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急性中毒患者への適切な初期対応は?2019.04.03

セラピストプラス編集部からのコメント

患者さんのご自宅訪問の折や、プライベートでもかなりの確率で遭遇するのが間違った薬などを飲んで起きる急性中毒。そんなときの行動と基本的な考え方は?
福島県立医科大学地域救急医療支援講座教授、小野寺 誠先生が回答します。

【質問】

中毒をきたす物質は,自然毒,洗剤や農薬などの薬剤,医薬品など実に様々です。またこれらに曝露するきっかけも不慮の事故,自傷,犯罪などいろいろなケースがあります。その一方で必ずしも中毒診療に詳しい医師が対応できるとは限りません。そこで,決して少なくない急性中毒患者への適切な初期対応についてご教示頂きたいと思います。福島県立医科大学・小野寺 誠先生にお伺いします。

【質問者】

織田 順 東京医科大学救命救急センター主任教授


【回答】

【初期対応で安定したあとでも全身状態の変化を見逃さないことが大切】

救急医療現場における初期対応には,急性中毒疾患に限らず2つの大きな目標があります。第一はABCアプローチで生命の危険を察知しバイタルサインの安定化をめざすこと,第二は原疾患の鑑別と根本治療を進めることです。

第一のABCアプローチでは,気道(A:airway),呼吸(B:breathing),循環(C:circulation)の順に全身状態の評価を行い,異常を認めれば適切な処置を迅速に行います。たとえば,舌根沈下や誤嚥に対して,必要であれば気管挿管の上で人工呼吸器管理とします。また,心毒性による急性心不全や致死性不整脈など循環が破綻している場合には,除細動や体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)の導入を考慮します。

次に原疾患の鑑別と根本治療へ進みますが,急性中毒の原因物質は医薬品,工業用品,農業用品,自然毒,有毒ガスなど多岐にわたります。救急医療現場では迅速尿中薬物検査キットが有用ですが,原因物質を特定することが困難なことも多く根本治療にもつながりません。このような現状から,中毒物質をおおまかにグループわけし,グループごとに対処法を規定するトキシドローム(toxic syndromeを縮めた造語)という概念が提唱されています。日本中毒学会では刺激性ガス,窒息性,コリン作動性,腐食剤,炭化水素・ハロゲン化炭化水素と5つのトキシドロームに分類1)しており,これによって特定の中毒物質まで絞り込まなくても治療につながる二次評価が可能となります。

以上の初期対応の中で注意すべきことは,急性中毒疾患では,経時的に症状が進行することや,遅発性に症状が出現することがあるということです。すなわち,初期治療時の現症のみですべてを判断せずに,継続してバイタルサインを測定し中毒による全身状態の変化を見逃さないことが大切です。

また,発生原因は不慮の事故,自殺,犯罪など多彩であることから情報聴取が重要です。原因医薬品をインターネットで入手している場合や多種の薬剤を服用している場合,販売中止となっている古い農薬を服毒した場合など原因物質の特定が困難なケースを経験します。本人や家族,知人はもちろんのこと,発生現場で活動を行っていた救急隊,警察からの情報で原因物質が判明することもあります。過量服薬症例では既往歴を確認した上で精神科との連携も大切です。

中毒物質が判明した場合の特異的対処や拮抗薬の詳細は,中毒専門書を参照したり,日本中毒情報センターに問い合わせることも有用です。重症の場合は,無理せずに中毒専門医のいる救命救急センターへ紹介すべきと考えます。

【文献】

1) 日本中毒学会, 編:急性中毒標準診療ガイド. じほう, 2008, p9-14.

【回答者】

小野寺 誠 福島県立医科大学地域救急医療支援講座教授

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出典:Web医事新報

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