アドバイスした移乗方法を実践してくれない病棟スタッフ|セラピストのお悩み相談室
公開日:2025.04.22
文:鈴木 康峻(理学療法士)
イラスト:山本 香里
日常生活や仕事の中で、心の中にモヤモヤや不安を抱えている方も多いのではないでしょうか?友人や家族には話しづらい悩みも、専門家に相談することで新たな気づきや解決策が見つかることがあります。
「セラピストのお悩み相談室」では豊富な経験を持つセラピストが、あなたの悩みに真摯に向き合い、具体的なアドバイスをお届けします。
おすすめ特集
お悩み|アドバイスした移乗方法を実践してくれない病棟スタッフ
病棟スタッフに移乗介助の方法をアドバイスしましたが、実践してもらえず困っています。安全で適切な移乗介助の方法が定着するにはどうすればよいでしょうか。
お悩みの詳細
回復期リハビリ病棟で働いて3年目の理学療法士です。
先日、介助量の多い患者さんの担当になり、病棟スタッフから移乗方法について相談を受けました。
そこで安全に介助できる方法を提案し、実際にデモンストレーションを行いましたが、「その方法だと時間がかかる」「忙しい時間帯にはできない」と反発されてしまいました。
どうすれば適切な方法で行ってもらえるのでしょうか
回答|病棟スタッフの業務の実態を理解したうえで、共に解決策を考えてみましょう。
病棟スタッフとの連携は難しいですよね。
私も以前、同じような経験をしました。新しい移乗方法を提案したのになかなか実践してもらえず、もどかしい思いをしたことを覚えています。
うまくいかないのは、相手が受け入れられる状況であるかを確認せずに話を進めてしまうからかもしれません。
病棟スタッフとの協力関係を築くポイントを以下の4つにまとめてみましたので、参考にしてみてください。
1.現場の実情を知る
まずは病棟の業務の流れや人員配置、特に忙しい時間帯などを知ることから始めましょう。
可能であれば申し送りに参加したり、実際の介護・看護場面に立ち会わせてもらったりすると、より具体的な課題が見えてきます。
・朝の忙しい時間に2人介助の調整が難しい
・手順が細かく、すべて実施している余裕がない
といった、現場ならではの課題が見えてくるはずです。
2.場面を指定して導入する
いきなりすべての場面で実践しようとせず、比較的時間に余裕のある日中から始めるなど、段階的に導入してみましょう。
また、時間帯や状況によって複数の方法を提示しておくことも有効です。その際は、どのような状況でどの方法を選択するか、明確な基準を設けましょう。
・早番、日勤、遅番のスタッフ全員が揃っている時間帯は新しい方法で実施する
・朝の忙しい時間帯は従来の慣れた方法で実施する
といったように、時間帯や状況に応じて選択肢を設けるのがおすすめです。
3.メリットを具体的に示す
「なぜこの方法が良いのか」を、スタッフにとってのメリットも含めて説明しましょう。
現場で具体的な効果を感じられると、取り組む意義を実感してもらいやすくなるからです。
・腰への負担が少なく、介助者の負担が軽減される
・患者さんの残存機能を活かすと、将来的に介助量の軽減が期待できる
・転倒リスクが軽減してインシデント予防につながり、事故報告書を作成する頻度が減る
このように具体的なメリットや効果を示すと、新しい方法を受け入れてもらいやすくなります。
4.定期的なフォローアップを行う
導入後も定期的に実施状況を確認し、困っている点がないかを聞いてみましょう。
また、申し送りやカンファレンスなどの機会も活用し、効果や課題を共有することも大切です。
「〇〇さん、最近立ち上がりが楽になってきましたね」
「日頃から協力していただいたおかげで、排泄が自立できそうです」
「移乗に時間がかかってしまう場面があれば教えてください」
「ベッドの位置や高さなどの環境で困ることはありませんか?」
など、具体的に伝達や確認をすると、より良好な関係が築けるでしょう。
また、スタッフから出された課題に対しては、一緒に解決策を考えていく姿勢を示すことが大切です。
リハビリ専門職として患者さんのために良い方法を提案することは大切ですが、それを現場で活かすためには、病棟スタッフとの信頼関係が不可欠です。
相手の状況を理解し、共に患者さんのケアを良くしていく仲間として接することで、より良い連携ができると思います。
ぜひ、これらのポイントを意識して取り組んでみてくださいね。

鈴木康峻(理学療法士)
2008年に理学療法士の免許を取得。介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。リハビリテーション業務のかたわら、医療・介護ライターとして高齢者の疾患や制度などのさまざまな記事を執筆している。理学療法士の現場で働いているからこそ得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆を心がけている。