1日5回転!型破りな予防特化型デイ「リハビリモンスター」で挑戦と成長が好循環する理由とは
公開日:2025.04.18 更新日:2025.04.25
取材・文 松野えい
「あの選手はモンスター級だ」
例えばそのようにアスリートを形容するとき、そこに込められるのは畏敬の念と、未知なる可能性への期待。
そんな言葉を名前に冠した「介護事業所っぽくない、まるでフィットネス」なデイサービスが「リハビリモンスター」です。
施設内は活気に満ち、利用者もスタッフも新しい挑戦を重ねています。
リハビリモンスターは「医療福祉を面白くする会社」が企業スローガンの、株式会社PLASTが運営。
兵庫県神戸市を拠点に医療、介護、福祉、療育、デザインなどの分野で10施設以上を展開中です。
代表取締役の廣田恭佑さんに、事業の背景や大切にしている価値観、今後の展望を伺いました。

今回インタビューした方:廣田恭佑さん
株式会社PLAST 代表取締役
理学療法士として回復期リハビリテーション病院に勤務後、2014年に株式会社PLASTを兵庫県神戸市に設立。
「マチ支え」を軸に、地域に必要な事業を多岐にわたり展開。
予防特化型デイサービス、訪問看護ステーション、保育園、親子広場、カフェ併設の福祉用具店、チョコレート店、デザイン事務所など、10施設以上を運営。現在も、新規事業を計画中。
就労支援事業として「地産地消のクッキー&ラムネ専門店」の立ち上げに向け準備している。
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目次
「退院後、結局どこにも行けなかった」回復期リハ病院で再入院患者の声を聞いて
リハビリモンスターのサービス概要を教えてください。
予防に特化したデイサービス施設です。
1回60分という短時間のリハビリを1日5回転で実施している点と、総合事業対象者(※)と要支援1・2の方のみを対象としている点が、大きな特徴ですね。
理学療法士2名以上が常駐し、3〜4名の利用者に対して1名のスタッフがつくセミパーソナルに近い形態を採用しています。
サーキットトレーニングや理学療法士による評価・分析がメインのプログラムです。
どういった背景からリハビリモンスターを立ち上げたのですか?
僕はPLASTを起業するまで、理学療法士として回復期リハビリテーション病院に勤務していたんですが、当時、退院してしばらくすると再入院で戻ってこられる患者さんが多かったんです。
その方々に退院後の過ごし方を聞くと「結局どこにも行けていなかった。いざ動こうとしたら転んでしまった」と言われることもあって。
そういった状況をどうにかできないかと考える中で関心をもったのが「予防介護」です。
退院した方の受け皿になる場所を作りたいと考え、予防特化型の施設を作ることにしました。
(※)総合事業対象者…介護保険制度における「介護予防・日常生活支援総合事業」の対象者で、要支援認定を受けていないが、基本チェックリスト(生活機能に関する質問リスト)で支援が必要と判断された65歳以上の高齢者のこと
※イメージは「フィットネスとデイの間」。現在は兵庫県内で4店舗を展開中。
反響としては、開所当初から利用者さんにはご好評いただいています。
一方で、ケアマネージャーさんからは初めは「60分で効果は本当にあるの?」と疑問のご意見もいただいていました。
ただ、ある程度動ける方に対しては、従来のような3時間もの長時間にわたるリハビリは必要ないんじゃないかと感じていたんです。
僕もそうですけど、1時間でもフルで運動したら相当しんどいと思うんですよ。
そういった点や運動効果についてケアマネージャーさんにも伝えながら、施設展開してきたというところです。
通いたくなる場所とは?行動変容を促すデザインの力
刷新的ですね。外観や内装もかっこよくて、新しさを感じます。
「自分自身や親が通いたくなる場所」を思い描きながら設計してきました。
介護施設というよりも、カフェやフィットネスジムなどの一般施設をイメージし、そこにバリアフリー機能を落とし込んだ感じです。
施設名も「介護施設っぽくないものにしよう」とずっとスタッフとディスカッションしてきて。
パチンとハマったのが「モンスター」でした。
介護施設名で使いそうにない言葉ですよね。
でもすごい人のことを「モンスターだ」って言ったりするじゃないですか。
「ここでモンスターな人を作ろう」というコンセプトで命名しました。
※リハビリモンスターのロゴ。イメージキャラクター「リハモンくん」のギザギザの歯を強調したデザイン。「リハモンくんが悪いところを食べる」という意味が込められている。
「介護施設っぽくない」点を意識してサービス設計されてきたのですね。
介護施設って結構クローズドなところが多いんですよ。「見せない」ようにする。
閉鎖的で、一般的にあまりいいイメージをもたれていないと感じてきました。
本当はやりがいのある、すごく魅力的で面白い仕事なのに、介護分野での人材不足が叫ばれているのもそこに起因しているのではと思うところもあって。
なので、あえてオープンな外観にしました。
雰囲気を外から見てもらえるようにというのもありますし、それによって利用者さんの意識が変わるんですよ。
例えば、初めは「外から見えるなんてちょっと恥ずかしい」と言っていた利用者さんが、逆におしゃれや化粧をして通うようになって。
運動後は仲間と喫茶店に行くようにもなって。
今までだったら家と施設の往復だけで済んでいたかもしれないですが、行動が広がって地域との関わりができてくるって、大きな行動変容ですよね。
すごく意味があるかなと思います。
かっこいいデザインは、単に「見せるため」ではないのですね。
見せるためのグラフィック的なデザインというよりも、あくまで「課題解決」が目的です。
行動変容を促すためのサービスデザインを考えています。
リハビリ後23時間がカギ 利用者のやる気を支える取り組み
利用者さんが「通い続けたい」と思えるように、何か工夫していることはありますか?
僕らは理学療法士としてずっと体と向き合っていく中で「リハビリをしている1時間」以上に「残りの23時間をどう過ごすか」が結構大事だと感じていて。
例えば、施設でリハビリを頑張っても家ではずっと寝ていたら、効果が持続しないですよね。
なので、それぞれの利用者さんに合わせたご自宅での運動メニューをお渡ししています。
エルゴメーターなどの大掛かりなトレーニング器具も施設内に置いていません。
復習しやすいトレーニングを提供しています。
自宅でも運動をしてその効果が持続すると、通うモチベーションも高まりそうですね。
目標設定も大切にしています。どんな想いを叶えるために通うのか。
何か目標をお持ちであればもちろんそれを応援しますし、ない場合は、例えば旅行支援の体制も整えているので「みんなで旅行にいきましょう」とか。
もっと気軽に、街歩きを提案することもあります。
施設周辺のオリジナル地図を作っていて、そこに利用者さんおすすめのお店や場所をまとめているんです。
それをもとに「今度はあそこへ行こうか」と。
利用者さんの体や生活を本質的なところから変えていくとなると、生活習慣や環境、コミュニティなどについても考えていく必要があると思っていて。
なので、運動だけでなく社会活動への参加も後押しするようにしています。
※リハビリモンスター芦屋内に掲示されているオリジナル地図「ディスカバーマップ」。
「あそこのお店おいしいで」「実は息子がやってんねん」など利用者の声を反映。
活動やコミュニケーションのきっかけになる。
目標を叶えられた利用者さんのエピソードを教えてください。
例えば、娘さんの結婚式でバージンロードを一緒に歩きたいということで、すごく練習してそれを叶えられた方がいらっしゃいました。
最近では、野球のコーチや監督をされていた方が「もう一回バッティングセンターに行きたい」とおっしゃって。
そこから奮起しリハビリを重ね、奥様とスタッフ同行のもとバッティングセンターへ行き、数十年ぶりにボールを打つことができた方もいらっしゃいます。
利用者さん本人だけでなく周囲の人みんなにとって、記憶に残る経験になりそうです。
利用者さんが目標を達成されたらそれを形に残したいと思い、「リハモンカード」というグッズを製作中です。
※製作中のリハモンカード。その方の人柄やパワーが伝わってくる。
若い人に伝えたいことや人生で大切にしていることをお聞きし、それらの言葉をお写真に添えてカードにしています。
僕らは一応「サービスを提供する側」ではあるんですが、その方の人生訓やいろんなことを教えてもらうことにすごく意味があるんじゃないかなと思っていて。
そんな機会があるというのも、僕らの仕事の良さの一つだと思っています。
次の10年では社長を10人に!「面白く」挑戦を重ね、地域を明るく
今後の展望を教えてください。
PLAST全体としてやりたいことがたくさんあるんですが、直近では高齢者の方の就労支援事業を立ち上げようと準備しています。
まだまだ働けるのにその力を持て余していらっしゃる方はすごく多くて、そういった方々が、ご自身の経験や得意を生かして社会で役割をもてるような場所作りをしていきたいです。
それと、今PLASTは11年目ですが、次の10年では社長を10人作っていきたいというのもあります。
社長を10人!どういったイメージでしょうか?
PLASTの組織構造はピラミッド状というよりアメーバ状を意識していまして。
これまでは僕がしたいことをベースに事業展開してきましたが、今後はもっとスタッフにも新規事業の開発に取り組んでいってほしいです。
社内企画の制度も整えていますし、社内起業でも独立起業でもいいので、どんどん挑戦してもらえたら嬉しいですね。
各事業に「社長」がいてお互いに情報交換などできれば、みんなでもっと成長していけるだろうというイメージです。
事業展開そのものが目的ではなく、あくまで「地域の課題をどう解決するか」の視点が土台ですが、損得勘定よりも「とりあえずやってみよう」の精神で行動してほしいと思っています。
※子供関連の事業は、スタッフの企画が事業化されたものの一つ。現在PLASTでは多くの事業を展開しているが、廣田社長は「僕一人ではできなかった」と話す。
PLASTは「医療福祉を面白く」というスローガンを掲げていますが、これからも大切にしたいのはやっぱり「面白い」ということ。
「興味深くワクワクと対象に取り組む」という意味合いで使っていますが、最高の褒め言葉だと思っているんです。
面白いから楽しくなって、楽しいから、その価値観に共感してくれるメンバーがいっぱい入ってきてくれて。
それによって地域が明るくなったり、もっといろんな人を巻き込めたりするんじゃないかと考えています。
PLASTが、そんな好循環の起点になれたら嬉しいですね。
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