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糖尿病に対する運動療法で正しいのはどれか

公開日:2019.07.12 更新日:2023.09.11

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糖尿病は、インスリンの作用の低下により慢性の高血糖状態を生じる代謝性疾患です。軽度の場合には自覚症状がない場合が多いですが、中等度以上の高血糖が続くと、口渇、多飲、多尿、体重減少、易疲労感などの特徴的な症状を示します。1型糖尿病は、インスリンを合成し、分泌する膵臓のランゲルハンス島β細胞の破壊や消失がインスリンの作用が低下する主な原因です。2型糖尿病は遺伝的因子に、過食、運動不足、肥満、ストレスなどの環境因子と加齢が加わって発症します。

糖尿病の患者数は多く、「平成28年国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると、「糖尿病が強く疑われる者」の割合が12.1%、「糖尿病の可能性を否定できない者」の割合が12.1%で、「糖尿病が強く疑われる者」は約1000万人と推計され、平成9年以降増加しています。厚生労働省が対策に重点的に取り組むべきとして指定した五大疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)に含まれます。

そして、糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症の3大合併症を始め、いろいろな合併症を伴うことも特徴です。治療は食事療法、薬物療法、運動療法が行われ、運動療法には有酸素運動とレジスタンス運動があります。運動療法は注意して行う必要がありますが、いろいろな効果が期待できます。糖尿病の発症予防のため、進行・悪化の予防のため、適切に運動を行うことが必要です。

過去問題【理学療法士】

第53回 午前 第93問
糖尿病の運動療法で正しいのはどれか。

  1. 1.食後すぐに運動を開始する。
  2. 2.冷汗は高血糖発作の予兆である。
  3. 3.インスリン投与中は運動療法を中止する。
  4. 4.空腹時血糖値が高いほど運動量を増やす。
  5. 5.増殖性網膜症がある場合には運動強度を軽くする。

解答と解説

正解:5

■解説

血糖値の調節機構

血液中のグルコースの濃度である血糖値は、主に食事でグルコースを摂取すると血糖値は上昇し、脳や筋などを始め、全身の組織のエネルギーとしてグルコースが使用されて、血糖値は低下します。

このような血糖値の変動は、ホルモンによって調節され、だいたい一定の範囲に調節されています。血糖値を低下させるホルモンがインスリンであり、上昇させるホルモンにはグルカゴン、アドレナリン、糖質コルチコイドなどがあります。

図1 血糖値の調節機構

運動によって血糖値は低下するため、運動を行う時間帯が大切です。適度な運動によって食後の高血糖を抑えることが期待されますが、薬物療法による血糖値の低下と重なると低血糖が心配です。また、食後は、食べた物を消化するために胃に血液が集中します。この時期に運動を行うと消化を促す血液が胃に回らなくなり、腹痛や吐き気などの消化不良の症状を引き起こすことがあります。

このような点を考慮すると、運動は一般的に食後1時間頃が望ましいとされています。

運動による効果

運動には短期的な効果、長期的な効果、心理的効果などの様々な効果があります。

表1 運動の効果

特に運動によって血糖値が低下すること、インスリン抵抗性が改善することが重要です。インスリン抵抗性は、インスリンに対する感受性が低下して、インスリンの作用が十分に機能しない状態で、インスリンが分泌されていてもその作用が鈍くなっている状態です。

低血糖の症状

低血糖は、血糖値が正常範囲以下へ急速に降下した状態です。冷汗や動悸などの交感神経の症状と、頭痛、意識レベルの低下などの中枢神経症状があります。

表2 低血糖の症状

薬物療法中の場合に起こりやすく、ブドウ糖やそれに代わるもの(飲料など)を必ず携行して、低血糖と感じたらすぐに摂取する必要があります。

運動を禁止・制限した方がよい場合や運動に伴う注意点

運動による効果はありますが、状態によっては運動を行うことで、状態が悪化することもあります。運動には、代謝系のリスク(高血糖の悪化、低血糖)、細小血管系のリスク(眼底出血、神経障害)、大血管系のリスク(虚血性心疾患、血圧上昇、起立性低血圧)、筋骨格系のリスク(糖尿病足病変、変形性関節症)などがあり、注意が必要です。合併症を認める場合などには、運動を禁止あるいは制限したほうがよい場合があります。

表3 運動を禁止あるいは制限したほうがよい場合

空腹時血糖値が極端に高い場合には運動は禁止です。このような場合以外にも、運動開始前のメディカルチェックが必要です。また、インスリンなどの薬物療法中の場合には、低血糖になりやすい時間帯があるので、その時間帯は避けて運動を行うなどの注意が必要です。

糖尿病網膜症の場合には、運動による血圧上昇や血流増加により、網膜の血管から出血するリスクがあります。重度な単純網膜症や増殖前網膜症では血圧の影響が少ない軽い運動とし、息を止めたり、頭を下げたり強く振る運動は行わないようにします。増殖網膜症は日常生活程度の運動は制限する必要がありませんが、積極的な運動は禁止です。適切な眼科の治療で進行が止まれば運動を再開することができます。

【実務での活かし方】
アメリカスポーツ医学会で糖尿病患者さんのために推奨されている運動処方1)は以下のとおりです。
有酸素運動
頻度:3~7日/週
強度:主観的運動強度12~16、心拍数予備能の50~80%
時間:20~60分/日、150分/週
レジスンタンス運動
頻度:48時間以上の間隔を空けて2~3日/週
強度:60~80% 1RM*、8~12回/セット、2~3セット
時間:1回のセッション中に大筋群を使用した8~10の多関節運動
*1RM:1 repetition maximum 1回しか運動できない負荷・重さ

運動の禁止や制限の必要のない患者では、定期的なメディカルチェックとリスク管理を行いながら、十分な運動を行うと様々な効果が期待できます。

日常の臨床では、糖尿病の診断名だけの患者は多くはなく、脳梗塞、虚血性心疾患、末梢閉塞性動脈疾患、糖尿病腎症、糖尿病神経障害、糖尿病足病変(潰瘍・壊死)、それによる下肢切断などの患者さんに対して理学療法を実施することが多いでしょう。

このような場合に、糖尿病の症状や治療の状況などの情報収集が必須です。発症から現在までの経過、血糖値の状態、経口薬やインスリンなどの薬物療法、食事療法、合併症の状態などを考慮します。特に薬物療法の時間帯やそれに伴う血糖値の変動を知っておくことがとても重要です。

1) 日本体力医学会体力科学編集委員会 監訳:運動処方の指針 原書第8版、南江堂、2011

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理学療法における糖尿病患者の運動療法とリスク

臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。

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