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【日本医事新報創刊100年記念特別企画】中川俊男日本医師会長インタビュー「COVID-19パンデミックで見えてきた医療の課題」2021.02.04

セラピストプラス編集部からのコメント

日本医事新報は全世界が「スペイン風邪」の猛威にさらされていた直後の1921(大正10)年2月5日に創刊されました。今回は創刊100年記念特別企画として「COVID-19パンデミックで見えてきた医療の課題」と題した日医・中川会長のインタビュー記事が掲載されています。

「有事の実力は平時の余力」と語る中川会長は日本の医療従事者の使命感の高さを評価。「働き方改革がいわれる中でも、日本の医療従事者はいざというときに献身的に必死で頑張る。それは評価されるべきだと思います」と述べています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威はとどまるところを知らず、日本時間の1月27日、ついに全世界の感染者数が1億人を超えた。日本の感染者数・死者数は欧米諸国に比べ抑えられてはいるものの、受け入れ病床は逼迫し「医療崩壊」が現実化してきている。

医療提供者の代表として連日対応に追われる日本医師会の中川俊男会長に、COVID-19パンデミックで見えてきた日本の医療の課題と今後の展望を聞いた。


中川 俊男 日本医師会長
1951年生まれ。北海道旭川市出身。77年札幌医大卒。88年新さっぽろ脳神経外科病院を開設、院長に就任。世界で初めて脳ドックを始める。北海道医師会常任理事、日本医師会「未来医師会ビジョン委員会」委員長、日本医師会常任理事・副会長などを経て、2020年6月より現職。中央社会保険医療協議会をはじめ厚労省の審議会・検討会委員を歴任。

─COVID-19パンデミックで見えてきた医療の課題はいろいろあると思いますが、まず、日本の感染者数を会長はどう捉えていますか。欧米諸国に比べれば抑えられている状況が続いていますが(図表1)。

中川 G7(先進7カ国)の中で相対的に日本の感染者数が少ないのは、日本国民の公衆衛生意識の高さによるところが大きいと思います。マスクをする、手を洗う、靴を脱いで家に上がる、といった衛生観念がしっかりしていることが第一に挙げられるでしょう。

有事の実力は平時の余力

─患者対応で日本の医療提供体制が功を奏した部分はありますか。
中川 日本の医療提供体制は、他の先進諸国に比べて病床数に少し余裕があったから、コロナ病床への転用などがスムーズに進んだ面があります。新興感染症は有事。有事の実力は平時の余力ですから。

もう一つ忘れてはならないのは、日本の医療従事者の使命感の高さ。働き方改革がいわれる中でも、日本の医療従事者はいざというときに献身的に必死で頑張る。それは評価されるべきだと思います。

─一般のマスメディアからは「日本はこれだけ病床数が多いのに、日本医師会はなぜ『医療崩壊』などと言うのか」といった批判が出ています。

中川 私たちが言う「医療崩壊」は「必要な時に適切な医療を提供できない・受けられない」ということです(図表2)。

「まだコロナ患者を受け入れていない病院がたくさんあるから医療崩壊じゃないだろう」と言う人がいますが、それは違います。医療崩壊は「点」で起こる。「面」で起こった時に医療壊滅になる。医療壊滅していないから医療崩壊ではないとは言えません。

メディアには医療の専門誌から一般紙・大衆週刊誌までいろいろなレベルがありますが、一般紙・大衆週刊誌は、混乱が起きた時にスケープゴートを作って誰が悪いという報道をする傾向がある。

当初は「政府が悪い」と言っていましたが、厚労省の地域医療構想に関するワーキンググループで「公立・公的等・民間別の新型コロナ患者受入可能医療機関」のグラフ(図表3)が出てから、「民間病院はなぜ協力しないのか」「病床数が多い日本でなぜ医療崩壊なんだ」「外国は医療崩壊などと騒いでいない」という論調が強くなりました。

「全員コロナをやれ」はあり得ない

欧米諸国は騒いでいないのではなく、昨年の第一波から医療崩壊なんです。G7でドイツはそこそこ持ちこたえてきましたが、昨年の秋頃から完全な医療崩壊が起き、いまは火葬が間に合わないほどの状態になっています。欧米では医療崩壊の段階などとっくに過ぎ去っている。その中で日本はいままで持ちこたえてきたということは明確にしたい。

「民間病院がコロナ患者を受け入れない」と言いますが、医療提供体制を崩壊させないためには、通常の医療がしっかり行われた上で、COVID-19の診療が進められなければならない。患者数は圧倒的に通常の医療のほうが多いのだから、「全員コロナをやれ」というのはあり得ないし許されることではありません。

そもそもCOVID-19の診療が可能な医療機関はそれほど多くはない。ゾーニングの問題で病棟がたくさんある病院でなければならないし、一定レベル以上の専門性を持った医師・看護師が十分いなければならない。それらを考えれば、おのずと大病院になります。

大病院は公的しかやっていないわけではなく、多くの民間の大病院がCOVID-19に対応しています。ワーキンググループの資料では、「公立」「公的等」は受入可能医療機関の割合が70%前後であるのに対し、「民間」は18%となっていますが、中小の民間病院の多くは急性期病棟が1~2棟しかなく、COVID-19患者を受け入れたらすべての医療ができなくなります。

民間の診療所の先生方も、リスクを冒してPCR検査に協力し発熱外来の診療体制をつくるなど非常に頑張っています。そのことを忘れてもらっては困ります。

医療計画に新興感染症対策が抜けていた

─日本は、民間の医療機関が急性期・慢性期を含め医療のベースを支えているからこそ、コロナ対応で公的・公立との役割分担を進めやすい面があると。

中川 その体制が功を奏したと思います。

ただベストな体制だったわけではなく、例えば医療計画の5疾病・5事業に新興・再興感染症が入っていないという問題がありました。私は副会長の時から追加すべきだと主張してきましたが、ようやく、医療計画の記載事項に「新興感染症等の感染拡大時における医療」を追加して5疾病・6事業にする方向で話が進んでいます。

過去に新興感染症を経験した時に、結果的に大ごとにならずに済んだのを幸いに、今回のような事態が起こることを想定した体制づくりをしてこなかったという反省点はあると思います。

─2009年の新型インフルエンザ流行を踏まえて、厚労省は新型インフルエンザのパンデミックが起きた時の被害想定で何十万人もの死者が出ることを予想していたはずですが(図表4)、それよりもはるかに被害の少ない状況で今回のような混乱が生じるのは、事前の対策に足りない部分があったからでしょうか。

中川 昨年3月にはマスクすらない状態に陥った。COVID-19はいつか収束すると思いますが、この教訓を忘れてはいけません。

専門家の会議に一定の権限を与えるべき

─今回のパンデミックでもう一つ見えてきた問題は、政策判断における専門家の役割が不明確というところです。会長はパンデミック時の政策判断において政治家と専門家の連携はどうあるべきとお考えですか。

中川 このような有事の時には、リスクマネジメントに厳しくむしろマイナス思考の人が責任者として全体をリードすべきです。台湾はIT担当相のオードリー・タン氏が思い切った対策を「そこまでやらなくてもいい」というぐらい徹底的にやってうまくいきました。

日本の政府は専門家を“防波堤”にしているところがありますが、専門家の会議はいわばシンクタンク。そのシンクタンクをうまく使いこなせるかがカギになります。そのためには、独立性と先見性を持って意見を出せるよう専門家の会議に一定の権限を与えないといけません。

昨年4月の緊急事態宣言の時に強いメッセージを発信した厚労省クラスター対策班の西浦博さん(現・京大環境衛生学教授)のことは高く評価しています。いま考えてみると最初の緊急事態宣言は非常に良い判断でした。

─1月7日に再発令された今回の緊急事態宣言では、政府からのメッセージが明確でなく、国民はどこまでがリスクで、どこからは大丈夫なのかの線引きがわからなくなっています。いまこそ信頼される専門家組織からの科学的根拠のある情報発信が必要とされていると思います。

中川 少々政府の意に添わないことを言ったとしても必ず守られる、そういう保証を専門家に与える必要があるでしょうね。

徹底的な感染防止が最強の経済対策

─過去に例のない規模の新型コロナワクチンの接種がこれから始まりますが、医師会という組織が都道府県や市町村と普段から連携をとっていることがこうした時に生きてくるのではないですか。

中川 だから全国の医師会は緊張しています。緊張しているし張り切っています。

─コロナ診療の後方支援でも医師会や病院団体の役割が重要になります。

中川 中等症・軽症のコロナ専門病院をつくるとともに、感染力のなくなった患者さんを受け入れる後方の病棟をつくる必要がある。風評被害と差別の対策も含め、この3点をセットで進めなければならないと思います。

─今回のパンデミックを通じて「経済が回るためにはまず医療がしっかり機能していなければならない」という認識が国民の間で定着したのではないですか。

中川 COVID-19に限れば「徹底的な感染防止対策が最強の経済対策」です。それが私の信念だし真理だと思っています。短期間でもいいから徹底的に感染防止対策を進めて、「ステージ3」(感染者の急増)などと言わず、少なくとも「ステージ2」(感染者の漸増)までいかないと経済を回すことはできません。

─医療を立て直してから経済を回す。

中川 医療というか感染状況を落ち着かせる。そうして初めて経済を回すことができるのだと思います。そういう理念で対策を進めていればもっとうまくいっていた。政府のGoToキャンペーンは間違いなく感染拡大のきっかけにはなったと思います。
 

AIで完結する医療が現実化する

─COVID-19への対応では日本のデジタル化の遅れが指摘され、菅義偉首相も規制改革・デジタル化の推進を大きく掲げています。医療の規制改革・デジタル化はどのように進めるべきとお考えですか。

中川 オンライン診療などのデジタル化は時代の流れだから進めなければいけません。ただ、全くの初診患者までオンライン診療でいいなどということはあり得ません。デジタル化は国民のために進めなければいけないけれど、絶対に無理な部分はあります。そこは頑なに守らなければいけない。キーワードは「着実に、少しずつ」です。一気呵成は危ない。

AI(人工知能)の進化のスピードは想像の域を超えている。将来、医療もすべてAIで終わってしまう可能性があります。「先生、ありがとうございました。本当に助かりました」と言って退院する時に握手をしたらどうも手が冷たい。よく見たら自分の主治医は機械だったというSF映画のような話が十分あり得ます。

─確かに人間の想像の域を超えていろいろな技術が進化しています。

中川 そういう時代に新型コロナウイルスだから。こんなに進んでいるのに、結局、対応のレベルがスペインかぜの時代と変わっていない。ウイルス恐るべしです。

─進化するAIに現場の臨床医はどう向き合っていけばいいでしょうか。

中川 正しく知って正しく展望する。AIを恐れる必要はないけれど、楽観視することもできません。それこそ「ウィズAI」です。「ウィズコロナ」という言葉は緩みを生むので好きではないのだけれど、AIをどう使いこなすかはこれからの医療の大きなテーマです。

メディアに望むのは「丁寧な報道」

─創刊100年という節目ですので、最後に小誌だけでなくネットメディアを含めた医療メディア全体に対してご注文をいただきたいのですが。

中川 お願いしたいのは丁寧な報道。センテンスの切り取りではなく、前後がつながるような報道をしてほしいですね。日本医事新報というのは名門なのだから特にそれを心がけてほしい。

─日本医事新報はウィークリーメディアということもあって情報の信頼性が命ですので、丁寧な情報発信を心がけていきたいと思います。本日はありがとうございました。
(2021年1月21日/聞き手:本誌 山崎隆志)

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出典:Web医事新報

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