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久里浜医療センターのアルコール依存症治療法2019.05.16

セラピストプラス編集部からのコメント

依存症治療でよく知られる国立病院機構久里浜医療センターのアルコール科、湯本洋介先生と樋口進院長がアルコール依存症の治療法について解説します。
アルコール依存症の治療では、認知行動療法などの心理社会的治療が主体で、薬物療法は補助的に使い、やめた後にふたたび飲酒を始めないようにする予防が重要です。

▶アルコール依存症とは
アルコール依存症は,アルコール使用がその人にとって以前にはより大きな価値を持っていた他の行動より,はるかに優先するようになる一群の生理的,行動的,認知的現象と説明される。アルコールを使用したいという欲望はしばしば強く,抵抗できない1)。

▶診断のポイント
ICD-10のアルコール依存症の診断基準によれば,以下の6項目のうち3項目以上が,1カ月以上にわたり同時に生じていたか,1カ月未満の場合は12カ月以内に繰り返し同時に生じた場合にその診断を下すことができる。

以下にアルコール依存症の6項目の症状を示す。①渇望:飲酒したいという強い欲望,切迫感,②自己制御困難:物質摂取行動(開始,終了,量の調節)を制御することが困難,③離脱:アルコールの中止や減量による離脱症状の出現,④耐性:反復使用による使用料の増加,⑤アルコール使用のために本来の生活を犠牲にする。アルコールに関係した活動(使用,影響からの回復)に費やす時間が増加する,⑥有害性(心身に問題を生じている)があるにもかかわらず飲酒を続ける1)。

▶私の治療方針・処方の組み立て方
アルコール依存症の治療では,認知行動療法などの心理社会的治療が主体となり,薬物療法は補助的役割を担う。以下に述べるアルコール解毒と,それに続く再飲酒の予防について解説する。

【アルコール解毒】
飲酒の制御困難の典型として連続飲酒がある。連続飲酒とは,酒を数時間おきに飲み続け,絶えず体にアルコールのある状態が数日〜数カ月も続く状態である。初めは酔いを求めてこの飲酒パターンを始めても,やがて酒が切れると離脱症状が出るので,それを抑えるために飲む,というパターンに変わっていく。連続飲酒や離脱症状を抑えるためにまずはアルコール解毒を行う。

第一選択薬はベンゾジアゼピン(BZD)系作動薬である。その際,高齢者でない限り,ジアゼパムなどの長時間作用性BZDの使用が推奨される。離脱症状に対する薬物療法の適応や減量に関しては,臨床アルコール離脱評価スケール改訂版(CIWA-Ar)のような離脱症状の重症度評価スケールを使うことも推奨される。離脱症状が軽度な場合(たとえば,CI WA-Arが8点未満)には薬物療法を行わない。離脱症状が重篤な場合,たとえば振戦せん妄の治療に関して,欧米ではBZDの大量投与が推奨されている。わが国では,コンセンサスレベルでのエビデンスではあるが,痙攣閾値に影響の少ないハロペリドールや非定型抗精神病薬がBZDと併用されてきている。離脱痙攣発作を起こした場合,またはその既往のある場合は,他の離脱症状が軽症であってもBZDを使用する。BZDは症状の改善とともに減量し,使用は原則的に7日以内とする。離脱症状が遷延する場合でもその使用は4週間を超えないようにする2)。

【再飲酒予防】
解毒後には再飲酒を予防する取り組みが重要である。

アルコール依存症の治療目標は原則的に断酒の達成とその継続である。患者が断酒に応じない場合,まず説得を試みる。もし説得がうまくいかない場合でも,治療からドロップアウトする事態は避ける。1つの選択肢として,まず飲酒量低減を目標として,うまくいかなければ断酒に切り替える方法もある。軽症の依存症で明確な合併症を有しないケースでは,患者が断酒を望む場合や断酒を必要とするそのほかの事情がない限り,飲酒量低減も目標になりうる。理想的には,1日平均男性40g以下,女性20g以下の飲酒が飲酒量低減の目安になる。

【治療目標が断酒の場合】
アカンプロサートが第一選択薬である。ジスルフィラムやシアナミドは,断酒への動機づけがある患者に使用する第二選択薬である。使用に際しては,その作用機序や副作用について十分に説明する。特にシアナミドは肝障害を引き起こしやすいので,肝機能のモニターをしながら使用する。心理社会的治療の併用が断酒の維持に重要である。

【治療目標が飲酒量低減の場合】
軽症の依存症で明確な合併症を有しないケースでは飲酒量低減が目標になりうる。より重症な依存症ケースであっても本人が断酒を希望しない場合には,飲酒量低減を暫定的な治療目標にすることも考慮する。その際,飲酒量低減がうまくいかない場合には目標を断酒に切り替える。治療薬物としてナルメフェンを考慮する。毎日の飲酒量のモニタリングなどの心理行動療法の併用が重要である2)。

▶治療の実際
【アルコール解毒】
一手目 :セルシン®2mg・5mg・10mg錠(ジアゼパム)1回2~10mg1日3回(毎食後)

〈高齢者などの場合〉
一手目 :ワイパックス®0.5mg錠(ロラゼパム)1回1錠1日3回(毎食後)

【再飲酒予防】
一手目 :レグテクト®333mg錠(アカンプロサート)1回2錠1日3回(毎食後)

二手目 :〈処方変更〉ノックビン®原末(ジスルフィラム)1回0.2g1日1回(起床時),またはシアナマイド®内服液1%(シアナミド)1回7mL1日1回(起床時)

【治療目標が減酒の場合】
一手目 :セリンクロ®10mg錠(ナルメフェン)1回1~2錠1日1回(飲酒の1~2時間前)

【文献】

1) 融 道男, 他, 監訳:ICD-10精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン. 医学書院, 1993, p87-8.

2) 樋口 進, 他, 編:新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン. 新興医学出版社, 2018.

湯本洋介(国立病院機構久里浜医療センターアルコール科)
樋口 進(国立病院機構久里浜医療センター院長)

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出典:Web医事新報

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