(ほんだ ゆうじ)
東京都言語聴覚士会 職能局 吃音部 理事、 吃音当事者
2010年 国際医療福祉大学 保健医療学部卒業、言語聴覚士免許取得
桜水会 筑波病院、筑波こどものこころクリニック勤務
2014年~現在 王子生協病院勤務
2015年~2016年 国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 言語聴覚分野 修士課程修了。大学院では吃音当事者として「文節間のポーズ持続時間と吃音生起頻度の検討」について研究。
国際医療福祉大学卒業後、回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会 広報局所属。
東京都言語聴覚士会
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
活動内容や入会のお問い合わせはこちらから。
http://st-toshikai.org/
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