理学療法士がアパレルへ!?セラピストが介護のオシャレをご提案
公開日:2025.02.06

取材・文:宅野美穂
株式会社三恵(東京都世田谷区)は、1953年の創業以来、三軒茶屋で女性用インナーウェアやシニア向けの衣料品、介護に必要な衣類などを販売しています。
店舗には「介護コンシェルジュ」と呼ばれる作業療法士や理学療法士が在籍し、衣類の選び方をはじめ介護に関する相談を受けています。
今回は介護コンシェルジュとして在籍する理学療法士の池田智子氏に、介護コンシェルジュの取り組みや介護事業参入の経緯、今後の目標についてお話を伺いました。
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目次
地域に根ざした店舗でインナーウェアやシニア向け衣料品を販売

三恵の事業内容についてお聞かせください。
三恵は、東京の三軒茶屋でインナーウェアを販売している会社です。
特にオリジナル商品の「ルルスマートブラ®」は「大きな胸を小さくきれいに魅せるブラ」として累計販売枚数130万枚を突破する商品となりました。
インナーウェア以外にも、シニア向けの衣料品や介護に必要な衣類を販売。近年は実店舗以外にEC事業やオンラインフィッティングサービスなども展開しています。
現在の社員は3名で、その他に理学療法士や作業療法士を含むパートが在籍しています。店舗は10名程度のスタッフがシフト制で運営。時間帯によって人数は変動します。
介護に必要となる衣類の取り扱いを始めたきっかけは何ですか?
もともと店舗ではシニア向けの衣料品をメインに販売していたのですが、近年、本人はもちろん家族や友人が「介護に必要だから」との理由で来店するケースが増えてきました。このため、介護服の取り扱いを始めました。
作業療法士や理学療法士が介護に必要な商品選びをサポート

「介護コンシェルジュ」について教えてください。
店舗に在籍する「介護コンシェルジュ」とは、お客さまの状況に合わせて商品選びをサポートする「介護の専門家」のことです。
理学療法士や作業療法士などの有資格者で、お客さまからの介護に関する相談も受けています。ただし、シフトの都合で介護コンシェルジュが不在の時間帯もあります。
なぜ店舗に作業療法士や理学療法士が在籍するようになったのでしょうか?
近年は高齢化が進み、家族が施設に入居するケースが増加しています。店舗にも「親が施設に入居する」との理由で、子世代のお客さまの来店が増えました。
三恵ではもともと介護施設への移動販売を行っていました。その中からお客さまから介護に関する相談やアドバイスを求める声が多く寄せられるようになりました。
そこで、作業療法士や理学療法士が相談を受ける「介護コンシェルジュサービス」を開始しました。
取り扱っている商品についてお聞かせください。
店舗で扱っている介護服はトップスやニット、履物、靴下などがあります。価格帯はトップスが3,000円台、ニットが4,000円台と介護服としては比較的リーズナブルな価格です。
施設に入居する時はパジャマや肌着、靴下など多くのアイテムが必要となりますが、経済的な負担を軽減できるように買い足しやすい価格設定にしています。リピート購入にも繋がっています。
「衣服を変えることが生活レベルを上げる」衣服の重要性に着目

池田様の役割と業務内容について教えてください。
店舗では「介護コンシェルジュ」として、お客さまに合った衣類の提案や介護に関する相談を受けています。
三恵の事業はまだまだ認知度が高くないことから、SNSやブログを通じて介護について発信。ネットやメールでの顧客対応も行なっています。
自社商品の企画・開発にも携わり、理学療法士の視点から意見を伝えています。
理学療法士として「服」に携わることを決めたきっかけは何ですか?
私は回復期リハビリテーションと外来に配属された経験があります。外来勤務の時に、患者さんから「『着たい服』ではなく『着られる服』を着ている」との言葉に驚きました。
身体機能が低下した状態では着る服の選択肢が狭まり、「おしゃれを楽しめない」というわけです。そこで、改めて患者さんの着替えの回数を数えてみると、入浴やトイレなど1日あたり約10回。
この事実に気づいた時、「着替えが生活の質を大きく左右するのではないか」と考えました。
リハビリテーションの目的は体を元の状態へ完全に戻すことではなく、あくまでも元の生活に近づけることです。
リハビリの回数が少なくなる自宅での生活レベルを向上させるには、体を動かすのはもちろん「毎日着ている服を変える」のも重要だと気づきました。
丁寧なコミュニケーションでお客さまとの信頼関係を構築

実際に介護コンシェルジュサービスを利用した方からはどのような声をいただいていますか?
「ありがとうございます」「服がほしくなったらまた来ます」などのお声をいただいています。
リピーターも多く、洋服だけでなくリハビリ方法やオムツ替えのコツなど介護に関する相談も受けています。ただし、現在は理学療法士や作業療法士が常駐できていない状況でもあります。
求人をかけると同時に、私自身もSNSやブログで三恵の事業や介護について発信しています。常に介護コンシェルジュがリアルに対応できる状態で、お客さまを迎える体制を作ることが当面の目標です。
セラピストの活躍の場を広げる新たなキャリアパスの可能性

医療機関ではない業界でもセラピストの活躍できる場があると感じましたが、池田様はどうお考えでしょうか?
資格を取得していればどのような場所でも活躍できると考えています。セラピストの中には、理想と現実のギャップに悩んで離職する方もいます。
しかし、時間をかけて勉強して、国家試験を突破してきたことを考慮すると非常にもったいないです。
私自身、医療業界からアパレル業界に転職しましたが、理学療法士としてのキャリアを活かした仕事ができています。
医療機関はもちろん、他の業界でも身に付けた知識や経験を活かせる場は必ずあるはずです。
池田様が個人的に叶えたい目標は何ですか?
「衣服で介護が必要な人が前向きになり、生活も向上する」と発信し、実践することです。
私は介護が必要な人に「着たいと思える服」を提供することで、自立度の向上や精神的な安定に繋がると考えています。
歳を重ねても「きれいでいたい」と願うお客さまのための衣服を提供していきたいと思います。

株式会社三恵
東京都世田谷区三軒茶屋2-13-16
03-3413-6119
10:00~18:00
定休 1/1~1/3、8月第2・3水曜、8/31
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