理学療法士の問診スキル評価ツールをアメリカが研究中
公開日:2016.09.30 更新日:2016.10.11
これまでの経過や現在の痛み、置かれている状況など、患者さんの事情を知れば知るほど、一つひとつのリハビリの意義や目標を多面的に理解できます。基本的には医師の指導に従うとはいえ、実際に患者さんのサポートに当たる立場にある理学療法士の問診スキルは重要ではないでしょうか。
米国では、ある研究チームによって、理学療法士を目指す学生たちの、問診スキルの向上に役立つ、信頼性の高いツールの開発が進んでいます。研究が重ねられている独自のツール「ECHOWSツール」は、以下の6つのカテゴリーに分けられた2~10程度の項目について、評価者が問診者を見て採点する評価ツールです。
- E(Establishing Rapport)患者さんとの関係を築けているか
- C(Chief Complaint)患者さんが抱える主な不満を把握できているか
- H(Health History)患者さんの健康歴(病歴)を把握できているか
- O(Obtain Psychosocial Perspective)心理社会的な考え方ができているか
- W(Wrap-Up)問診の締めくくり方は適切か
- S(Summary of Performance)問診中の言動は適切か
果たして、ECHOWSツールが世界で広く利用される日は来るのでしょうか? このツールの信頼性を調べた最新の研究結果が、米国理学療法協会(APTA)の学会誌『フィジカル・セラピー』に発表されています。
Reliability of the ECHOWS Tool for Assessment of Patient Interviewing Skills
問診スキルを評価するECHOWSツールの信頼性
Jill S. Boissonnault, The George Washington University, University of Wisconsin–Madison
Kerrie Evans, Griffith University
Neil Tuttle, Griffith University
Scott J. Hetzel, University of Wisconsin–Madison
William G. Boissonnault, American Physical Therapy Association, University of Wisconsin–Madison
研究テーマ
病歴の聴取(問診)は、患者さんの対応における重要な要素です。また、その技術を学ぶ学生が行う問診の適格性は、標準化されたツールによってきちんと評価できる可能性があります。
これまでに行った研究において、ECHOWSツールは有効であるという結果を得ました。しかしながら、ある程度は評価者内の信頼性が認められたとはいえ、決定的な安定性の証明には至っていません。
そこで、この研究の目標は以下の2点とします。
- 学生のための問診スキル評価における、ECHOWSツールの信頼性を判定すること
- ECHOWSツールで初心者と熟練者の技術レベルの違いを識別できるかどうか調べること
研究方法
今回の研究における評価者は、アメリカ合衆国とオーストラリアの教職員3名です。彼らは、それぞれの国の「学生」と「経験豊富な臨床医」が模擬患者を問診する様子をビデオテープに収め、その録画を見て問診者たちを採点しました。なお、テープの採点は3~6週間の間隔で2度行われました。
信頼性は、ICC(級内相関係数)※1と反復測定によって評価。また、ECHOWSツールで初心者と熟練者の技術レベルの違いを認められるかどうかについては、分散分析※2の各モデルを用いて評価しました。
※1 複数の検者のデータ(ここでは3名の評価者の評価)を比べて算出する0~1の値であり、0.61以上を信頼性が高いと判定するのが一般的
※2 各因子の条件を変えることでデータに違いが生じるかを調べる仮説検定
研究結果
ECHOWSツールは、評価者内の信頼性(ICC測定値0.74~0.89)に優れ、評価者間においては全体としてやや高い信頼性(ICC測定値0.55)を示しました。ただし、Sセクション(Summary of Performance)だけは評価者間の信頼性(ICC測定値0.27)が低いことがわかりました。
また、ツールの性能において、初心者と経験豊富な臨床医との間に統計上の違いは見られませんでした。
結論
ECHOWSツールの評価基準の安定性については、評価者内における信頼性が非常に高く、評価者間の信頼性は並であることが証明されました。学生を評価する際は、評価者が事前にこのツールで十分な評価訓練を行っておくことを推奨します。また、問診スキルを識別する尺度としてこのツールの精度を上げるために、Sセクションの改良が必要です。
研究結果の限界
模擬患者が問診の質問に対し複雑かつぼやけた応答をするよう指導されていない場合は、天井効果が起こる可能性があります。また、ECHOWSツールの熟知度やオンラントレーニングの利用度が、Sセクションの採点に影響を及ぼしえたと考えられます。
Reprinted from Phys Ther. 2016;96(4):443-455, with permission of the American Physical Therapy Association. ©2016 American Physical Therapy Association. APTA is not responsible for the translation from English.
(この記事は、米国理学療法協会(APTA)の学会誌『フィジカル・セラピー』96巻4号443 ~455頁に掲載された論文の概要を翻訳したものであり、セラピストプラスが同協会の許可を得て作成および掲載しています。論文概要の著作権はAPTAにあると同時に、同協会は翻訳文について一切の責任を負いません。)
参考URL
米国理学療法協会・学術誌 『Journal of the American Physical Therapy Association』
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