地域包括ケア時代の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士
公開日:2019.05.31 更新日:2019.07.05
2013年に社会保障制度改革プログラム法が施行されたのを機に、「地域ごとに、医療・介護・予防に加え、本人の意向と生活実態に合わせて切れ目なく継続的に生活支援サービスや住まいも提供されるネットワーク」、いわゆる「地域包括ケアシステム」の構築が進められています。第2回目は地域包括ケアシステムのなかでセラピスト(療法士)に期待される役割についてお話をうかがいます。
所属:2019年5月現在

超高齢社会ほどリハビリテ-ションは重要になる
地域包括ケアシステムの概念では、高齢者の健康の回復は、病院だけではなく介護を含めた地域ぐるみの連携で行われることがうたわれています。利用者の住み慣れた地域、住まいでの生活が続けられる一方で、セラピスト(療法士)にとっては長期にわたって必要なリハビリテーションを、施設を超えて切れ目なく継続的に提供することが課題になります。
――まず、地域包括ケアシステムのなかでのリハビリテーションの意義、役割についてどのようにお考えでしょうか。
「地域包括ケアのなかでリハビリテーションのもつ役割は非常に大きく、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などセラピストの存在は欠かせないものです。人間が生活するには自分で体を動かせなければなりませんし、細かな動作も必要になります。リハビリテ-ションは生活に必要な身体の動きと長くかかわっていくのですから、高齢社会になればなるほど重要な意味合いをもちます。
一方、地域包括ケアシステムの概念には「予防」も含まれており、予防のためのリハビリテ-ションへの期待も高まっています。いつまでも自分らしく暮らすためには、介護を必要としない状態を長く保つことが重要だと叫ばれていますね。たとえばひざに少し痛みがあるが医学的な知識がなく、変形性膝関節症であることを知らない人がいるとします。そのまま知らずにひざに負担をかけ続けていればどんどん悪化してしまう。いずれは人工関節を入れる手術が必要になるでしょう。しかし、その前にセラピストに日常生活の注意や適切な運動指導を受けることで、重症化することなく暮らすこともできるのです」
心にときめきを提供する「社会的リハビリ」
要介護状態を防ぐ一次予防だけでなく、介護が必要になったあと重症化を防ぐための二次予防の段階でもリハビリテ-ションの重要性が高まるとのこと。
「介護度の重症化予防のためには、ご高齢の方と社会とのつながりをつくること、そして社会とともに、高齢者ご自身がときめきを感じられるというか、心躍るような体験を提供することが大事です。たとえば高齢者の孤独死を防ぐためには、閉じこもり、ひきこもりがないように取り組む必要があります。最近は認知症の治療でこうした考えでのリハビリテ-ションが行われるようになりました。病気が進行して症状が悪化する前に地域のなかで人と人とのつながりを切らさず、社会性をできるだけ保つようにすることで進行を遅らせる狙いがあります。
あまり偉そうなことを言ってはいけませんが、私は高齢の方が失っている輝きを取り戻してあげることが大事だと考えています。だからこそこのような“社会的リハビリ”が重要なのです。ただしこれはセラピストや病院だけではなく、介護職や地域の方々など、ご高齢の方の生活にかかわっている人々と一緒につくっていくべきものですね」

――セラピストには、利用者と一緒にその人の生きがいを探し、引き出す役割が求められるということですね。
「そうです。人によって皆、やりたいことは違います。たとえば当院では関連の介護施設に療法士を派遣していますが、セラピストはまず入居者の方とお話をして、何をしたいかを考えて一緒に目標を書きだすことから始めます。例えば「春になったら花見に行きたい」という希望があるなら、「ではそれを目指してリハビリに取り組みましょう」と。目標を達成するために寝返りができるように挑戦し、1カ月後には座位保持をめざしてみる、というようにリハビリテ-ションを始めるのです。決してセラピストが一方的につくった目標ではなく、入居者ご自身がつくった目標で一歩一歩前に進んでいくことが大事なのです」
生活の中でできるリハビリをセラピストがつくる
―急性期や回復期病院でのリハビリの目標設定とは異なるものですね。
「病院のリハビリテ-ションでどこまでの回復を目指すか、ゴールを決めるのは非常に難しい問題です。おそらく病院ごとにそれぞれ異なると思いますが、当院ではできるだけ早く入院前の生活に戻っていただくことを原則としてゴールを決めています。病院ではできたことが生活の場に戻るとできないということも結構あるので、なるべく早く生活期のリハビリに移行していただこうという趣旨です。もちろん、生活の受け皿が整わない場合や、ご高齢で身体機能がかなり低下している場合、いくらがんばっても機能向上が難しい場合は地域包括ケア病棟に移っていただき、時間をかけてリハビリテ-ションを行います。しかし、全て元通りにできるようになることをゴールにするわけではありません。それをゴールにすれば入院が長期化して、むしろ人としての総合的な機能が落ちてしまいます」
―相澤病院では訪問リハビリで退院後のフォローをし、継続的にリハビリテ-ションを提供されています。
「訪問リハビリも目標設定がなかなか難しい面があります。患者さんの中には療法士が来たときだけはリハビリを一生懸命やり、普段は家族が促しても『誰がやるものか』となかなかやろうとせず、どんどん機能が低下してしまう方もあります。我々の理想通りにいくわけではなく、難しいです。
とはいえ、何もやらなければさらに機能が落ちてしまうので、セラピストはご家族と相談しながら少しでもご本人ができることを探していきます。椅子からの立ち上がり動作などのいかにも訓練的なリハビリテ-ションは、病院ではセラピストも見ているし周囲も取り組んでいるから仕方なくやりますが、ご自宅ではなかなかやろうとしないものです。生活の場ではこうした訓練に代えて、できるだけご本人がしたいことや楽しみにつながるリハビリをつくっていく。患者さんの住まいを訪問することでわかることがたくさんありますので、患者さんそれぞれの生活のなかでできるリハビリを作ってあげることも、セラピストの大事な役割です」
療法士に求められるのは「総合力」

――地域包括ケア時代のセラピストは身体機能だけではなく、患者さん・利用者・入居者の「人」を見ていく職種なのだということに改めて気づかされます。
「これからは機能障害だけを回復させるのではなく、患者さんの将来の暮らしを考えてのリハビリテーションが不可欠です。患者さんのご自宅にも行って身体的な接触をし、お互いに真摯に向き合いながら、その方の人生にかかわっていく。いま、療法士は病院のなかで看護師さんにきわめて近い存在になりつつあり、仕事の範囲や、セラピストの仕事がもつ意味が大きく広がっています。
ですから、セラピストには「総合力」が必要です。自分の専門領域のリハビリテーションだけでなく、予防のためのリハビリや、継続的に提供される在宅リハビリがどのようなものなのかを知っているとよいでしょう。当院ではそのために、セラピストには何年もかけて超急性期から在宅リハビリテ-ション、疾患別リハビリテ-ションというあらゆるリハビリテ-ションの現場を回ってもらうようにしています。セラピストにとっては1年ごとに異動があり、職場環境や一緒に働く人が変わるのは大変でしょうが、その変化に対応する力を養う意味でも望ましいことだと考えています」

相澤孝夫(あいざわ たかお)
一般社団法人日本病院会会長
- 1973年
- 東京慈恵会医科大学卒業
- 1973年
- 信州大学医学部附属病院
- 1981年
- 特定医療法人慈泉会相澤病院 副院長
- 1988年
- 社会福祉法人恵清会 理事長
- 1994年
- 社会医療法人慈泉会相澤病院 理事長・院長
- 2008年
- 社会医療法人財団慈泉会相澤病院 理事長・院長
- 2017年
- 社会医療法人財団慈泉会理事長 相澤病院最高経営責任者(現職)
- 2017年
- 一般社団法人日本病院会会長(現職)
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