買い物が最高のリハビリになる。作業療法士が見つけた、人とまちを元気にする“ショッピングリハビリ”とは?
公開日:2025.07.26 更新日:2025.08.04

取材・文 みつはら まりこ
病院や施設の中だけが、リハビリの場とは限りません。「人・まちに光(元気・希望・夢)を届ける」。そのような理念から生まれたのが、買い物を通じて身体機能や意欲を高める『ショッピングリハビリ』です。
島根県雲南市でスタートし、いまや全国17拠点に広がるこの取り組みは高齢者の自立支援だけでなく、健康増進、買い物難民対策、地域経済の活性化という多面的な成果も上げています。
「送迎がついて、買い物できて、体操もできる。今日も楽しかったわぁ~」
「このような言葉を日常で聞いています」と笑みをこぼすのは、作業療法士兼ショッピングリハビリ起案者である、杉村卓哉さん。
ショッピングリハビリの仕組みと効果・作業療法士としての原点・今後の展望を伺いました。

今回インタビューした方:杉村 卓哉さん
光プロジェクト株式会社 代表取締役 / ショッピングリハビリカンパニー株式会社 取締役
作業療法士としての経験を活かし、「買い物×リハビリ」を融合させた『ショッピングリハビリ』を考案。
買い物と歩行訓練を両立する専用歩行器「楽々カート」も開発しました。
島根県雲南市を拠点に、高齢者の自立支援と地域活性化を結ぶ新たなモデルの構築に取り組み、全国各地へ展開しています。
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目次
“ショッピング”で楽しみながら健康になる仕組み
『ショッピングリハビリ』とは、どのような取り組みかを教えてください。
ショッピングリハビリは、商業施設内にデイサービス機能を設け、日常生活の延長線上で機能訓練や社会参加を支援するリハビリテーションです。
利用対象は要支援1・2の方、あるいは要介護・支援となるリスクが高いとされる65歳以上の方々(介護予防・日常生活支援総合事業の事業対象者)で、午前と午後の2部制で運営しています。
ひかりサロン雲南(*)の場合、午前15〜20名、午後10〜12名、計80~90名の方が利用されています。
具体的には、送迎で来所された利用者は、まずサロン内で1〜2時間の体操や口腔・栄養指導を受けます。
その後、専用の『楽々カート』を用いてショッピングセンター内を約1500歩歩きながら、買い物を楽しむプログラムです。
(*)ひかりサロン雲南
「ひかりサロン雲南」は、全国で初めての「ショッピングリハビリ」専門サロンとしてオープンしました。
国家資格を持つ作業療法士や理学療法士が常駐しており、安心してリハビリに取り組める環境が整っています。
買い物がそのままリハビリになる、という発想が新鮮ですね。
日常生活に根ざした「買い物」を通じて、自然にIADL訓練と社会参加を実現するのがショッピングリハビリの核となる考え方です。
必要な商品を考え、選び、かごに入れ、レジで会計する一連のプロセスは、身体機能だけでなく認知機能や判断力の向上につながる要素が含まれています。
また、利用者同士や店員とのやりとりにより、社会との接点が自然に生まれることも特徴です。
「何を着ていこうか」「どんな髪型で行こうか」など、他者とのコミュニケーションが増えるため考えることも多くなる
生活の中の作業だからこそ、継続しやすそうです。
その通りです。
ショッピングリハビリの実施場所は病院や施設ではなく、生活の動線上にある商業施設内です。
「日常の延長」でリハビリが行える環境が実現しています。
基本的にスタッフは見守る形ですが、転倒リスクの高い方には療法士が付き添い、安全面に配慮しています。
加えて、地域ボランティアの方々も参加され、利用者との対話や体操への協力など地域とつながる開かれた場としても機能していますね。
こうした開放的な場づくりを可能にしているのは、「福祉施設らしさを極力なくす」ことへの配慮です。
一般のお客様も行きかう空間にあるため、「施設に通う」という感覚ではなく、「買い物に来るついでに体操する」くらいの気軽さで利用いただけます。
“リハビリ”や“施設”と打ち出すと「まだ必要ないわ」と思われてしまいますから、あえて「買い物と体操」と中立的で親しみやすい表現を採用しています。
ひかりサロンに来ることが高齢者のステータスになれば嬉しいですね。
地域社会との共生が融合している取り組みなのですね。
私たちの理念は、「人・まちに光を届ける」こと。
高齢者の自立支援だけでなく、地域活性化にも効果をもたらしています。
例えば、商業施設内にサロンを設けることで、店舗の売上増加や空きテナントの有効活用といった経済的効果が生まれる。
さらに、買い物困難者の対策や地域コミュニティの再構築にもつながります。
特に雲南市では、介護予防事業の参加率が向上しました。
「筋トレをしましょう」では参加してもらえませんが、買い物なら話は別です。
日常行為としての買い物が、介護予防の入り口となり得る。
ショッピングリハビリは単なる福祉サービスにとどまらず、地域経済を活性化する役割も持っていると考えています。

週1回、送迎付き。はじめるきっかけとしても、利用者の負担は少ない
「頑張る」ではなく、「楽しい」が生む好循環
利用者の反応について、どのような声が聞かれますか。
皆さんから聞こえてくるのは「楽しい」という言葉ばかりで、「頑張る」という声は一つも聞こえません。
「疲れた~」と言いながら万歩計を見ると1,500歩も歩いていて、にっこりされる。
「1人では体操もできないし、なかなか歩けないけれど、送迎があって買い物もできて、楽しいわ~」という声が日常ですね。
病院や施設のリハビリでは、作業療法士が「頑張りましょう」と促すのが一般的です。
しかし、ショッピングリハビリの現場では利用者の動機が外発的ではなく、自発的なものになっている。
たとえ身体に痛みがあっても皆さん楽しさが先に立つため、痛みを忘れるほど夢中になって買い物を楽しんでいた、といった場面もよく見られます。
利用者家族からの反響はいかがですか?
利用者が家族の役に立っている実感を持てることが大きな特徴です。
「孫に頼まれたから、飴と炭酸を買うんよ」「今日はこれとこれを買って1品料理作っておいてと頼まれた」など、こうした光景が日常的に見られます。
家族からお使いを頼まれることで、家庭内での役割が自然に生まれます。
この小さな役割の積み重ねが、利用者の心理的な充足や生活の張りにつながっていると感じますね。

「運動した次の日は体が軽い。来てない状態と比べると全然違う」という利用者の声も。
独居の方にとっては、どのような意義を持ちますか?
独居の方の利用は多く、ショッピングリハビリを生活のライフラインとして利用されています。
以前はヘルパーに買い物を依頼したり、家族が毎週連れて行ったりしていた方が、1週間分の買い物を自分でできるようになりました。
買い物リストを作り、商品を選ぶことで考える機会が増え、自分で歩けることに喜びを感じるようになる。
家に帰ると「買った食材で料理をしよう」「近所なら歩いて行けるかも」と、少しずつできることが増える。
ショッピングリハビリをきっかけに活動量が増え、望んでいた生活を取り戻せた独居の方もいらっしゃいます。
ショッピングリハビリが行動量を向上させる1つのきっかけになっているんですね。
実際に、数値でも効果が表れています。
半年間の調査によると、ショッピングリハビリの平均出席率は87.9%と高く、継続性のある介護予防事業として期待できます。
また、半年間で全体の64%の方が健康状態を維持または改善。
さらに、リハビリ開始時にうつの可能性があった54人のうち、21人が半年後にはうつの可能性から除外される結果も出て、身体・精神両面への効果も確認されています。
楽しみながら改善できるのは、リハビリを「生活の一部」に変えた結果だと感じますね。
作業療法士が見つけた環境の力と、前例がない挑戦
ショッピングリハビリという発想は、どのような経緯でたどり着いたのですか?
私は作業療法士として6年間病院で働いていました。
毎日、筋トレ・関節可動域訓練・歩行訓練などの機能訓練を行い、「頑張りましょう」と声をかけながら、高齢者の方を平行棒で歩かせたり、マッサージをしたり。
一時的にはよくなりますが、継続性がないと感じていました。
「これは本当に“作業”療法と呼べるのだろうか?」という疑問が、心に積もっていったのを覚えています。
転機となったのは、車椅子に乗った要介護3のパーキンソン病の方との出会いです。
その方は、車いすから前腕支持台型歩行器に変えただけで、自力で歩けるようになりました。
筋トレも歩行訓練も一切していません。
視力が低下した人が眼鏡をかけるように、適切な道具や環境さえ整えれば人は本来の力を発揮できる。
作業療法士としての原点を再確認した瞬間でした。
環境を調整することが人の能力を引き出すことに、確信を持たれたのですね。
その方に、「次は何がしたい?」と聞くと、「美術館に行きたい」とおっしゃったので美術館に連れて行き、その後は「買い物に行きたい」という希望も叶えることができました。
買い物中、まるで乙女のような表情で目を輝かせながら服を選んでいる姿を見て、「日常生活に直結した買い物こそ、最高のリハビリになる」と確信を得ました。
アイデアを思いついてから2年後、実現に向けて2010年9月に起業しました。
ほぼ全財産を投資して、歩行器と買い物カゴを一体化させた『楽々カート』を開発し、生産にこぎつけました。
当初はカートを販売営業しましたが、カート単体では売れなかった。
そこで出身地の自治体と連携したショッピングリハビリサービスを開発するも、前例がないため認可が下りなかった。
資金が底をつき、2015年8月に倒産寸前まで追い込まれました。

オシャレでどの年代にもなじみやすいライトグリーンカラーの、楽々カート。2011年にリリース。
その後、雲南市との出会いが転機に?
妻の実家がある雲南市に移住したのが2017年2月です。
木次駅前のショッピングセンターの2階に空きスペースを見つけた際、1階の時計屋さんに事業の構想を話したところ、その場で副市長に電話してくださって。
そして、その日のうちに市長に会うことができました。
市長は私の話を聞いてすぐに「3週間待ってほしい。君の夢を実現させる」と言ってくださったときは、夢かと思いましたね(笑)
当時、雲南市は介護予防の参加率向上・買い物難民対策・駅前の空きスペース活用という3つの課題を抱えていました。
さらに、「日本一チャレンジに優しい町」というマニフェストも掲げていた。
ショッピングリハビリという新しい事業が、これらすべての課題にアプローチできる取り組みとして評価され、前向きに受け入れられたのだと思います。
地域の課題と作業療法士の視点がぴたりと重なり、わずか7カ月でひかりサロン雲南がオープンできたのですね。
立ち上げ当初、地域包括支援センター、雲南市長寿社会課の皆様が手分けをして、介護認定を受けているが、サービスを利用してない閉じこもり傾向の受益者を15名紹介してくださいました。
私たちも公民館や体操教室などをすべて回り、「介護保険を使って、買い物と体操ができる新しいサービスをはじまります」と、直接地域の方に働きかけました。
ショッピングリハビリは、リハビリテーションにとどまらず、まちづくりの一環でもあります。
作業療法の本質である環境調整を通じて、個人も地域も元気にする。
それがショッピングリハビリの価値だと実感しています。
全国へ広げたい。“作業”がつなぐ、高齢者支援と地域活性化に向けて
現在、全国17拠点まで広がっていますが、どのように展開されているのでしょうか。
ひかりサロン雲南の成功をきっかけに、全国各地から「自分たちの施設でも取り入れたい」「空きスペースを活用したい」といった声が寄せられるようになりました。
こうした需要に応えるため、事業のノウハウ普及に特化した「ショッピングリハビリカンパニー株式会社」を設立し、展開を進めています。
デイサービスの運営と事業展開とでは求められるスキルが異なるため、あえて別の会社・別の人材での運営としました。
現在運営中の17施設はすべて事業者の志が高く、行政も応援体制も整っています。
「自分たちのまちを元気にしたい」という想いがある地域ほど、ショッピングリハビリは根付きやすいと感じます。

「ショッピングリハビリでは、気配りができ、人間力の高いスタッフほど利用者と良好な関係を築きやすく、結果として事業の成長にもつながっている」と杉村さんは語る。
全国展開に向けて、課題と感じている点はありますか?
ショッピングリハビリの展開には「実施事業者」「商業施設の空きスペース(40〜50坪程度)」「自治体の認可」の3つの要素が必要です。
事業者や空きスペースの確保には多くの相談をいただいていますが、最大のハードルは自治体の認可と商業施設の空きスペースです。
前例がないという理由だったり、行政内で福祉部門とまちづくり部門の連携が取れなかったりする場合は、なかなか進みません。
そのため、今後はエビデンスの蓄積が重要になると考えています。
ショッピングリハビリをした群としていない群での介護予防効果の比較に加え、地域経済への効果についてもデータとして可視化し、国に示していく必要がある。
もし、国がこれは介護予防にも、経済活性化にも効果的だと判断すれば、制度として一気に動く可能性があると考えています。
最後に、セラピストに向けたメッセージをお願いします。
作業療法士、理学療法士、介護職などいずれの専門職にとって、「日常生活をどう支援するか」を改めて考えほしいと願っています。
もちろん、身体機能を鍛えるトレーニングも重要ですが、「気づいたら歩いていた」という環境づくりこそ、作業療法の本質ではないでしょうか。
私自身、病院勤務時代に抱いていた葛藤や違和感が、この取り組みの出発点になりました。
ショッピングリハビリは生活の中にある「作業」を通じて人の可能性を引き出し、まちも元気にする事業です。
これからも、「人とまちに光を届ける」という理念を、志のある事業者の方々と一緒に全国に広げていきたいです。
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