バレリーナやダンサーなど舞踊界を支える理学療法士たちの事例
公開日:2015.02.26
理学療法士の就職先のほとんどは病院など医療施設である一方、ある特定の分野でも多くの人が活躍しています。ここでは、バレリーナやダンサーなどの舞踊界を支える理学療法士の患者さんとのエピソードや、舞踊界で理学療法士がどのように働いているのか、理学療法士の資格を持つダンサーのお話からご紹介します。
我慢強いバレリーナを影で支えた理学療法士・Aさんの事例
バレリーナの大敵ともいえる脛骨の疲労骨折と闘っていた女性と、彼女と向き合った理学療法士Aさんの事例をご紹介します。
バレリーナに起こりうるケガは、足関節の捻挫、アキレス腱炎、アキレス腱断裂、脛骨の疲労骨折や膝の靭帯損傷、大腿四頭筋の断裂や腰椎ヘルニアなど。しかし、ケガを隠して踊り続けることで、大きな疾患に至るという事態も少なくありません。
「舞台に帰してあげたい」という思い
英国への留学を控え、少しの痛みなら我慢できるとレッスンを続けていたバレリーナは、痛みが和らぐたびにレッスンをして、また痛みが出るということの繰り返しでした。当時は、彼女も理学療法士のAさんも、治るか治らないか模索しながらのリハビリだったそうです。
疲労骨折には超音波治療の効果があるということで積極的に行ったものの、明らかな効果は出ず、脛骨に髄内釘を入れる手術を決断。このときAさんは、治療者としての力のなさを痛感し、一方では「どうしても彼女を舞台に帰してあげたい」という思いが強まりました。
大きなケガと、大きな手術を乗り越えて
膝から髄内釘を挿入したあと、膝の可動域は低下しました。筋力が落ちただけでなく、激痛に悩まされ、いつもは「痛い」と言わない彼女が、痛いと泣いていたほどの状態だったそうです。そこで、Aさんはバレエをより詳しく学び、プリエなどバレリーナの基本動作に合わせたリハビリ方法を取り入れました。 彼女もマシンを使った筋肉トレーニングや固定式自転車を使った有酸素トレーニングなどの厳しいリハビリに耐えた甲斐があり、3ヵ月後からかるめのレッスンに参加、6ヵ月後には本格復帰を果たします。そして、なんと8ヵ月後には舞台に戻ることができたのです。
大きなケガと大きな手術を乗り越え、華やかな舞台でまた踊るチャンスを得たバレリーナ。舞台で生き生きと輝くバレリーナを見て、こんなに素敵なことを神様は用意してくれていたのだと、Aさんはこれまでになく感動したそうです。
理学療法を勉強したダンサー
次に、もともとダンサーだった理学療法士Bさんのお話をご紹介します。
理学療法を勉強することになったきっかけ
イギリスでダンサーとしてトレーニングをしていたときにケガをし、そのときに現地のPhysical Therapy(リハビリ)を知ったことがきっかけで日本でも理学療法を勉強し始めたそうです。理学療法士として一度就職したものの、さまざまなめぐり合わせでまたダンサーに復帰することになりました。
ダンサーと理学療法士の共通点
ダンサーは、作品や役を自分で解釈してそれに対するアプローチを自分で創り出します。理学療法士の仕事との共通点は「(患者さんの症状や要求を)自分で解釈し、それに対するアプローチ(リハビリ)を施す」ことが挙げられます。
理学療法士が舞踊界に介入するには
現在の舞踊界では、身体やメンタルのケアは遅れ気味で、お金をかけられる一部のプロのみがケアを受けられる状況だそうです。ダンサーの動き方の知識があれば、理学療法士が介入し、プロダンサーとの信頼関係を築くこともできるかもしれません。多くのダンサーには「時間をかけずに結果を出せる知識と手技があれば利用したい」という希望があるので、理学療法はこの点で関わるチャンスになるとBさんは考えています。
別分野で専門性を発揮させることも重要
ダンサーの身体のケアを理学療法士としてどう活かせるか、それがBさんの今後の課題だそうです。同時に、理学療法士の資格を持ちながら別の分野での活躍を目指している人は、諦めずにやりたいことを続けてその分野の専門性を身につけ、理学療法によってそこに歩み寄ることができれば可能性が広がるとも考えています。
AさんとBさんの事例からも、理学療法士が舞踊界やスポーツなど、さまざまな分野で重要な存在となりつつあることがうかがえます。
理学療法を追求するほか、いろいろなことにチャレンジして世界を広げ、理学療法士としての専門性を発揮できる分野を開拓してみるのもいいかもしれません。
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