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ろう児の「孤独」に寄り添う組織を目指す「デフアカデミー」

公開日:2025.06.20

ろう児の「孤独」に寄り添う組織を目指す「デフアカデミー」
大阪・谷町六丁目にある「デフアカデミー」は、ろう・難聴児が通う放課後デイサービスです。

2017年に設立されて以来、約200名もの子どもたちを受け入れてきました。

ろう・難聴児に特化したデイサービスが少ない環境のなか、子どもたちが学びや生活の質を向上できるよう、特別なプログラムを実施。

さらに手話の使用や聞こえ方など、それぞれ事情が異なる子どもたちに対応できるよう、聞こえるスタッフ・聞こえないスタッフで支援しています。

本インタビューでは、デフアカデミーを運営するNPO法人Silent Voiceの代表理事・尾中友哉さんと児童指導員・黒木識さんに設立の経緯や具体的なプログラム内容、今後の目標などを伺いました。

尾中友哉さん

今回インタビューした人:尾中友哉さん

NPO法人 Silent Voice 代表理事
1989年滋賀県大津市出身。
ろう者の両親の間に生まれた聞こえる子ども「コーダ」として育つ。
2017年に教育と就労においてろう者のサポートをおこなうべく、NPO法人Silent Voiceを設立。
現在は放課後等デイサービス「デフアカデミー」とオンラインプログラム「サークルオー」を運営。
ろう者と聴者との関わりをアップデートする活動に取り組んでいる。

黒木識さん

今回インタビューした人:黒木識さん

放課後等デイサービス
デフアカデミー児童指導員
2024年7月にSilent Voice に入社。
「デフアカデミー」にて児童指導員として従事。
自身もろう者という当事者の立場から子どもたちの支援にあたっている。

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「デフアカデミー」では、具体的にどういったプログラムを実施しているのでしょうか。

NPO法人Silent Voice 代表理事 尾中友哉さん NPO法人Silent Voice 代表理事 尾中友哉さん
尾中さん:小学生を対象に、低学年・高学年の学年別クラスのほか、手話・パソコン・日本語のクラスを設けています。

月ごとの「月間テーマ」を設けて学びを深めていく活動をしているのが特徴です。

聞こえないお子さんがいる家庭に行くと、よく「机」や「カメラ」など、部屋の中の物に名前が貼ってある光景を目にします。

聴者の場合、物の名前や人名、漢字の読み方などは、日常の会話の中で声を通じて覚えていきます。

ろう者の場合はそれが視覚に置き換わって、前述のような形で習得していく家庭が多いです。

ところが、「友情」や「愛」など、概念的なものはモノとして存在しているわけではありません。

そこで「月間テーマ」では、子どもたちに触れてほしいテーマを月間で1つ設けます。

例えば「チームワーク」が月間テーマなら、それに関連するキーワードを例えば「円陣」といったように一日の活動のコンセプトとして、遊びやゲームを通し、円陣の意味やどんな場面でする行為なのかなどを体験していきます。

月間テーマ 月間テーマ

児童指導員として、子どもたちと日常的に接している黒木さんはどのようなことを心がけていますか。

児童指導員の黒木さん 児童指導員の黒木さん
黒木さん:デフアカデミーの活動では「子どもが主体的であること」を1番大事にしています。

大人が「これをやってください」と指導するのではなく、子どもたちの「やってみたい」を尊重し、そこから子どもたちが自分で考え、動く流れを作っています。

そうすることで、自然とコミュニケーションも生まれていきます。

仮にその中でコミュニケーションがうまくいかないことがあっても、周りのフォローや気遣いを通してどうコミュニケーションを取っていけばいいのかを学ぶことができます。

子どもたちのやり取りを見ていると、高学年の児童がロールモデルのようになっている場面も見られます。

現在、デフアカデミーはどのような体制で運営しているのでしょうか。

黒木さん:現在は正社員が自分を含め5人、アルバイトスタッフが7人なので計12人で稼働しています。

手話ができる聞こえないスタッフと聞こえるスタッフを配置しています。

両者が一緒に入ることで、子どもの声を拾えないという問題をクリアできていると感じます。

ろう児・難聴児はそれぞれの子どもによって聞こえ方や話しやすい言語(日本手話または音声日本語)の違いがあります。

声で話したい子ども、手話で話したい子ども、どの子どもの”声”も拾える状況を作っておくことで、気持ちを理解し合える瞬間が生まれるんです。

子どもたちをフォローする上で、何かルールなどは定めていますか。

黒木さん:月に1回、スタッフを全員集めてミーティングを実施しています。

その時通っている子たちの情報共有、仕事をしている中での困りごと、子どもが怒っている時はどう対応したらいいのか、というようなケースを共有し、対処方法について意見交換をしています。

意見交換ができ、スタッフ同士の連帯や意識を高めていくという場を設けています。

例えば、活動で子どもと接する際は、否定的な言葉を使わないことが共通ルールになっています。

これは根本的に大事な部分だと思っていて、「ダメ」というような言葉を使うのではなく「どうしたの」という問いかけから始めるようにしています。

そういった子どもたちとの関わりの中での大事な心がけも、あらかじめ共有するようにしていますね。

ろう・難聴児が社会に出て感じる「壁」

尾中さんがろう者・難聴者をサポートするNPO法人「Silent Voice」を立ち上げたきっかけを教えてください。

尾中さん:僕自身は聞こえますが、両親ともにろう者の「コーダ」として育ちました。

両親がずっと手話で会話していた環境で育ち、僕も物心ついた頃から手話で話すように。

特に手話を勉強した覚えもなく習得したので、手話は僕の母語と言えます。

祖父母は聞こえる人たちだったことから日本語も教わり、次第に家庭内で通訳もするようになりました。

家庭内においては、手話で言いたいことが言い合えるのでコミュニケーションで特別な苦労をした記憶はありません。

ですが、あるタイミングで父親がどのような環境で働いているかを知ります。

当時は昭和という時代背景もありますが、例えば同僚から声で呼びかけられても気付けないのでネジを投げて振り向かせることがあったそうです。

父親といえば「家庭内のヒーロー」というイメージを持っていた僕からすると、そのギャップに驚き、ショックを受けたのを覚えています。

一方で、母親は「喫茶店を開きたい」という夢があり、様々な否定の意見も受けながら夢を叶えました。

あるとき両親に「聞こえるようになりたいか」と尋ねたところ、父親は「これまで苦しい思いをしてきたし、やりたいこともたくさんあるから聞こえるようになりたい」、母親は「いま家族や友人、お客さんがいる幸せな環境を変えたくないから、自分を変えたくない」と答えました。

聴力の程度が同じでも「聞こえないこと」への考え方がまったく違う二人を見て、「聞こえないこと」の捉え方は置かれた環境や経験に大きく影響を受けるのだと感じました。

その気づきが創設のきっかけにつながりました。

そこから子どもたちにフォーカスした「デフアカデミー」を創設したのはどういった経緯があるのでしょうか。

そこから子どもたちにフォーカスした「デフアカデミー」を創設したのはどういった経緯があるのでしょうか
尾中さん:子どもの頃に抱いた「聞こえない人の力をもっと社会に広げたい」という思いから、まずは企業向けのコンサルティング「デフビス」というサービスに取り組みました。

ろう者が就職すると、昇級や昇格の機会が少ないことが起こり得ます。

そこで僕たちが職場に入り、通訳や互いの事情を伝える役割を果たしつつ、解決をしていくという内容です。

そこで入社したての方たちから話を聞くうちに、「聞こえる上司からチームワークがないと言われる」というのがよくある悩みだと知りました。

僕も研修を通して何ができるかを考えながらサービスの提供をしてきましたが、みんな同じような話をするんです。

まず前提として、ろう・難聴児の割合は子ども1000人のうち1人と言われており、聴覚支援学校が1校しかない都道府県は全国で21あります。

例えば全校生徒のうち、自分だけ聞こえない生徒だったという子もいます。

そうなると、どうしても「チームワーク」の経験や意味合いが、聞こえる人とろう・難聴者の間で違いが出てきます。

例えば、支援学校で同級生は5人という状況と、一学年に40人学級が10クラスあるという規模の違いがあります。

18歳までずっと孤立していたと打ち明ける人も少なくありませんでした。

その状況を知ったときに、もっと深刻な問題があることに気づきました。

そこで、「NPO法人 Silent Voice 」を立ち上げ、最初にはじめたのが「デフアカデミー」です。

ざっくりと言えば、ここではチームワークを磨いてほしいなと思っています。

2024年11月から、言語聴覚士による保護者や学校・医療関係機関と連携した支援を行うようになったとか。それによって、どのような変化が生まれたのでしょうか。

尾中さん:やはり子どもの個別支援ができるようになったのは大きかったですね。

これまで集団クラスしか行っていなかったので、個別で支援ができるようになって発見が増えました。

具体的には、その子に合った日本語の支援、手話の支援などを行っています。

例えば、ある子は元々は声を聞く・声で話すというコミュニケーションが中心で手話は未経験でした。

その子の様子を見ていると聴力と口の形を読み取るだけでは話の内容を理解できていない部分があり、手話学習の支援を一年間行っていくと、その子どもは自然に顔の向きが変わり、声を聞きながら手話を見るようになっていきました。

デフアカデミーは小学生が中心なので保護者の方々のニーズは大きいです。

できるだけ子どもたちの自己決定を大事にしたいっていうのもありつつ、保護者さんの要望も聞ければと考えています。
ろう者の気持ち・ことばを引き出す「コーチ」の存在

ろう者の気持ち・ことばを引き出す「コーチ」の存在

最後に、今後の目標を教えてください。

尾中さん:現在通所型の「デフアカデミー」とオンライン教育サービスの「サークルオー」は別のチームとして運営しているのですが、ゆくゆくは共通基盤化しようと思っています。

2つの取り組みを見ているなかで、聞こえない子どもたちの「孤独」が大きな阻害要因になっていると感じています。

例えば、地域や家族、学校で聞こえないのが自分だけという状況になると「補聴器を周りから見られたくない」という理由で髪を伸ばして隠す子どももいます。

子どもたちの気持ちを引き出し理解できる存在が必要だなと。

そういう支援のノウハウを蓄積した「コーチ」という資格のようなものを作りこの領域の支援に関わっていく方を増やしていくことが今後の目標ですね。

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