「料理」で認知機能向上を目指す!「なないろクッキングスタジオ」が体現する新たなデイサービスの形
公開日:2025.05.22 更新日:2025.06.02

取材・文 宅野美穂
株式会社SOYOKAZEが運営するなないろクッキングスタジオは、「料理」を通じて自立支援と社会参加を促進する形のデイサービスです。「料理療法」を取り入れ、介護を必要とする人の心身の健康維持やコミュニケーションの活性化を図っています。
本インタビューでは、なないろクッキングスタジオの取り組みと効果、介護業界における課題などについて、株式会社SOYOKAZE事業部長の神永美佐子さんにお話を伺いました。

今回インタビューした人:神永美佐子さん
「株式会社SOYOKAZE」にて事業部長を務める。全国に介護施設を展開するSOYOKAZEにおいて、デイサービスとショートステイを中心とした事業を推進。「なないろクッキングスタジオ」では、料理を通じて介護を必要とする人の心身機能の維持・向上を目指している。
おすすめ特集
目次
1日2回、各回最大20名が3時間強で5品を作る「料理特化型」のデイサービス

最大20名の利用者が料理に取り組む
なないろクッキングスタジオについて教えてください。
なないろクッキングスタジオは、株式会社SOYOKAZEが運営する「料理特化型」のデイサービス施設です。従来の「お預かり型」とは異なり、利用者が料理を楽しみながら心身の活性化を図ります。
スタジオでは、午前と午後の1日2回、各回最大20名の利用者が約3時間で5品を作ります。バイタルチェックと軽く運動をした後、メニューの説明や使用食材、栄養価について楽しく学ぶ「なないろアカデミー」を受講後、調理に入ります。共同作業を通じて、利用者同士のコミュニケーションも多く見られます。
なないろクッキングスタジオの利用対象者は、介護度の軽い方だけではなく、高次脳機能障害の方にもご利用をおすすめしています。
スタジオはバリアフリーになっていますので、車椅子や杖、マヒのある方も安心して作業ができます。
また、利用者の状態に合わせたグループ分けでの作業分担制となっており、男性や女性、軽度~重度の方、認知症の方、どなたでも楽しんでご利用いただけます。
株式会社SOYOKAZEでは、どのような事業を展開していますか?
株式会社SOYOKAZEは全国に約370施設を展開する介護サービス企業で、デイサービスとショートステイを中心に事業を全国展開しています。
なないろクッキングスタジオ以外にも、1つの建物で複数のサービスを提供する複合型サービス「そよ風」も運営しています。
普段口にすることがないメニューと「普通」の味で食事を楽しんでもらいたい

協力しながら皆で作業
料理の内容はどのように決めているのでしょうか。
従来の介護施設で提供される食事とは異なり、洋食やエスニック料理など利用者が普段から口にする機会が少ない新たな料理にチャレンジしてもらっています。
特に女性の利用者は長年主婦として料理をされていた方が多く、日常的な料理では物足りなさを覚えるだろうと考えました。
初めて作る料理を通じて新たな学びと刺激を得て、喜びと意欲を持ち、「誰かに教えたい」と思ってもらえるメニュー構成を心がけています。
栄養面について意識されていることはありますか?
カロリーや塩分に配慮しながらも、過度な制限は設けていません。糖尿病などの食事制限がある方でも、来所時は食事を楽しんでもらえるように柔軟な対応を心がけています。個々の好みに合わせて味付けを調整できる工夫もしています。
管理栄養士による厳密なメニュー設定ではなく旬の食材を活かした季節感のある自然の旨味を生かした料理を提供し、施設食にありがちな薄味ややわらかすぎるメニューではなく、一般的な味付けを心がけています。
薄味だと食べたがらない人も、一般的な味付けだと食欲が増している印象です。
高齢者だけでなくリハビリが必要なら若い世代も「習いごと」感覚で利用できる

鮭のムニエルを調理中
来所前後で利用者に変化は見られますか?
利用者の家族からは、「自分から話すことが多くなった」「長時間立っているところを初めて見た」などの声を聞きます。
印象的だったのは、「文字の変化」です。毎回、利用者には記録として「名前」「日付」「活動内容」「メニュー」「感想」を書いてもらっています。
継続的に記録を見てみると、「書ける文字数が増える」「筆圧が強くなる」「難しい漢字を書ける」などの変化が見られます。
男性利用者の例では、9ヶ月間で文字の配置が整然となり、漢字の使用数や塗りつぶしの技術も向上。調理手順やイラストも描けるようになりました。
介護における効果の数値化は難しいのですが、文字の変化は認知機能改善の指標になると分かりました。
自費にはなるものの、介護保険の対象でなくてもなないろクッキングスタジオを利用できると伺いました。実際に利用した方について、お話を聞かせてください。
17歳の男子高校生がバイク事故で高次脳機能障害を負い、退院した後、なないろクッキングスタジオに週3回通っていました。
料理は未経験でしたが、「祖母に料理を持ち帰る」目的を抱いて取り組んでいました。当初は包丁を使うのも困難で、事故の後遺症から作業中の集中力も続かない状態でした。
しかし、利用者に交じって料理に取り組み、若さもあったとは思いますが3ヶ月で学校へ復帰できました。
介護保険対象外の方は10割負担にはなりますが、定員に空きがある場合は年齢問わず利用してもらうことが検討できます。
「お預かり型」から「選択型」へ 特化型のデイサービスが求められる時代に

調理時に着用するエプロン、ビタミンカラーを意識
なないろクッキングスタジオを始めた背景を教えてください。
従来のデイサービスは「お預かり型」が主流です。利用者が朝から夕方まで施設で過ごし、レクリエーションや食事、入浴などのサービスを受けるスタイルですが、このような形態は業界全体で飽和状態であると考えています。高齢者の中には従来型のデイサービスに満足している方もいれば、我慢して利用している方もいます。
今後は団塊世代を中心に、利用者が「主体的に選択できるデイサービス」へのニーズが高まると予想しています。
従来型の「お預かり型」デイサービスから脱却し、利用者が自分の意思で選べる特化型デイサービスの開発が急務だと考えて、第一弾として料理特化型のなないろクッキングスタジオを開設しました。
「主体的に選択できるデイサービス」について詳しくお聞かせください。
これからの高齢者世代は、自身の要望をはっきりと表明する人が増えてくると予想しています。デイサービスを受けるにしても、積極的に自分の希望を伝えて支払う料金に見合ったサービスを求める傾向が強まるでしょう。
このため、従来型の画一的なデイサービスではなく、より個別化された質の高いサービスの提供が必要だと感じています。
デイサービスの内容を差別化する必要があるわけですね。
はい。デイサービスは現在、送迎可能な地域内の施設から選ぶしかありません。「サービス内容で利用する施設を決める」ことが、デイサービスではできない現状です。
私は、「利用者がサービス内容を自由に選択できない」ことを残念に感じています。このような思いもあり、なないろクッキングスタジオは「選ばれる施設」にしたいと考えてまだどこにもない料理特化型の施設にしました。
料理は世代を越えたコミュニケーションを促進する優れたツール

「なないろクッキングスタジオ自由が丘」外観
今後、なないろクッキングスタジオをどのように展開していきたいですか?
スタジオを増やしていきたいとの思いはあります。既存スタジオと同じ形式で展開していくべきなのか、少しずつ変えていくべきなのかは検討中です。
自由が丘の他、「成城」「三軒茶屋」「杉並宮前」にもスタジオがありますが、少しずつ特色が異なります。地域に合わせて、どのような形で運営するのが良いのかを検討しつつ、コンパクトな規模での展開や利便性の高い場所での展開も考えています。
将来のビジョンをお聞かせください。
なないろクッキングスタジオを立ち上げる際に目指したのは、介護を必要とする人が自主的に選択できる場所を作ることです。
「もっとできるかもしれない」「もっとやってみたい」との意欲を持てるような、成果や達成感を感じられるサービスを提供したいとの思いもありました。
料理は世代を超えた交流を自然に促進する優れたコミュニケーションツールだと思います。五感を刺激しながら共同作業ができ、失敗も成功も共有できます。
今後も、「料理」を通じてアクティブシニアを増やし、利用者本人にも家族にも喜んでもらえるサービスの提供を目指します。
他の記事も読む
- 外出先の五感情報・休憩場所が一目でわかる地図サービス「Calmspot(カームスポット)」 をリリース
- カームダウンスペースは刺激の少ない休憩所。感覚過敏の人の外出を後押し
- 「保険適用サービスから保険適用外(自費)サービスまで。包括的なボディメンテナンスを提供する『Studio&Cafe BALENA』」
- 買い物が最高のリハビリになる。作業療法士が見つけた、人とまちを元気にする“ショッピングリハビリ”とは?
- ろう児が積極的に学習できる環境をオンラインツールで提供「サークルオー」
- ろう児の「孤独」に寄り添う組織を目指す「デフアカデミー」
- ことばの悩み、子どもから大人まで言語聴覚士がサポート。 九州エリアで希少な相談先となる民間相談室が熊本に開室
- “自宅で一人でできるリハビリ”を、オーダーメイドで提供
- 聞こえのバリアフリー実現を目指してー話す側が使える対話支援機器を開発
- 全国制覇を目指したい!屋内で旅行気分を味わいながら運動をできる「テレさんぽ」
- 触れ合いを超えてリハビリへ。ドッグセラピーチーム「アビィー」の取り組み
- 下半身麻痺の佐藤弘道「作業療法士、理学療法士の皆さんが一緒に戦ってくれた」
- カフェがつなぐ、人と医療|立場に関係なく誰もが「フラット」に過ごせる「セカンドリビング」
- 1日5回転!型破りな予防特化型デイ「リハビリモンスター」で挑戦と成長が好循環する理由とは
- 目の見えない人はもちろん、見える人も!「音でみるSOUNDFUL RECIPE」で料理をさらに楽しく
- 神奈川大学サッカー部が団地に住み地域活動に取り組む「竹山団地 プロジェクト」
- ないなら造る!高齢者や障がい者の行動範囲が広がる車椅子ロボット「movBot®」
- 装具難民を減らしたい。 “使いたい”装具で暮らしを 支える「装具ラボ STEPs」が描くビジョン
- 「私のことは、私が決める」障がい当事者が運営する求人サイト「パラちゃんねる」が描く包括的な支援
- らくちん×おしゃれの新提案。片手で着られる「one hand magic」に注目!





