新型コロナが病院のリハビリ職に与えた影響は?現場の状況と採用事情
公開日:2020.12.17 更新日:2020.12.18

文:rana(らな) 理学療法士
新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)の感染拡大の懸念から、病院の入院患者数や外来患者数、手術件数は減少しています。それに伴いリハビリを必要とする患者数も減り、セラピスト一人当たりの単位数も減少傾向にあります。
こうした背景から、人手が余る状態となったリハビリ業界では、積極的に新規採用を行わない施設も増えているようです。
今後、リハビリ業界の採用状況はどのように変わっていくのでしょうか。新型コロナの影響を受けたリハビリ現場の状況と今後の展望について、現役の理学療法士が私見を交えながらお伝えします。
新型コロナにより病院の経営状況が悪化している
2020年8月、一般社団法人 日本病院会、公益社団法人 全日本病院協会、一般社団法人 日本医療法人協会の3団体に加盟する全病院(4,496病院、うち回答数1,459病院、有効回答数1,459病院、有効回答率32.5%)を対象とし、2020年7月13日~8月3日「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の緊急調査」がメールで行われました。
その結果、全国にある多くの病院で新型コロナの感染拡大が認められた同年4月~6月は前年度と比べて外来患者数、入院患者数、手術件数、救急受け入れ件数ともに減少していることが明らかになっています。
病院全体の収入が減り、経営状況は著しく落ち込んでいる状況です。なかでも深刻なのは、新型コロナ感染患者を受け入れた病院。
2020年6月時には、感染患者を受け入れなかった病院で赤字となった割合は、全体で67.7%でした。それに対して受け入れた病院や受け入れ準備とする病院では、赤字の割合が82.1%だったのです。
また、受け入れの有無にかかわらず、病院全体の27.2%で賞与が減額に。0.8%の病院では賞与そのものの支給がされなかったという結果となり、病院スタッフへの影響も非常に大きくなりました。
実際に病院の待合室は以前のような混雑は見られず、閑散としている日が多くなっているようです。「病室の空きベッドが増えている」、「診察に来院する患者が減っている」といった声も耳にするようになりました。
新型コロナでリハビリ現場はどうなる?現役理学療法士が状況を解説
病院の中でも、リハビリ現場ではどのような変化が起きているのでしょうか。
●リハビリ患者数の減少
病院を利用する患者数が減少したことに伴い、リハビリ患者数も大きく減少しています。新規入院や手術をする症例が減り、新たにリハビリを開始する患者さんが増えないためです。
一日の単位数が少なくなり、リハビリ業務が減ったため、セラピストたちが時間を持て余すことが増えました。私自身は、空いた時間を有効に活用するため、文献抄読や後輩指導に当てるなどして対応しています。
●出勤人数の調整
仕事量が減ったことで、有休をとるように勧めたり、非常勤勤務者の出勤日数を減らしたりして、出勤人数を調整するといった対策をとっている病院もあります。
また、緊急事態宣言中は学校が休校になった影響で、小さな子どもがいる職員は出勤できなかったり、早退したりするケースも増えたようです。
新規採用を積極的に行わない病院が増えている
上記のような状況もあり、リハビリ業界では新規・中途ともに積極的な採用を行わない病院も出てきているようです。退職者が出たとしても補充をしなかったり、例年よりも人員を増やさなかったりしている病院があると耳にします。
リハビリ業界におけるこれからの採用事情
コロナの影響で病院の経営状況は悪化し、一時的にリハビリを受ける患者さんも減っていましたが、リハビリを必要とする人の数が減ったわけではありません。
むしろ、活動を自粛したことで身体機能が低下し、リハビリを必要とする患者さんの数が増えていくことが予想されます。また、緊急事態宣言が解除されたことによって、これまで活動を自粛していた人たちが病院に来院する頻度も増えてくることでしょう。
実際に、「入院ベッドが埋まってきた」、「外来患者数が以前のように増えてきた」、「先延ばししていた手術を行い始めた」という声も徐々に聞こえるようになりました。来院者が増えるに伴い、リハビリを必要とする患者さんも増えていくことでしょう。
これまでは人員調整も行われていたリハビリ業界ですが、コロナの影響で落ち込んだセラピストの採用数も回復していく可能性が考えられます。これから就職、転職活動を考えている人は、場合によっては新たな働き方を目指すチャンスともいえるかもしれません。
コロナとともにリハビリを行っていくという考え方を
緊急事態宣言が2020年5月末に解除され、制限下にあった生活も今後は柔軟な対応を求められるようになりました。
当初は外出をできるだけ控え、接触を避けることが重視されていたものの、コロナが長期化する中で、感染予防を意識しながらもコロナとともに生きていく「With コロナ」という考え方に変わりつつあります。
病院は多くの患者さんが来院し、「密」になりやすいため、徹底した感染予防が必要です。中でもリハビリは濃厚接触を避けられない仕事であるため、より高い意識で感染予防に努めなければなりません。
リハビリの際はマスクや手袋の着用はもちろん、治療台や平行棒といった機材のアルコール消毒、リハビリ室に入る患者さんの数の調整といった対策も必要でしょう。コロナの中でも、患者さんの身体機能を維持改善していくためにリハビリが重要であることに変わりはありません。
今後はセラピスト、患者さんが安心してリハビリを行えるような環境づくりをしていくことが重要になるでしょう。
【参考URL】
理学療法士として総合病院やクリニックを中心に患者さんのリハビリに携わる。現在は整形外科に加え、訪問看護ステーションでも勤務。 腰痛や肩痛、歩行障害などを有する患者さんのリハビリに日々奮闘中。 業務をこなす傍らライターとしても活動し、健康、医療分野を中心に執筆実績多数。
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