前鋸筋とはどんな筋肉?おもな作用や翼状肩甲との関連性を解説
公開日:2025.03.31
文:内藤 かいせい(理学療法士)
前鋸筋とはどのような筋肉なのか、どのような作用があるのか知りたい方はいませんか?前鋸筋は背中からわきにかけてついている筋肉で、肩甲骨の動きに関係しています。また、この筋肉に関連する症状として代表的なのが、「翼状肩甲」です。
この記事では、前鋸筋の作用や筋トレ、ストレッチの内容をご紹介します。前鋸筋について知ることで、肩の動きに関する知識を深めるきっかけとなるでしょう。
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前鋸筋とはどんな筋肉?
前鋸筋は、肋骨から肩甲骨にかけてついている筋肉です。前鋸筋は広範囲の肋骨についており、複数の筋腹があるのが特徴です。前鋸筋の具体的な起始・停止や支配神経を以下の表にまとめました。
起始 | 第1〜8(または〜10)肋骨前外側面 |
---|---|
停止 |
肩甲骨上角(第1〜2肋骨から) 肩甲骨内側縁(第2〜3肋骨から) 肩甲骨下角(第4肋骨以下から) |
作用 |
肩甲骨の前方突出 肩甲骨の外転、上方回旋 上部線維:肩甲骨の前下方への移動 下部線維:肩甲骨の下方への移動 |
支配神経 | 長胸神経(C5〜C7またはC8) |
触診方法としては、まず被検者を背臥位にして肩関節を90度屈曲します。そこから腕を天井に向けて肩甲骨ごと前方突出してもらうと、大胸筋と広背筋の間で筋腹を触知できます。
前鋸筋の作用
前鋸筋はおもに肩甲骨の動きに関係する筋肉で、線維によって作用が変化するのが特徴です。前鋸筋全体としての作用は、以下のとおりです。
● 外転
● 上方回旋
前鋸筋の上部線維、つまり第1〜2肋骨から肩甲骨上角あたりの作用が働くと、肩甲骨を前下方に引きます。また、第4肋骨より下から肩甲骨下角あたりの下部線維が働くと、肩甲骨を下方に引く作用となります。
前鋸筋のMMTが肩関節屈曲の肢位で行うこともあり、基本的は全体的な作用で覚えることが多いでしょう。しかし、線維によって作用が変化する点をおさえておくと、前鋸筋を細分的にアプローチする際に役立ちます。
前鋸筋の問題によって起こる身体の不調
前鋸筋の衰えや緊張が続くと、身体にどのような不調が現れるのでしょうか。ここでは、前鋸筋に関係する身体の不調を解説します。
肩の動きの悪さ
前鋸筋の使いすぎや緊張によって硬くなると、肩甲骨の動きが悪くなります。肩や腕を動かすためには、肩甲骨のスムーズな運動が重要です。前鋸筋が硬くなると起始と停止が近づき、肩甲骨が体幹に押し付けられるようになります。そのため、上肢の土台といえる肩甲骨の動きが悪くなり、結果的に動作の制限が現れやすくなるのです。
また、肩甲骨の動きを代償するために肩関節を大きく動かそうとして、運動時の負担が増加しやすくなります。その結果、肩の痛みを引き起こすこともあるでしょう。
姿勢不良による肩こり
前鋸筋の硬さは、姿勢の悪化を引き起こす原因の1つです。前鋸筋が硬くなると肩甲骨が体幹に押し付けられると同時に、外側に広がりやすくなります。肩甲骨が外転すると背骨が丸くなりやすくなり、猫背の姿勢につながります。その結果、肩や腰の筋肉に負荷がかかり、肩こり・腰痛などの身体の不調を引き起こしやすくなるのです。
とくにデスクワークをはじめとした、同じ姿勢を長時間続ける習慣がある方は注意が必要です。姿勢不良によってさらに前鋸筋が硬くなる悪循環に陥ることもあるので、定期的なストレッチや姿勢のチェックを心がけましょう。
前鋸筋と関係する翼状肩甲とは?
前鋸筋と関係の深い症状として、「翼状肩甲」があげられます。ここでは、翼状肩甲とはどのような状態なのか、どのような影響があるのかを解説します。
腕挙上時に肩甲骨が浮き上がること
翼状肩甲とは、腕を挙上したときに肩甲骨が浮き上がる状態のことです。浮き上がった肩甲骨が鳥の羽のように見えることから、「翼状肩甲」と呼ばれています。正常な肩の動きでは、腕を90度以上挙上する際に、前鋸筋とその周囲の筋肉によって肩甲骨が前上方に移動します。
しかし翼状肩甲の場合、前鋸筋がうまく作用しないことで肩甲骨が前上方に移動せず、内側縁が後方に浮き上がってしまうのです。翼状肩甲になると、肩甲骨が正常に動かなくなるので、肩関節の動きに支障をきたす恐れがあります。
翼状肩甲は前鋸筋の筋力低下によって生じる
翼状肩甲は前鋸筋がうまく働かなくなることで起こり、その原因としては筋力低下があげられます。前鋸筋の衰えによる筋力低下だけでなく、支配神経である長胸神経が障害されることでも発症します。長胸神経が障害されるきっかけとしては、以下のとおりです。
● 腕を挙上した状態で長時間側臥位になる
● 重いリュックや荷物を持つ
これらの運動や肢位は長胸神経を伸張または圧迫する恐れがあるため、障害が現れやすくなります。翼状肩甲の治療・予防では、まずは上記のような原因を避けることが大切です。長胸神経に負荷がかからないような生活を続けることで、翼状肩甲の改善が期待できます。翼状肩甲による障害が強い場合は、装具を使用して肩甲骨を固定する場合もあります。
前鋸筋の筋トレの方法
前鋸筋の衰えを予防するためには、筋トレの実施が重要です。ここでは、前鋸筋の筋トレ方法についてご紹介します。
1. あお向けになる
2. 片方の肩関節を90度屈曲し、腕を天井に向かって伸ばす
3. 手のひらを天井の方向に向ける
4. 肩甲骨を床から離して、天井に向けて腕を真上に伸ばす
5. もとに戻る
6. 4〜5の手順を左右で10〜15回×2〜3セット行う
1. うつ伏せになり、両手を床につける
2. 両腕を肩幅程度またはやや広めに開く
3. 両手と両足で身体を支える
4. 身体を一直線にしつつ、肘を曲げてゆっくり上体を下げる
5. 上体を床につく直前まで下げたら、ゆっくりと上体を上げる
6. 4〜5の手順を10〜20回×2〜3セット行う
1. うつ伏せになり、肘と前腕を床につける
2. 両腕は肩幅程度に開く
3. 肘・前腕と両足で身体を支え、一直線の状態をキープする
4. 肘で床を押すイメージで背中を丸める
5. もとに戻る
6. 4〜5の手順を10〜15回×2〜3セット行う
前鋸筋のストレッチの方法
前鋸筋が硬くなっている方は、ストレッチで筋肉の柔軟性を高めましょう。ここでは、前鋸筋のストレッチの方法をご紹介します。
1. 側臥位になり、下方向の脇の下にクッションや丸めたバスタオルを置く
2. 上側の腕を頭の上まで持ち上げる
3. クッションやバスタオルを支点にしながら、上側の脇の下を伸ばす
4. 20秒ほどキープしたらもとに戻る
5. 左右で行う
1. 四つ這い位になり、前にイスや台を用意する
2. イスや台に両手を乗せる
3. 胸を床方向に下げて脇の下を伸ばす
4. 20秒ほどキープしたらもとに戻る
前鋸筋の作用やアプローチ方法をおさえよう!
前鋸筋は肩甲骨を制御して、上肢をスムーズに動かせるようにしている筋肉です。この筋肉は、上部・下部線維によって作用が異なるのも特徴です。
前鋸筋の衰えや麻痺によって筋力が低下すると、肩甲骨が浮き上がる翼状肩甲を発症することもあります。ぜひ今回の記事を参考にして、前鋸筋に対するアプローチをしてみましょう。

内藤 かいせい
理学療法士として回復期病院と訪問看護サービスに従事し、脳血管疾患や運動器疾患などの幅広い症例を経験する。リハビリで患者をサポートするとともに、全国規模の学会発表にも参加。 新しい業界にチャレンジしたいと決意し、2021年に独立する。現在はWebライターとして活動中。これまでの理学療法士の経験を活かして、医療や健康分野で多くの執筆・監修に携わっている。
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