カフェがつなぐ、人と医療|立場に関係なく誰もが「フラット」に過ごせる「セカンドリビング」
公開日:2025.04.25
取材・文 宅野美穂
東京都府中市にある「FLAT STAND」は、株式会社シンクハピネスが運営するコミュニティカフェ。
医療と福祉の垣根を超え、地域社会の中で人々が気軽に集まり、自然な形で交流する場を提供しています。
代表取締役代表の糟谷明範さん曰く、「FLAT STAND」は地域の人たちがコーヒーなどのモノやイベントなどのコトをきっかけとして、人と人が出会うためのきっかけをつくっている場であるとのこと。
本インタビューでは、「FLAT STAND」について深く掘り下げます。

今回インタビューした方:糟谷明範さん
株式会社シンクハピネス
代表取締役
府中市出身の理学療法士であり、株式会社シンクハピネスの代表として経営全般を担当しています。現在は府中市と国立市で介護予防の講座を開催するほか、中学・高校での探究学習プログラムの授業を担当、講演活動、カフェとコミュニティ運営、Webマガジンの連載など多岐にわたる活動を展開しています。
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目次
人と人が「フラット」に出会えるコミュニティカフェ
御社の事業内容についてお聞かせください。
株式会社シンクハピネスでは、「医療・福祉」「コミュニティ」の二軸で事業を展開しています。
医療福祉事業では、看護師・理学療法士などが自宅を訪問する訪問看護や、居宅介護支援などを行っています。
コミュニティ事業では、コミュニティカフェ「the town stand FLAT(通称 FLAT STAND)」を運営しています。建物は2階建てで、1階では焼き菓子や障がいがある人の作品などを展示・販売。
2階はカフェスペースのほか、ギャラリーやイベント会場としても使用しています。
「FLAT STAND」を立ち上げたきっかけを教えてください。
理学療法士の免許取得後、総合病院に勤務していましたが、医療者と患者さんとの関係に違和感を覚えるようになりました。
例えば、医師が患者さんに対して厳しい言動を取ったり、リハビリ専門職が患者さんに対して配慮に欠ける態度で接する場面を見たりしたときに、「どうしてそんな態度を取るのだろう」と感じることがありました。そんな中、患者さんからもらった言葉があります。
それは「治療やリハビリを受ける時、お医者さんやリハの先生に気を遣う」というものでした。この言葉は今でも忘れません。
その後、機会があった時は患者さんに意見を聞くことがありましたが、そこでも「意見を言ったら明日からちゃん治療をしてもらえなくなるかもしれない不安がある」と聞き、本音を伝えられずにいる患者さんの多さに驚きました。
医療者との関係性を変えていかないと、患者さんは望むような医療を受けることができないのではないかとの懸念が生まれたのです。
懸念を払拭するには、医療者としてではなく一人の人として地域の人たちと関わることが重要だと考え「FLAT STAND」を立ち上げました。「FLAT STAND」には2つの意味があります。
1つは、誰でも気軽に「ふらっと」立ち寄れるお店であること。もう1つは、お客さまと私たちが「フラット」な関係で自由に話せる場所という意味です。
自然な流れで会話が生まれる、コーヒーがつなぐ医療と地域
地域の人たちと関わるうえで意識していることは何ですか?
「理学療法士」ではなく「一人の人」として地域の人たちと関わるように意識しています。
「FLAT STAND」では、私たちが医療や福祉の関係者であることを積極的にアピールしていません。「医療と福祉」の看板を掲げてしまうと、自然な関わりができないと考えるからです。
私は「一個人」としてカフェに訪れる方と接し、会話の流れで必要があれば、医療や福祉の専門職であることを伝えています。
会話を重ねる中で訪問看護の相談を受けることはありますか?
あります。「FLAT STAND」には、訪問看護のパンフレットやヘルプマーク、医療や福祉に関する本などを置いています。
「これは何だろう」と興味を抱いてくれた方との会話の流れで、訪問看護や医療の話に発展することも多いです。自然発生したコミュニケーションの中で地域と医療のつながりを構築できるのが、「FLAT STAND」の特徴です。
カフェの近くに訪問看護ステーションがあるので、直接相談に来る方もいます。医療の専門家として、支援を必要とする方には質の高いサービスを提供したいと考えています。
医療依存度の高い方々のケアも、積極的に受け入れています。
人が集まり、溜まる場「たまれ」
FLAT STANDでは、どのようなイベントが行われるのですか?
例えば、毎年1月末から節分まで熊手の展示イベント「みんなの熊手展」が開催されています。府中市にある大國魂神社で購入した熊手をデコレーションするイベントで、毎年40人前後の方が参加しています。
また、バレンタインの時期には、「FLAT STAND」の裏にお菓子のアトリエを構えるパティシエさんや障害のある方がイラストレーターとして絵を描き、デザインと組み合わせて商業に展開させる事業を行なっている「想造楽工」さんと協力してポップアップイベントを開催しています。
作品をTシャツやピンバッジにして販売しています。
スペース利用の多くは、「FLAT STAND」の利用者です。「FLAT STAND」に来てくれた人たちから「スペースを使いたい」との要望があり、さまざまなイベントが実現しています。
「たまれ」の活動についてお聞かせください
「FLAT STAND」の隣にある古いアパートが2棟並んでいます。
そこには、パティシエさんが運営するお菓子のアトリエ、小学生が遊びを通じて関わりを深めるあそびのアトリエ、大学生が運営する中高生のための学びの場、銅版画のアトリエ、地元野菜を扱う八百屋などが集まっています。
「たまれ」は場であり、活動そのものでもあります。「たまれ」に集まった人たちで自然な関わりが生まれ、時には医療や介護の相談につながることもあります。
「FLAT STAND」の構想として、医療がありつつ、普段は一個人として多種多様な人たちと関わる場をつくりたいとの思いがありました。
2棟のアパートの存在を知り、「ここなら構想どおりの場所をつくれる」と直感的に感じて、まずはカフェを立ち上げました。その後、約3年かけて、現在の「たまれ」になりました。
「たまれ」の由来は、「人が集まり溜まってほしい」との願いと最寄駅の「多摩霊園」をもじりました。
距離感を大切に、誰もが心地よく過ごせる「まちのセカンドリビング」
場づくりやイベントを企画する際に気を付けていることは何ですか?
人との距離感です。「FLAT STAND」や「たまれ」は、誰でも気軽に立ち寄れる場です。
特別なルールはありません。訪れる人はコーヒーを飲んだり、おしゃべりを楽しんだり、ゆっくり過ごしたりと思い思いの時間を過ごしています。
日常的な関わりの中からおのずと医療や子育て、介護などの相談が生まれることもあります。
私たちは自分たちからお客さまや利用者の輪に踏み込まず、特別なこともせず、自然な関わりを大切にしています。
今のお話が「FLAT STAND」の目指す「まちのセカンドリビング」につながるのでしょうか?
その通りです。「サードプレイス」という言葉があります。 アメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグが著書『The Great Good Place(ザ・グレート・グッド・プレイス)』で提唱した言葉で、自宅でも職場でもない、自分にとって心地のよい時間を過ごせる第三の居場所を言います。
「FLAT STAND」はサードプレイスと言われることがあるのですが、私たちにとってはあまりしっくりきません。彼はサードプレイスを「とびきり居心地良い場所」「いかなる人にも開かれた場所」と定義づけています。
しかし、「FLAT STAND」では誰かにとっての居心地の良い場所は、誰かにとっての居心地の悪い場所になるという考え方を持っています。
そこでセカンドリビングという言葉が出てきて、リビングだからくつろいでもいいし騒いでもいい。でも、そこに誰かがいる時もある。
私たちが考える「セカンドリビング」とは、お互いへの配慮を大切にできる場所。それが「FLAT STAND」であり「たまれ」です。
「わたしとここで暮らす人と医療と福祉が”いい感じ”になっている社会」を目指して
医療や福祉と、どのように関わっていこうとお考えですか?
「FLAT STAND」を含め、目指しているのは「わたしとここで暮らす人と医療と福祉が”いい感じ”になっている社会」です。
「いい感じ」の概念は、立場によって解釈が異なります。
「いい感じ」を築くためには、お互いの感覚を理解し、尊重し、時には相手の立場に立って自分の考えを調整し、最適な落としどころを見つける必要があります。
時間が限られていても、医療者が一人一人の患者さんに目を向けて「いい感じ医療やケアを提供できるはずです。
これからも「FLAT STAND」は、「いい感じ医療やケアのあり方を模索していきます。
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