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[緊急寄稿]これからの新型コロナ対策はどうあるべきか~universal masking,PCR検査,そしてアビガン2020.12.01

セラピストプラス編集部からのコメント

新型コロナウイルス対策について、日本医事新報に【これからの新型コロナ対策はどうあるべきか】のタイトルで菅谷憲夫氏(神奈川県警友会けいゆう病院 感染制御センター小児科,WHO重症インフルエンザ治療ガイドライン委員,日本感染症学会インフルエンザ委員,慶應義塾大学医学部客員教授)が緊急寄稿しています。

菅谷氏は「日本はマスクによる集団防衛効果が大きい」「D614G変異ウイルスの出現」「ファビピラビルへの期待」「ファビピラビルの緊急承認に向けて」「ファビピラビルは発症6時間以内に投与開始」「ファビピラビルは高齢者に限定」「これからの日本のSARS-CoV-2対策」と7つの項目に分けて現状と対策を説明。

日本は欧米各国と比べ、罹患者が少ない傾向から、免疫があるとか、遺伝子との関連も言われていますが、日本人にはコロナ禍以前から違和感のない「マスク着用」こそが、ワクチン接種以上に有効だったという考えもあるようです。

菅谷憲夫 (神奈川県警友会けいゆう病院 感染制御センター小児科,WHO重症インフルエンザ治療ガイドライン委員,日本感染症学会インフルエンザ委員,慶應義塾大学医学部客員教授)

1.日本はマスクによる集団防衛効果が大きい

日本の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)罹患者は大幅に増加し,1日の患者数は3000人に近づいているが,欧米諸国では1日に2万から20万人と,日本と比べれば桁の違いがある。

その原因究明は重要な課題であるが,依然として明らかではない。日本人には免疫があるとか,遺伝子との関連も言われているが,マスク着用効果は,ワクチン接種以上に有効という考えもある。

マスクの有用性は欧米でも見直され,米国疾病予防管理センター(CDC)のRedfield所長は,SARS-CoV-2ワクチンよりも,マスクのほうが有効性は高いと,今年9月に米国上院で証言した。

Redfield所長によれば,SARS-CoV-2のワクチンの有効性は70%程度であり(当時,ワクチン効果はその程度と考えられていた),人によっては,免疫原性が弱いと十分な効果は望めないが,社会全体のマスク着用(universal masking)は誰にでも有効であり,効果も即効性と説明した。

トランプ政権下,忖度なしに地位をかけての証言であった。

Wangらは1),米国マサチューセッツ州の医療組織,Mass General Brighamで,医療従事者全員のマスク着用とSARS-CoV-2のRT-PCR検査を実施し,その前後でのRT-PCR検査陽性率を比較した。2020年3月1日から4月30日までの2カ月間に9850人がRT-PCR検査を受け,1271人(12.9%)がSARS-CoV-2陽性となった。

マスク着用前の期間には,検査陽性率は0%から21.32%に増加し,1日あたり1.16%の増加となった。マスク着用開始後は,地域でSARS-CoV-2感染が拡大したにもかかわらず,陽性率は14.65%から11.46%に減少し,1日あたり0.49%減少した。

この効果は,医療従事者のマスク着用による効果と考えられた。JAMAのEditorialでRedfieldらは,本論文を高く評価した2)。

マスクの有用性は,個人防衛としてウイルス吸入を防止することにあり,多くの人々は,それを目的にマスクをしているが,もう一つの効果は,個人の持つウイルスを周囲に撒き散らすのを防ぐことにある。

SARS-CoV-2では,無症状者が感染源になることが明らかなので,universal maskingはきわめて重要となる。筆者が注目したのはRedfieldらが,マスク着用は個人防衛というよりも,集団防衛,さらに社会防衛に有効なことを示唆した点で,社会防衛ができれば,感染を減少させ,stay-at-homeとかbusiness closingsという社会にとって破壊的な政策を取らないで済む効果もある。

全国民が協力して,universal maskingが実施されている日本では,SARS-CoV-2ワクチンによる集団免疫効果に匹敵する,マスク着用による集団防衛効果が既に十分に出ていると筆者は考えている。

2. D614G変異ウイルスの出現

最近,SARS-CoV-2のスパイク蛋白に,D614G変異(スパイク蛋白の614番目のアミノ酸がアスパラギン酸からグリシンに置き換わる変異)を持つウイルスが出現し,今や世界のSARS-CoV-2の主流となった。

D614G変異ウイルスは,変異のない野生株ウイルスに比べ,培養細胞内で高い増殖性を示す。

東大医科研の河岡教授らのグループは,ハムスターでの感染実験により,D614G変異ウイルスは野生株ウイルスに比べて8倍感染力が強いことを報告した3)。

人での感染性上昇のデータはないが,元々の武漢株が一掃されて,世界ではD614G変異を持つ欧州株一色になった状況から,人での感染力も強まったことが推測される。最近の欧米でのSARS-CoV-2感染の激増の原因は,冬季の低温と乾燥だけではなく,D614G変異による影響もあるとすれば,日本でも一層の警戒が必要である。

インフルエンザでは,H1N1ウイルスにみられるH275Y変異が有名で,この変異によりオセルタミビル(商品名:タミフル)に耐性化するが,SARS-CoV-2のD614G変異は,薬剤耐性やワクチン効果とは無関係と言われている。

3. ファビピラビルへの期待

ファビピラビル(商品名:アビガン)の有効性は,いくつかの治験を通じて報告され,日本のSARS-CoV-2流行の勢いを考えれば,緊急に承認を考慮すべき段階に来ている。

SARS-CoV-2の抗ウイルス薬は,レムデシビルでもファビピラビルでも,発症してから1週間以上経過してからの治療開始例が多く,明確な治療効果が得られにくい。

ロシアからのopen label randomized trialは,米国感染症学会の学会誌,Clinical Infectious Diseasesにアクセプトされた4)。

軽症から中等症のSARS-CoV-2感染症60例を対象に,40例がファビピラビル治療群,20例がコントロール群で,発症から治療開始までの中央値は6.7日であった。

ファビピラビル投与5日目に、ファビピラビル治療群で62.5%(25/40)、コントロール群で30%(6/20)にウイルス消失が確認され、統計的に有意差が証明された(P=0.018)。一方、体温の正常化でも、ファビピラビル群で2日、コントロール群で4日と有意差が見られた(P=0.007)。

中国からは2件の治験報告があり,ファビピラビルのウイルス消失効果と臨床効果を認めた5)。特にEngineering誌に掲載された論文では,ファビピラビル群(35例)とロピナビル/リトナビル群(45例)のウイルス消失効果を比較し,それぞれ4日と11日で,有意差があった(P<0.001)6)。

胸部CTでも,ファビピラビル群で有意に改善が見られた(P=0.004)。症例は,発症から7日以内の患者を登録したと記載され,比較的に発症早期に治療を開始したと考えられる。

日本からは,藤田医科大学の土井教授らが米国微生物学会誌に,無症候あるいは軽症の患者を対象としたopen label randomized trialを報告した7)。

入院して直ちにファビピラビルを投与する早期治療群(36例)と,入院6日目からの後期治療群(33例)に分けて,ウイルス消失を比較した。早期(early)と後期(late)の2群に分けているが,両群ともに入院例であり,発症後でみると1週間前後は経過していたと思われる。後期群は,実際には,抗ウイルス薬が効果を示す期間にファビピラビルの投与を受けていないコントロールとなった。

入院6日目では,早期群で66.7%,後期群では56.1%でウイルスが消失したが,有意差は認められなかった。入院1日目に発熱があった30例の解熱までの日数は,早期群と後期群で,2.1日と3.2日であったが,これも有意差はなかった。

しかし,早期群で解熱効果が高い傾向はあり,特に治療開始2日後では,後期群との間で有意差が見られた。

ハムスターの動物実験では8),ファビピラビルのSARS-CoV-2に対する抗ウイルス効果は,高用量であれば有効であることが証明された。

ファビピラビルがSARS-CoV-2をブロックした,ハムスターでの血漿濃度は,現行のファビピラビルの人の治療量で十分達成されると考えられる9)。

4. ファビピラビルの緊急承認に向けて

ロシアと中国の治験では、ウイルス消失効果、臨床効果ともに、統計学的に有意な結果が得られた。

ところが、日本の藤田医科大学の報告では、ウイルス消失効果、臨床効果、どちらも有意差は証明できなかった。

これは、対象が無症候群を含む軽症例であり、さらに治療開始が発症1週間前後のために、ファビピラビル治療群(早期)とコントロール群(後期)の間で、効果に十分な差が出なかったと思われる。

中国の治験で好結果が得られたのは、発症から7日以内の患者を登録しており、発症後、治療開始まで短期間の症例が多かったためと考えられる。

SARS-CoV-2の抗ウイルス薬としては,重症化防止効果の証明が最も重要であるが,重症化防止効果は,オセルタミビルでさえ,2009年のインフルエンザパンデミックで広く使用される中での観察研究により,証明されてきた経緯がある。

現状のSARS-CoV-2患者の激増から考えれば,ファビピラビルの承認が必要であり,広く使われる中で,重症化防止効果が確認されることが望ましい。

富士フイルム富山化学は,ファビピラビル治療により早期に症状を改善することが統計的に有意差を持って確認できたとして,10月16日に,国に承認申請を行った。

症状改善の中央値がファビピラビル治療群では11.9日,プラセボ投与群では14.7日で,2.8日短縮した。

5. ファビピラビルは発症6時間以内に投与開始

日本でファビピラビルの有効性に疑問が持たれているのは,多くのSARS-CoV-2症例で投与開始が遅れたからと思われる。

抗ウイルス薬は,発症早期の軽症患者に使って有効であり,遅くとも発症48時間以内の治療開始がポイントとなる。

ファビピラビルを抗インフルエンザ薬として使う場合も,抗インフルエンザ薬オセルタミビルでも,発症48時間以内の投与開始が前提となる。ファビピラビルの開発者の白木公康名誉教授は,投与開始について,「発症6時間以内の早期投与」を奨めている9)。

実臨床では6時間以内は難しいが,できるだけ早期投与で治療すべきという意味である。肺炎を起こす前に治療を開始することが好ましいという。

厚生労働省はファビピラビル使用の「患者の要件」として、日本感染症学会の「COVID-
19に対する薬物治療の考え方 第6版」を引用している。

そこには「酸素吸入・侵襲的人工呼吸器管理・体外式膜型人工肺(ECMO)を要する低酸素血症、酸素飽和度94%(室内気)以下、等の症例では薬物治療の開始を検討する」とあり、「無症状者や低酸素血症を伴わない軽症者では薬物治療は推奨しない」となっている。

しかし、これは本来の抗ウイルス薬の使い方ではなく、抗菌薬の使用法であり、このような指針では、多くのSARS-CoV-2患者の、ファビピラビル早期治療の機会を逃す可能性がある。

参照:厚生労働省からの事務連絡

6. ファビピラビルは高齢者に限定

ファビピラビルは内服薬であり,外来での早期治療が可能な利点がある。

ファビピラビルは現在のところ,新たな重大な副作用の報告はないが,催奇形性の副作用を考慮して高齢者に限定して使用することで,安全で,多くの高齢者の重症化,あるいは死亡を防止する可能性がある。

重症化し死亡しているのは大半が高齢者で,若い世代のSARS-CoV-2感染症はほとんどが軽症例であることから,催奇形性が危惧されるファビピラビル治療は,原則として不要である。

SARS-CoV-2に対する高齢者の恐怖を考えれば,日本で開発されたファビピラビルは日本の高齢者にこそ,積極的に使うべきと筆者は考えている。

インフルエンザ患者が発症24時間から48時間以内でノイラミニダーゼ阻害薬による治療を受けている日本では,ファビピラビルの早期治療は問題なく可能である。

SARS-CoV-2もインフルエンザと同様に,早期診断,早期治療となるのが理想である。発展途上国並みと揶揄されたSARS-CoV-2のPCR検査体制の遅れを,抗原検査で補うことができるかどうかが課題となる。

7. これからの日本のSARS-CoV-2対策

人口あたりの感染者数,死亡者数は,アジア諸国で比較すると,台湾,ベトナム,タイ,シンガポール,韓国,中国などよりも,日本が相当に多くなっている。これらのアジア諸国は,徹底的にPCR検査を実施し,多くの国でマスク着用(universal masking)も実施してきた。

日本の新型コロナ対策は成功していると過剰な自信を持つべきではなく,冬に向かい,マスクを始めとして,手洗い,physical distancingなどが重要となる。人の移動,集合を制限することは,感染症対策の基本常識であり,Go ToトラベルとかGo Toイートなどの経済対策は,慎重に実施すべきである。

SARS-CoV-2のRT-PCR検査の拡充も遅れているが,その悪影響が強く出ているのが,各地で頻発するSARS-CoV-2による院内感染である。

以前に本誌でも主張したが,医療従事者と入院患者全員の定期的なRT-PCR検査がなければ,院内感染対策は成り立たない10)。

日本で期待されるのは,ファビピラビルを高齢者のSARS-CoV-2感染にできるだけ早期に使用することである。ファビピラビルの早期治療の重要性は動物実験でも示されている。

さらに,ファビピラビルを院内感染,施設内感染対策にも使用することを考慮すべきである。

【文献】

1)Wang X, et al:JAMA. 2020;324(7):703-4.

2)Brooks JT, et al:JAMA. 2020 Jul 14. doi:10.1001/jama.2020.13107.

3)Hou YJ, et al:Science. 2020 Nov 12;eabe8499. doi:10.1126/science.abe8499.

4)Ivashchenko AA, et al:Clin Infect Dis. 2020 Aug 9;ciaa1176. doi:10.1093/cid/ciaa1176.

5)菅谷憲夫:医事新報. 2020;5006:58-61.

6)Cai Q, et al:Engineering(Beijing). 2020 Mar 18. doi:10.1016/j.eng.2020.03.007.

7)Doi Y, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2020;64(12):e01897-20.

8)Kaptein SJF, et al:Proc Natl Acad Sci U S A. 2020;117(43):26955-65.

9)白木公康:SARS-CoV-2治療薬:ファビピラビル. 新型コロナウイルス感染症流行下のインフルエンザ診療ガイド2020-21. 菅谷憲夫, 編. 日本医事新報社, 2020, 146-56.

10)菅谷憲夫:医事新報. 2020;5018:26-9.

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出典:Web医事新報

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