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聞こえのバリアフリー実現を目指してー話す側が使える対話支援機器を開発

公開日:2025.05.25

聞こえのバリアフリー実現を目指してー話す側が使える対話支援機器を開発

取材・文 桑原由布

ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社は、難聴者との対話をサポートするための機器「comuoon ® (コミューン)」を開発。

マイクでキャッチした音声をスピーカーから出力する仕組みで、話す人の声を難聴者が聞き取りやすい音にして届けます。

本記事では、「話す側」が使える対話支援機器が開発された背景や展望について、所長の中石真一路さんに詳しくお話を伺いました。

中石真一路さん

今回インタビューした方:中石真一路さん

ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社代表取締役
聴脳科学総合研究所 所⻑
実の⽗と祖⺟が難聴であったことから、前職の⼤⼿レコード会社在職中に難聴者に聴こえやすいスピーカーシステムの研究に携わる。装⽤型の⽀援機器の限界を感じ、難聴でもコミュニケーションを諦めて欲しくないとの思いから、⽿につけない対話⽀援システムコミューンを開発。2014年12月より販売を開始する。

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「話す側」が使用する難聴者との対話支援機器

comuoon ® (コミューン)とはどのような機器ですか。

comuoon ®は話す側の声をマイクで拾い、相手の目の前に置いたスピーカーから出力する対話支援機器です。

卓上型や携帯型など全5種類のラインナップがあり、シリーズの発売を始めてから12年が経ちました。

現在、全国で約1万5000台のcomuoon ®が導入されており、病院や薬局、行政の窓口など大きな声を出せない公共施設や、難聴の高齢者の多い介護施設、難聴の子どもたちが通う教育機関など、さまざまな場所で活用されています。

comuoon ®は音の増幅装置ではなく、「明瞭な音」に補正して相手に届ける機器です。

難聴者にとって、音量を大きくしただけの音は騒音のような不快な音に聞こえ、会話の内容を判別することも困難です。

comuoon ®のシステムでは、難聴者が認識しやすいように中高音音域を音声信号処理で最適化し、言葉として脳が認識しやすい音声を実現しています。

難聴者とコミュニケーションをとるためには、まずは難聴を正しく理解していることが重要になります。

話し方の工夫や環境づくりも大切で、機器を使用すれば聞こえの問題が解決するといった考え方ではなく、まずは「難聴の基礎知識を学び、環境における課題の認識」をおこなった上で、解決策としてcomuoon ®を活用してくださいとユーザーにもお話しています。

私たちが目指すのは「コミュニケーションのバリアフリー」を実現すること。

機器を導入する際には専門知識を持ったアドバイザーが相談に乗り、難聴によるリスクや意思決定支援のための話し方の工夫などの講座の開催も行っています。
comuoon SE
comuoon SE
comuoon SE
comuoon mobile

難聴者だった父と祖母の存在がコミューン開発のきっかけ

「話す側」が使える機器が開発された経緯を教えてください。

前職では大手のレコード会社で音響機器の開発などを手掛け、実の父と祖母が難聴者だったことから、難聴者でも聞こえやすいスピーカーの開発にプロジェクトを立ち上げました。

家族が難聴になった当時、私はまだ学生で何もできませんでしたが、研究をすすめる中で同じ境遇の人たちがたくさんいることに気づき、私のように後悔する人を減らしたいとの思いからでした。

レコード会社でのプロジェクトは1年ほどで打ち切りが決まったため、思い切ってNPO法人を立ち上げ引き続き調査をおこなうことになりました。

その後製品の製造に目処がたち独立することに。

約3年にわたる研究を続け、2014年にcomuoon ®を発売しました。

日本国内で暮らす軽度・中等度の難聴者のうち、補聴器を所有している人の割合は約15%だといわれています。

継続して使用いる人となるとさらに低くなります。

補聴器の価格帯は様々ですが、調整可能な補聴器は高価なものも多く、高齢隣補聴器が必要な聴力レベルとなっても経済的な問題で装用を諦めたり、「年を取ったから仕方がない」と難聴の状態を放置されたまま暮らす高齢者も多く存在します。

そうした「コミュニケーションを諦めている」多くの方々に対して、話す側からアプローチするコミュニケーション機器も必要だとお伝えしています。

「大きい音」ではなく「明瞭な音」を求め試行錯誤

comuoon ®を実用化するまでに苦労したことはありますか。

難聴者の聞こえ方を知ることが最も大変でした。

comuoon ®の開発プロジェクトには、後天的に難聴になったアーティストや音響技術者も参加しています。

音のプロの視点から、健常時との聞こえ方の具体的な違いを教えてもらうことで、より詳細な聞こえ方がわかり、研究開発を進めていきました。

また、実用化にいたるまで試作機でのテストを5~6回繰り返し、延べ150人以上の難聴者の方々の協力を得て実用化に至っています。

また、医学的エビデンスについては九州大学病院耳鼻咽喉科の先生方の協力を受け、研究成果が報告されています。

comuoon ®の開発を進める上で分かったのは、難聴者は健聴者よりも音質に敏感だということ。

難聴者の家族と暮らした自身の経験から予測はしていましたが、「大きい音」ではなく「明瞭な音」が聞き取りやすいことが分かりました。

「聞く」という動作の中には、耳に届くたくさんの音の中からことばを拾い上げ、その意味や感情を読み取るプロセスが含まれます。

健聴者が意識することはほとんどありませんが、聴力が衰えるとこの能力も低下することが多く、騒音下ではより顕著になります。

また声が大きすぎることで、怒っているような口調となり口論に発展するケースも出てきます。

雑音を除去し、中音域を強調したり、音の明瞭度を極限まで上げたりすることで、難聴者でも会話の内容を聞き取ってもらえるようになりました。

コミュニケーションが円滑になり患者さんの表情も変化

comuoon ®を使った方の感想を教えてください。

声を張り上げなくてもコミュニケーションがとれて、病院や介護施設の職員さんからは「大きな声を出さずに済む」「楽になった」と言われる方が多いです。

難聴者側は皆さんcomuoon ®を通した声が聞こえた瞬間、明らかに表情が変わりますね。

これまでよく聞こえなかった声が届き、相手に対して「大きな声だから聞こえるのではない」と気づいたり、「こんなことを言っていたんだ」と通じ合ったり。

難聴者のご家族は「もっと早く知りたかった」と口をそろえて仰います。
comuoon 活用風景
comuoon 活用風景

「聞きとれない」と「聞こえるけどできない」の見極めが可能になる

リハビリ職の方たちはどのように活用されていますか。

歩行訓練や上肢下肢訓練などさまざまなリハビリで、患者さんへ口頭指示をスムーズにするために活用されています。

指示が聞こえにくいことで能動的でなく受動的なリハビリなってしまいます。

どのようなリハビリであっても、セラピストの先生方から患者さんに指示を伝えるのは口頭による指示。

まずは指示の内容を正確に理解してもらう必要があります。

難聴の患者さんとの意思疎通の問題を改善することで、大声による指示ではなくなり、落ち着いた状態で安心されることで会話のキャッチボールも生まれますから、患者さんのモチベーション向上やラポール形成にも役立っています。

印象深かったことはありますか。

病棟で下肢のリハビリを受けていた90代の患者さんと、セラピストの方にcomuoon ®を使ってもらったことです。

セラピストは、患者さんの足元で運動機能を見る動作と、耳元まで顔を寄せ大声で指示を出す動作を忙しく繰り返していました。

しかし、患者さんが難聴のため指示が伝わらず、運動機能の正確な評価もできません。

そこでcomuoon ®を使ったところ、セラピストの動きがまず変わりました。

患者さんの足元を見る体勢のまま指示が伝わるようになり、患者さんは内容を理解しながらリハビリに励むようになりました。

双方の会話も自然に生まれ、二人の表情も見るからに生き生きしてきました。

聴覚をサポートするだけで、リハビリの質が上がることを目の当たりにした出来事です。

難聴における正しい理解がもっと必要

聴覚に関する知識を学ぶセミナー
聴覚に関する知識を学ぶセミナー

comuoon ®の導入を進める上で見えてきた課題はありますか。

一般の人たちはもちろん、難聴高齢者を支援する医療介護従事者の人たちも「難聴によるさまざまな影響」に対してあまり学ぶ機会がないことです。

学ぶ機会がないと知識が得られず、これまで通りの「大きな声での指示」が常態化されます。

しかし、難聴にも程度や種類があり、その方の聴力レベルに応じた適切な距離や位置関係、コミュニケーションの方法があります。

難聴者には単に大きな声で話せば言葉を理解できると思い込んでいる人が多く、実際には聞き取れていなくても「聞こえたふり」をしてやり過ごす高齢の難聴者の方々をたくさん目にします。

難聴者と暮らした経験があると、聞こえているかはご本人の表情である程度分かるものですが、「聞こえの状態の把握」はほとんどできていないのが実情です。

まずは、高齢者の難聴とリスクを正しく理解すること、そこからだと思います。

難聴の方へは意思疎通方法だけではなく、聞こえやすい環境整備も必要だと考えています。

例えば、室内で大勢の人が話しているリハビリ室は環境としては最悪の場所です。

閉鎖空間で大勢の人が会話をするため、その音が壁や天井に反響します。

こうした場所は難聴の方の聞き取りを低下させる要因です。

また、補聴器を装用した方もうまく聞き取れないケースが出てきます。

当研究所では壁面に声の反響を抑えるための吸音材「アコースティックミュートパネル」を貼り付けなどの対策もご提案しています。

騒音下ではセラピストの声も大きくなることでさらに聞き取りが悪化しますし、セラピストの声帯への負担も増えます。

患者さんはもちろんセラピストの健康面も考えた環境構築が重要となります。

この分野は私の専門なのでお悩みの先生方おられたらぜひご相談をいただきたいですね。

聴覚機能が衰えると人との会話や外出が億劫になり、そのことでフレイルや認知症のリスクも高まります。

家族や友人との会話も減り、周りに人がいるのに孤立する状況にもなります。

こうした問題を私たちは聴力低下によるフレイル=「ヒアリングフレイル」と定義して、耳の健康を維持するために必要な知識を学んでもらうセミナー「ヒアリングフレイルサポーター養成講座」をリアルとオンデマンドにて開催しています。

現在の受講者は3,500人を超え、聞こえに関する基礎知識や難聴者とのコミュニケーションの改善方法などを学ぶことができます。

ぜひ気になる方は受講いただきたいです。

国もようやく高齢者の聞こえの問題を認識し始め、2024年9月には内閣府の「高齢社会大綱」にも加齢による難聴への対応が明記されました。

今後の展望を教えてください。

講演会の様子
講演会の様子

現在、難聴における正しい知識や難聴の方との意思疎通のノウハウ、支援機器活用の重要性を1人でも多くの人に伝えようと、全国で年間約130回ほど講演活動を行っています。

たくさんの方が難聴やヒアリングフレイルに関心を持っていただき、社会全体で「聞こえにくい方が暮らしやすい環境づくり」を目指していきたいです。

今よりさらに良い環境で働けるよう
キャリアドバイザーが全力でサポートします
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