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【識者の眼】「認知機能評価尺度では診断できない」上田諭2021.09.08

セラピストプラス編集部からのコメント

認知症そっくりの状態を呈するものとして、甲状腺機能低下症、硬膜下血腫、感冒薬などの薬剤性が有名ですが、なかでも「高齢者うつ病」による認知機能低下は、偽認知症、仮性認知症として知られています。

今回の【識者の眼】では上田諭氏(戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)が「認知機能評価尺度では診断できない」と題して寄稿。認知機能評価がどんなに低得点であろうとも、最初に認知症を疑ってしまうことの危険性を述べています。

認知症のスクリーニングツールとして、改訂長谷川式簡易知能評価尺度(HDS-R)とMMSE(mini-mental state examination)がよく知られている。30点満点で、それぞれ20点以下、23点以下は認知症の疑いが濃いという基準になっているが、これは目安である。

これらの検査の結果をそのまま当てはめて、認知症の可能性が高い、などということはできない。それは、認知症ではない「回復可能な認知症状態(treatable dementia)」のために低い得点になっているかもしれないからである。この認知症そっくりの状態を呈するものとして、甲状腺機能低下症、硬膜下血腫、感冒薬などの薬剤性が有名であるが、なかでも高齢者うつ病による認知機能低下は、偽認知症、仮性認知症として知られている。

70歳代の女性が外出中に軽い捻挫をした後から、元気がなくなり、物忘れが目立つようになった。買い物で同じ物を続けて買って来たり、ゴミ出しの日を間違えるなどしたため、家族は心配して、かかりつけ医に相談した。HDS-Rが施行され14点。頭部CTでも軽度萎縮があり、認知症の可能性が高いと抗認知症薬ドネペジルが処方された。活気のなさと物忘れは変わらず、食欲と体重が低下した。医師からは「認知症はやせるもの」と言われた。1年で10キロ低下し、睡眠も2時間ほどしかとれなくなり、夜起きて歩き回るようになった。家族は「徘徊が始まった」と感じ、不眠と徘徊対策のため精神科を受診した。

精神科医師は、睡眠薬は認知機能に悪影響があるからと、睡眠効果のある抗うつ薬ミルタザピン15mgを処方した。眠れるようになり、1週間後には活気が増し、進んで買い物に行き間違えずに食材を買って来られた。食欲も見違えるように増進した。2週間後の再診ではHDS-Rは28点になっていた。家族は「先生の薬で認知症が治った」と喜んだ。

もちろんこれは認知症が治ったのではない。認知症ではなくうつ病が治ったから、認知機能も回復したのである。かかりつけ医がうつ病による偽認知症を誤診したのは、HDS-Rの低得点を過信したことが大きいと思われる。

認知機能評価がどんなに低得点でも、最初に認知症を疑うのは筋違いなのである。

上田 諭(戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)[認知症医療]

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出典:Web医事新報

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