自立支援とは何だろう?|セラピストのお悩み相談室
公開日:2025.09.03 更新日:2025.09.08

文:鈴木康峻(理学療法士)
日常生活や仕事の中で、心の中にモヤモヤや不安を抱えている方も多いのではないでしょうか?友人や家族には話しづらい悩みも、専門家に相談することで新たな気づきや解決策が見つかることがあります。
「セラピストのお悩み相談室」では豊富な経験を持つセラピストが、あなたの悩みに真摯に向き合い、具体的なアドバイスをお届けします。
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お悩み|自立支援とは何だろう?
回復期病院から特養に転職しました。「ADL能力を向上させること=自立支援とは限らない」と言われて困惑しています。
これまでのADLに対する私の考え方と違うため、いまいちピンときません。
お悩みの詳細
回復期病院で働いて3年目の作業療法士です。これまで、できるだけADLの自立度を高めることが自立支援だと考えてきました。
しかし半年前に特養へ転職したところ、「能力を高めることだけが自立支援ではない」と施設長から指摘されました。
これまでの自分の考え方が強すぎるのか、その意味が理解できません。特養ではリハビリスタッフが私しかおらず、リハビリに関する相談ができず困っています。
自立支援についてわかりやすく教えてください。
回答|自立支援とは単に「できること」を増やすのではなく、その先にある「生きがい」や「QOL」を見据えたアプローチです。

ご質問ありがとうございます。
私には特養での勤務経験はありませんが、老健での長年の経験をもとにお伝えできればと思います。
回復期では短期間で機能・能力の回復を目指すため、「できることを増やす」という目標設定が中心になりがちです。
一方、特養では、生活の場としての役割が強くなるため、より長期的な視点で「その人らしい生活」を考えることが求められます。
実際に私が関わった事例をお話ししますので、少しでも参考になればと思います。
「できること」が生活を妨げたケース
ある80代の女性利用者さんで、脳梗塞を発症後に回復期を経て老健に入所された方の話です。入所時の排泄動作は見守りレベルでしたが、リハビリにより自立され、ADL面では一定の回復が見られました。
しかし、入所後しばらくして気になる行動が見られるようになったのです。頻繁にトイレへ行きたがり、15分おきにトイレで座ることが増えました。尿意の有無にかかわらず「おしっこ、おしっこ」と言いながら、何度もトイレへ向かうのです。
この状態では、集団体操やレクリエーションへの参加もできず、趣味だった書道活動にも足が向かなくなっていきました。トイレに行くこと自体が目的になり、QOLが著しく低下してしまったのです。
あえて「できること」を手放す選択
そこで私たちは多職種でカンファレンスを行い、ご本人の生活全体を見据えたうえで、あえてオムツを使っていただくことを提案しました。
「自力で排泄できるのに、オムツを使うのはどうなのか」といった懸念の声もありましたが、ご本人のQOLや参加の幅を重視した結果、試行的に実施することになりました。
すると驚くべき変化が起きたのです。トイレへの過度な依存から解放され、決まった時間に「オムツを交換してください」と訴えるようになり、心理的余裕が生まれました。
その結果、レクリエーションや書道にも参加できるようになり、他の利用者さんとの交流も増えたのです。表情も明るくなり、「また筆を持ててうれしいです」ということばも聞かれるようになりました。
自立支援とは生きがいを支えること
この事例から学べることは、「動作レベルでの自立」だけを見るのではなく、その先にある生活や生きがいを見据えることの大切さです。
排泄はあくまで手段であり、やりたいことや楽しい活動に参加できるように支援することこそが、自立支援の本質ではないでしょうか。
「自立支援」とは、おそらく以下の視点を含んでいるのだと思います。
2.「したいこと」「大切にしていること」を中心に据えて支援する
3.意図的な介助によって、利用者さんの心身負担を軽減するという選択肢もある
ADLの能力向上は自立支援の重要な一側面ですが、それがかえって利用者さんの負担になることもあります。だからこそ、「できることの先にどのような生きがいがあるのか」という視点で考えてみてください。
そうすることで、指摘された「ADL能力を向上させること=自立支援とは限らない」ということばの意味が、きっと腑に落ちるのではないかと思います。
参考になれば幸いです。

鈴木康峻(理学療法士)
2008年に理学療法士の免許を取得。介護老人保健施設にて入所・通所・訪問リハビリに携わる。介護認定調査員・介護認定審査員・自立支援型個別地域ケア会議の委員なども経験。リハビリテーション業務のかたわら、医療・介護ライターとして高齢者の疾患や制度などのさまざまな記事を執筆している。理学療法士の現場で働いているからこそ得られる一次情報を強みに、読者の悩みに寄り添った執筆を心がけている。
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