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第13回作業療法における、生活と音~震災体験から考える

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東日本大震災で体験した、生活音のない暮らし

あなたは、まったく音のない暮らしを想像できますか?

物音がしない静かな部屋で目を閉じると、遠くで時計の針が動く音や空調の音が聞こえることに気づくかもしれませんね。

私が、まったく音のない時間を体験したのは、2011年3月に発生した東日本大震災の時でした。海沿いの自宅の2階に避難すると、あっという間にあたりが真っ暗になりました。時折、津波で流された瓦礫と瓦礫がぶつかり合う音が聞こえましたが、それさえ聞こえなくなると、言葉にならない不安、恐怖感を覚えた記憶があります。

夜が明けてまず気付いたのは、「今、何時なのかわからない」ということでした。
ポストに新聞が入る音、ご近所さんが飼い犬を連れて歩く音が聞こえたら、そろそろ起きる時間。家族が起きてドアを開ける音、水道の水が流れる音、コップを置く音がしたら、行動開始。……普段、当たり前に聞こえていた音(生活音)は、何気なくこなしていた日課を起こす重要なスイッチになっていたのでしょう。

時計もない、生活音もないという状況では、ただただ、ぼーっと過ごすだけで何の考えも浮かんできません。時間の感覚はもちろん、いま自分が何をすればよいか見当がつかない状態に陥りました。

そこに偶然、難を逃れた飼い猫が階段をのぼる音が聞こえました。飼い猫の足音は、子どもたちを起こす時間の合図です。飼い猫の足音が聞こえたとき、「ああ、自分は命を落とさずにすんだのだ」と実感し、子どもたちの元へ行かなくてはと身体が震え上がりました。馴染みのある生活音は、私は「ここに在る」という感覚を引き戻してくれたのだと思います。


音楽で心を癒し、現実に向き合う準備を整える

震災に遭い、生活音が消えてしまった体験は、病気や障害により身体の自由が奪われ、生活が一変してしまった方々の体験に通じるものがあるかと思います。普段意識しなくても身体に入っていた音や光、重さ、温かさなどの感覚が突然消えてしまったら、「何に困っていますか?」「何をしたいですか?」などと聞かれても、全く思考が働かない、「一緒にやってみませんか?」と誘われても、興味がわかない感覚も理解できます。
まずは、その方が「ここに在る」感覚:現実に触れるきっかけづくりが必要です。

もちろん、はじめから辛い現実に真正面から向き合うのは避けたいところ。例えば、毎日の通勤で聞いていたお気に入りの曲をヘッドフォン越しに聞いたなら、病前の暮らしにふと立ち返るような、自分を見つめる時間になる一方で、思い通りに動かせなくなった身体と現実に直面し、不安や恐怖、絶望感を掻き立てられているかもしれません。

たとえば、小さな頃にお友達と歌った懐かしい曲を聞いたり、歌詞の世界を思い描きながら昔話をしたりするなど、一度、思い切り現実から離れる時間を作るのもアイデアの1つです。そうすることで、少しずつ現実に向き合えるような「準備」が整います。もともと、音楽には、ストレスや不安を軽減させたり、脳を活性化させる効果があることがわかっていますので、歌以外にも、鳥の鳴き声や小川のせせらぎをイメージさせるBGMを流したり、いつもとはちょっと違う雰囲気づくりを試み、現実に向き合える時期を見極めるのも、私たちの仕事ではないでしょうか。

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中山 奈保子(なかやま なおこ)

中山 奈保子(なかやま なおこ)

作業療法士。
1998年作業療法士免許取得後、宮城県・福島県内の病院および施設、作業療法士養成校の専任教員等を歴任。
2011年、東日本大震災で被災したことを期に災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足後、二児の母・作業療法士として「病気や障害、災害に負けない心と身体を」をテーマに執筆・講演活動などを行っている。2018年より、学校法人 葵会学園「千葉・柏リハビリテーション学院」作業療法学科教員。


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