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片頭痛の治療法 埼玉医科大学脳神経内科・脳卒中内科解説2019.09.05

セラピストプラス編集部からのコメント

国内の年間有病率が8.4%。20~40代の女性に多く、未成年者では高校生が9.8%、中学生が4.8%となるのが「片頭痛」です。そんな身近な疾病である片頭痛の治療について、埼玉医科大学脳神経内科・脳卒中内科名誉教授の荒木信夫さん、同脳卒中内科講師である伊藤康男さんが前兆のある場合とない場合・重度によって分けて治療法や薬を解説します。急性期の治療は薬物療法が中心となり、軽度の場合はアスピリンなどの鎮痛薬が第一選択となります。そのケアについては、まず患者さんを安心させつつ、病状の軽減や予防が可能であることを伝えるのが重要とのことです。

【片頭痛】

片頭痛の診断で重要なのは,①「頭痛が発作性であるか」,②「体動による増悪があるか」,③「頭痛時に吐き気を伴うのか」,④「光過敏・音過敏の症状を持っているか」,である。「前兆のある片頭痛」では,眼前がきらきらした光・点・線が見える,あるいは視覚消失を訴える閃輝暗点(scintillating scotoma)が特徴である。片頭痛の病態は,大脳皮質の神経細胞の過剰興奮による「神経説」や,三叉神経と頭蓋内血管との関係に注目した「三叉神経血管説」が提唱されている。
わが国の年間有病率は8.4%で,20~40歳代の女性に多く,未成年者では高校生9.8%,中学生4.8%である1)。診断には国際頭痛分類第3版(The International Classification of Headache Disorders 3rd edition:ICHD-3)2)を用いる。片頭痛の治療は,セロトニン5HT1B/1D受容体作動薬のトリプタンが中心である。

▶診断のポイント

片頭痛は,ICHD-3で一次性頭痛に分類されており,日常診療で遭遇する機会が多いのは,「前兆のない片頭痛」と「前兆のある片頭痛」である。

【前兆のない片頭痛】

片頭痛の特徴として,①片側性,②拍動性,③中等度以上の頭痛,④動作による頭痛の増悪,の4項目が挙げられ,この中の2項目以上を満たす必要がある。小児あるいは青年(18歳未満)の片頭痛は成人の場合に比べて両側性であることが多い。片側性の頭痛は青年期の終わりか成人期の初めに現れるのが通例である。片頭痛の痛みは通常,前頭側頭部に発生する。小児における後頭部痛は稀であり,診断上の注意が必要である2)

【前兆のある片頭痛】

前兆症状は通常5分以上かけて徐々に進展し,前兆発現後60分以内に頭痛が発現するのが特徴である。視覚性前兆は最も一般的なタイプの前兆であり,閃輝暗点として現れる場合が多い。ついで頻度が高いのは感覚障害で,チクチク感として現れ,発生部位から身体および顔面の領域に様々な広がりをもって波及する。さらに頻度は低いが,失語性言語障害が現れる場合もある2)

【検査所見】

一次性頭痛と二次性頭痛との鑑別に画像診断(CT,MRI)が重要である。

▶私の治療方針・処方の組み立て方

片頭痛急性期の治療は,薬物療法が中心である。治療薬として①アセトアミノフェン,②非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs),③エルゴタミン製剤,④トリプタン,⑤制吐薬があり,片頭痛の重症度に応じた層別治療が推奨される。軽度~中等度の頭痛にはアスピリン,ナプロキセンなどのNSAIDsを使用する。次に中等度~重度の頭痛,または軽度~中等度の頭痛でも過去にNSAIDsの効果がなかった場合にはトリプタンが推奨される。また,片頭痛薬剤使用方法(タイミング,使用量,使用頻度),妊娠中や授乳中の薬剤の対応,急性期発作中の患者指導と注意点についての説明が必要である1)

片頭痛発作が月に2回以上あるいは6日以上ある患者では,予防療法の実施について検討してみることが勧められる。急性期治療のみでは片頭痛発作による日常生活の支障がある場合,急性期治療薬が使用できない場合,永続的な神経障害をきたすおそれのある特殊な片頭痛には,予防療法を行うよう勧められる1)

【注意】

妊娠中,授乳中の片頭痛治療(急性期・予防)1)は発作が重度で治療が必要な場合には,発作頓挫薬としてはアセトアミノフェンが勧められる。妊娠期間中のトリプタン使用の安全性は確立されていないが,妊娠初期の使用での胎児奇形発生率の増加は報告されていない。多くの片頭痛患者は妊娠中には片頭痛発作の頻度が減少するため,予防薬が必要となる患者は少ない。また,予防薬は投与しないことが望ましいが,必要な場合にはβ遮断薬が挙げられる。授乳婦がトリプタンを使用した場合には,スマトリプタンは使用後12時間,そのほかのトリプタンは24時間経過した後に授乳させることが望ましい1)

急性期治療薬の乱用は「薬剤の使用過多による頭痛〔薬物乱用頭痛(medication overuse headache:MOH)〕」2)を誘発するので,急性期治療薬の過剰な使用がある場合も予防療法が必要となる。

【禁忌】

妊娠可能年齢の女性片頭痛患者にバルプロ酸を投与する場合には,副作用・催奇形性について説明の上,徐放剤を選択し,ほかの抗てんかん薬を併用しない。妊娠中,および妊娠中の可能性のある女性には原則禁忌とする1)

片麻痺性片頭痛やmigraine with brainstem aura(脳幹性前兆を伴う片頭痛)ではトリプタンは禁忌である。

▶治療の実際

【軽度】

一手目 :バファリン®配合錠A330(アスピリン330mg/ダイアルミネート150mg)1回1錠(頓用)

二手目 :〈処方変更〉ナウゼリン®10mg錠(ドンペリドン)1回1錠(頓用)
片頭痛に対しての保険適用はないが,悪心・嘔吐の保険適用あり

片頭痛発作が軽度の場合は,アスピリンなどの鎮痛薬が第一選択となる。早期服用が有効であり,必要に応じて制吐薬を併用するとよい。これらの処方で1~2時間しても軽快しない場合はトリプタンに切り替える。

【中等度~重度】

トリプタンで治療する場合,下記①~⑦のいずれかを用いる。

①イミグラン®50mg錠(スマトリプタン)1回1錠(頓用)
②ゾーミッグ®2.5mg錠(ゾルミトリプタン)1回1錠(頓用)
③レルパックス®20mg錠(エレトリプタン)1回1錠(頓用)
④マクサルト®10mg錠(リザトリプタン)1回1錠(頓用)
⑤アマージ®2.5mg錠(ナラトリプタン)1回1錠(頓用)
⑥イミグラン®点鼻液(スマトリプタン)1回1本(点鼻)
⑦イミグラン®注(スマトリプタン)1回3mg(皮下注)

①~④は効果不十分の場合に2時間後に1錠追加投与可能である。⑤は4時間後に追加投与可能である。痛みが強く嘔吐している場合には,⑦が第一選択薬となる。
トリプタンは頭痛発現後早期に服用するよう指導する。前兆期には使用しない。血管収縮作用があり,虚血性脳血管障害,冠動脈疾患を有する患者では禁忌である。片頭痛発作回数が多い(月に2回以上),発作が重度である,頓挫療法が無効の場合には次の予防療法を検討する。

【重度】

下記①~⑤のいずれかを用いる。

①ミグシス®5mg錠(ロメリジン)1日2~4錠分2(片頭痛に対して保険適用あり)
②デパケンR®200mg錠(バルプロ酸)1日2~3錠分2~3(2010年より片頭痛に対して保険適用あり)
③セレニカR®400mg錠(バルプロ酸)1回1錠1日1回(就寝前)(2010年より片頭痛に対して保険適用あり)
④インデラル®10mg錠(プロプラノロール)1日2~4錠分2~3(2013年3月より片頭痛に対して保険適用あり)
⑤トリプタノール®10mg錠(アミトリプチリン)1回1~2錠1日1回(就寝前)(2012年9月より片頭痛に対して保険適用あり)

④は高血圧を伴う場合,妊婦に良い適応となる。⑤は緊張型頭痛にも保険適用があり,うつ病を伴う場合に良い適応となる。
片頭痛予防薬は,β遮断薬,抗うつ薬,抗てんかん薬,Ca拮抗薬の有効性が高く,現在これらすべてに片頭痛予防に対する保険適用がある。

▶偶発症・合併症への対応

【薬剤の使用過多による頭痛〔薬物乱用頭痛(MOH)〕】

MOHは,ICHD-3で薬剤の使用過多による頭痛と分類されている2)。本来,頭痛の治療薬である鎮痛薬,トリプタン系薬剤など,発作頓挫薬の過剰摂取により頭痛が生じることに注目すべきである。治療の基本は,①原因薬剤中止,②中止後の頭痛への対処,③予防薬投与,である。経過は薬剤中止後1~6カ月間で70%ほどの症例が改善するが,長期予後では約40%が再び薬物乱用に陥る。日頃から鎮痛薬,トリプタン系薬剤などの使用が頻回にならないよう,管理し教育することが必要である。

▶高齢者への対応

高齢者で服薬コンプライアンスが不良な人が時折見受けられる。症状コントロールが困難な患者の中には,実際,予防薬を飲み忘れていたり,発作頓挫薬の乱用によりMOHを起こしている場合がある。これらを見逃さないため,処方の残薬を実際に確認したり,頭痛ダイアリーで服薬状況を確かめるようにする。

▶ケアおよび在宅でのポイント

【病気について】

一次性頭痛患者(頭痛持ち)は,わが国に約3000万人(片頭痛840万人,緊張型頭痛2200万人,群発頭痛1万人)いると言われている。頭痛で苦しんでいる人は「あなた1人ではない」ということ,一次性頭痛で,後遺症や死亡することはないと伝え,安心させる。同時に,長期間つきあっていく疾患であるが,治療法が確立しており,症状の軽減や予防が可能であることを伝える。

【薬について】

薬剤の効果は個人差があり,本人に合った頭痛薬をみつけるには試行錯誤が必要な場合がある。そのため,初診時の処方で効果がなかったとしても,薬剤の変更によって最終的に頭痛はコントロール可能となることを説明する。内服加療だけでは奏効しない場合,当院では東洋医学外来で鍼治療を導入し治療効果を上げている。

【日常生活について】

片頭痛の誘因となるのは,疲労,睡眠不足,過眠,月経,ストレス,アルコールなどがあり,患者自身が自覚していることも多い。日常生活の中でこれらの誘因はなるべく避けるべきである。

【文献】

1) 慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会, 編:慢性頭痛の診療ガイドライン2013. 日本神経学会, 他, 監. 医学書院, 2013.

2) 日本頭痛学会国際頭痛分類委員会, 訳:国際頭痛分類. 第3版. 医学書院, 2018.

伊藤康男(埼玉医科大学脳神経内科・脳卒中内科講師)
荒木信夫(埼玉医科大学脳神経内科・脳卒中内科名誉教授)

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出典:Web医事新報

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