vol.9
リハビリ3会長鼎談:2019年消費税引き上げ
その財源をどう活かすか
公開日:2018.07.30 更新日:2018.08.24
いよいよ2019年10月には、消費税の10%への引き上げが実施される見込みです。今回の増税は、社会福祉の財源への活用が期待されています。3会長スペシャル鼎談3回目のテーマは、ズバリ「消費税財源をどう有効活用するべきか」。今回も3会長の本音トークにご期待ください。

参加者(敬称略)
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半田一登 | 中村春基 | 深浦順一 | 中保裕子 | 横河麻弥子 |
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公益社団法人日本理学療法士協会 会長 |
一般社団法人日本作業療法士協会 会長 |
一般社団法人日本言語聴覚士協会 会長 |
医療ライター (司会) |
マイナビ「セラピストプラス」編集 |
所属:2018年7月現在
リハ人材不足の解消のために
中保(司会) 2019年に予定されている消費税増税により、社会福祉財源の増額が期待されています。医療・介護領域にどのように財源を投入するべきか、増収分の使途についてのご意見をお聞かせください。
半田(PT) かねてより要望を出していることですが、リハビリテーションへの評価をもう少し上げていただきたいですね。
中村(OT) 医療費全体のうち、リハビリテーションが占める割合は現在5.4%ですが、これを10%程度にまで引き上げていただきたいと思います。今回の改定で急性期に早期離床・リハビリテーション加算(患者1人1日につき500 点)がついても、現場の理学療法士の数は圧倒的に不足しているという現実があります。同様に慢性期、在宅リハビリテーションの現場でもやはり不足していますので。
中保(司会) 診療報酬、介護報酬上の評価が低いために人材不足が解消しない、ということですね。
半田(PT) 介護職については、人材不足の解消のために基本給を上げてきた経緯がありますが、医療職の給与も全体的に安いのです。理学療法士による医療施設の収益はかつて1年間で1,300万円程度ありました。ところが、今はせいぜい900万円ぐらいになっています。
中村(OT) 現実には、リハ職が年間900万円程度の実績を挙げるのは大変ですよ。
半田(PT) 例えば介護福祉施設で施設のPTの収益が700万円強だったとすると、給与は300万円、50歳を過ぎてもせいぜい400万円程度。医療施設でも同様の給与水準になるというわけです。我々は白衣を着ていると一般の方からは裕福そうに見えるようなのですが、ワーキングプアと言ってもいいくらいだと思います。給与は勤め先にもよりますが、先に挙げたようなケースでは結婚しにくいし、50代で子どもが2人いても、大学へ行かせたいと言えるような給与所得ではありません。介護職の人材難、待遇改善だけが課題として注目されていますが、その余波が医療に押し寄せてくることを危惧しています。医療全体の人件費のバランスにぜひ着目していただきたいですね。
「リハバブル」と呼ばれる時代があった
半田(PT) 他の医療職と比べても、リハ職の待遇は悪化しています。この10年間で医師の給与は3%程度、看護師の賃金は5%上昇しています。しかし、リハ職は逆に3%下がっているのです。
中保(司会) え、下がっているんですか?
半田(PT) 下がっているんですよ。
深浦(ST) 下がっています。
中村(OT) リハビリテーションの重要性は声高に言われますが、内情は厳しいです。今回の消費税財源でリハ職に何らかの手当をつけていただけるといいのですが。
深浦(ST) 高齢社会になってリハビリテーションを受ける側の方々が増え、支える側の人間が相対的に減ることが予想されます。既に民間企業では、黒字であっても人手不足から倒産するといった状況もあって、現役世代の引っ張り合いが起こっています。そういう状況では医療や介護領域に就職する人たちよりも、民間企業を選ぶ人たちが多くなるのは当然のことです。リハビリテーションへの財源にある程度上限を設けても、そこに働く人間たちがいなければサービスは提供できません。現在の仕組みでは、全体の枠組みを設けているだけですが、実態に見合った調査と計画、報酬の改定をかみ合わせていかないと、いずれ支える人材がいなくなるという危惧を感じています。
実際、現在、大学の言語聴覚学科の志願者は減少傾向にあります。文科系大学に進学する人、公務員より民間企業を就職先に選ぶ人が多い時代なのです。自由主義社会ではある程度はやむを得ないのですが、国の制度である社会保障を維持するためには、財政面だけでなく、人材の確保・維持を考える必要があると思います。もちろん、診療報酬もかかわりますが、それ以前に仕組みづくりをどうするかが難しいところです。
半田(PT) さらに過去の経緯で言えば、かつて診療報酬が上がっても現場のリハ職の給料が上がったことはないのです。逆に、診療報酬が下がった時にリハ職が減給されたという実績はいくらでもあるのですが。
中村(OT) 職を失うこともありますね。
深浦(ST) 「リハバブル」と呼ばれた時期に採用されたリハ職は非常に高給でした。しかし、ここ10年ぐらいは維持できなくなって減給やリストラや行われています。
中保(司会) 「リハバブル」というのはいつ頃ですか。
中村(OT) 20年ほど前ですね。その後私自身も10年間、給料の据え置きを経験しています。
半田(PT) 私は年収が300万円くらいのときに1,000万円の誘いを受けました。断ったら次の日に電話がかかってきて1,100万。また断ったら1,200万。結局「行く気がないんです」と断りました。
中村(OT) いい時代ですね(笑)。
半田(PT) それでも行かなかった私、すばらしいでしょ(笑)。
中村(OT) 行っていたらここにはいませんね(笑)。
発達障害領域で働くリハ職を増やす
半田(PT) 少し大きな話になりますが、私は今回の消費税財源を、少子社会対策として女性の労働環境改善に使うべきだと思います。高齢社会はいずれ終息しますが、人口減少は続きます。このままのペースでは2060年を過ぎる頃には明治維新当時並みの人口にまで減ると言われています。その解決策としては、女性が働ける環境をどうつくるかが最大の眼目でしょう。それも保育園の増設だけではなくて、そもそも「子どもをもうけられる環境とは何か?」から掘り下げてさまざまな課題を解決していくべきなのです。今でも労働力不足が叫ばれている現状の中で、優秀な女性労働者をつくること、そしてワークライフバランスがしっかりとれるような働き方改革。目先の問題だけでなく、長期的に日本の将来はどうあるべきかを考える必要があると思います。

中村(OT) 私は、発達障害者の対策に今度の消費税財源をしっかり投入していただきたいですね。文部科学省が平成24年に実施した調べによれば、現在、小中学生の6.5%に発達障害の可能性があります。発達障害者の方々は、適切な手当を受ければ十分に社会で生きていけるはずなのですが、現在はなかなか自立した生活ができない環境があります。リハ職の持つ発達障害領域の知識、技術を発達障害者のリハビリテーションに充分に活用できるような体系をつくり、教育分野に従事する作業療法士を増やしたいと考えています。日本のリハ職の職域は主に医療分野ですが、海外では教育分野で働くリハ職が多く、例えばアメリカ、カナダのOT、STの半数は学校に所属しています。また、発達障害者の就労支援の現場でもOTが不足しています。
こうした障害者領域にリハ職が携わる少ない背景のひとつには、非常勤など、限定的な雇用がほとんどだからです。自治体の特別支援学校でも、現在はほとんどが期限つきの採用となっています。正規職員として働けるようになれば、リハ職はどんどん参入していくと思います。
深浦(ST) その通りですね。
(続く)
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