脳機能障害を基盤としたADHD(注意欠如・多動症)の学童期における支援体制について
公開日:2020.08.26
ADHD(注意欠如・多動症)とは、極端な多動性、衝動性、不注意を主症状とし、乳幼児期あるいは小児期にあらわれ、小学生の3%~7%にみられるといわれています。
生まれながらもった脳機能の異常から生じた障害と考えられており、家庭や学校生活において、さまざまな困難を抱えることがあります。特性が理解されずに、保護者や学校の先生、同級生などから不適切な行動を強く指摘され続けると、自尊心の低下、無力感、引きこもりなど、二次障害の悪循環に陥り、子どもの心理的発達や社会生活への適応に多大な影響を与えてしまう可能性があります。
ADHDの子どもにとって、学童期のはじめ(小学校低学年)の段階は、子ども自身が障害を乗り越えるスキルを獲得するために、特に重要な時期。小学校高学年、思春期、青年期に向けて深まる自己理解を支えるためにも、学童期のはじめに成功体験を重ね、自己肯定感を高めることが大切です。保護者や教師には、当事者の特性を理解した、柔軟なコミュニケーションが求められます。
作業療法士国家試験では以下のような問題が出題されています。
過去問題【作業療法士】
第52回 午前 19問
7歳の男児。幼児期から落ち着きがなく、他の子供から遊具を取り上げる、列に並べない、座って待てないことが多かった。小学校入学後も、周囲の生徒の文房具を勝手に使う、課題に集中せず席を離れるなどが頻繁にみられていた。自宅でも落ち着きがなく、母親が注意すると興奮する状況であった。この男児について作業療法士が担当教員から相談を受けることになった。
担当教員への助言内容として適切なのはどれか。
- 1.注意・叱責は強く行う。
- 2.男児の席を教室の中心に設ける。
- 3.望ましい行動が生じたら直ちに褒める。
- 4.不得意なことは時間を要しても習得を目指す。
- 5.集団生活に必要なルールを本人に詳しく説明する。
解答
正解:3
■解説
選択肢の中で、担当教員への助言としてふさわしいのは、選択肢3の「望ましい行動が生じたら直ちに褒める」です。集団生活のなかでは、不適切な行動に目が行きがちですが、長所に注目して伸ばしていくようなサポートが求められます。男児は褒められることで、ポジティブなセルフイメージを持つことができ、自己評価を高めていけるでしょう。
選択肢1の「注意・叱責は強く行う」といった対応は、自分の行動を振り返り、学校生活でのルールを学習させるうえで大切な機会です。しかし、強い注意や叱責が続くと、劣等感や疎外感を助長し、自己評価の低下を招きます。周囲の同級生にからかわれるきっかけになることもあり、自信を喪失して本来学ぶべきルールや経験に目が向かなくなってしまう可能性があります。
選択肢2の「男児の席を教室の中心に設ける」や選択肢4「不得意なことは時間を要しても習得を目指す」のような対応にも注意が必要です。周囲の注目が過度に集まる環境や、失敗体験がフォーカスされ過ぎる経験は、否定的なセルフイメージにつながりやすく、自尊感情に影響を及ぼすかもしれません。
選択肢5「集団生活に必要なルールを本人に詳しく説明する」は、ADHDの特性を考慮すると、適切な対応ではありません。ADHDでは、他人の話を注意深く聞いたり、一度にたくさんのことを消化したりすることが難しい傾向があります。ルールは一度に伝えようとせず、場面に応じて短くわけ、ひとつひとつ伝えるのがベターではないでしょうか。
■実務での活かし方
仕草や表情からも情報をキャッチしやすいface to faceのコミュニケーションが大切。行動を言葉で振り返る体験を重ねながらも、絵や写真を使って視覚的に伝える工夫を加えることもおすすめです。
先生との関わりのなかで目的・目標が明確になれば、望ましい習慣を促すチャンスが生まれます。また、学校生活のなかで、不安や緊張を強いられ、ストレスを発散できずにいる可能性も忘れてはなりません。児童が自分の思いや感情を安心して表現できる場をもてるよう配慮すると良いでしょう。
[出典・参照]
第52回理学療法士国家試験、第52回作業療法士国家試験の問題および正答について(厚生労働省)
第52回作業療法士国家試験問題
中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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