地域包括ケアってなんだ?(7)平成30年度介護報酬改定からみえるセラピストの役割(前編)
公開日:2018.05.25 更新日:2021.04.09
文:吉倉 孝則
理学療法士/保健学修士/認定理学療法士
前回まで平成30年度診療報酬改定について述べてきましたが、以前にも書いたように平成30年度は診療報酬改定と介護報酬改定の同時改定でした。では、介護報酬はどのような改定だったのでしょうか。
自立支援に、より軸足を置く
平成28年11月の第2回未来投資会議にて安倍首相が「これまでの介護は、目の前の高齢者ができないことをお世話することが中心であり、(中略)これからは、高齢者が自分で出来るようになることを助ける『自立支援』に軸足を置きます」と発言がありました。このように2000年に出来た介護保険制度ですが、高齢者の出来ないことを「助ける」サービスに比重が置かれたケアプランになっていることが問題視されています。具体的には、高齢者が1人でお風呂に入れないことを本人が困っている場合、それを援助するためにヘルパーによる入浴介護サービスがケアプランには選択されがちでした。しかし、今後は自立支援を強化して、その高齢者の困り事を出来るように支援する、自立できるようにリハビリを実施するなどといった“自立支援”が推進されています。
この総理のリーダーシップのもと、今回の介護報酬改定には自立支援が強化されるような内容が多く盛り込まれました。その一つに「生活機能向上連携加算」があります。
今、試されるセラピストのアセスメント能力
この「生活機能向上連携加算」は、リハビリセラピストのいない訪問介護、通所介護、特定施設などに通所リハビリ、訪問リハビリ、医療機関の外部のリハビリセラピストが訪問し、事業所の職員と連携し、利用者の能力等を一緒にアセスメントし、サービス計画を見直すというものです。
今までは、リハビリセラピストが勤務していない介護事業所では、利用者の能力を十分に把握しきれず、またどのように介助・介護すればよいか分からないために、過介護(介護しすぎる)してしまう傾向にありました。例えば、トイレでの排泄後にズボンを上げ、車椅子に乗り移る動作が利用者一人では出来ないとします。その場合、トイレ動作に「介助が必要」と介護事業所の職員は理解していても、利用者の能力を活かすという視点の考え方は少ないです。そのため、乗り移り動作を100%介護する形で実施している場合もあります。
しかし、実際にリハビリセラピストと利用者の能力を評価してみると、「トイレから立ち上がるのには身体を支える介助が必要」「立ち上がれれば手すりを持って一人で立っていられる」「ズボンを上げるには介助が必要」「乗り移りは少しだけ腰の部分を助けてあげれば可能」など1つの動作を評価・分析することができ、どこにどれだけ介助すればよいのか把握することができます。それを介護事業所の職員にしっかりと伝えることができれば、利用者の最大の能力を活かした介護が出来ます。
また、今までは100%介護することで利用者は自分の能力を使えないため、徐々に利用者の能力が低下してしまっていました。それらを適切な介助量で利用者の能力を発揮してもらうことで利用者の介護度の重症化予防に繋がります。さらに、介護負担量の軽減もでき、介護スタッフの負担軽減にも繋がるという相乗効果が期待できます。実際に、上記の例で言えば、今まで介護スタッフの1人が利用者を支え、1人がズボンをあげるといった具合に2人の介護が必要であったケースも適切なアセスメントがあれば1人の介護スタッフでトイレ動作を介護できるといったケースはよくあります。
求められるアセスメント能力と説明力
上記の例はリハビリセラピストがいる介護事業所では当たり前のように出来ているようなことでしょう。しかし、リハビリセラピストのいない介護事業所のほうが圧倒的に多いため、「生活機能向上連携加算」では、リハビリセラピストに“地域”の介護事業所とも連携し、地域の利用者の自立支援・重症化予防が期待されています。
今までは、自分の事業所の利用者のことを考えていればよかったものが、地域の利用者に対しても、リハビリの観点からアドバイスが求められます。その際に必要なことは適切なアセスメント能力と説明力だと思います。初めて会う利用者または数ヶ月に1度程度会う利用者を適切にアセスメントする能力が求められます。
この利用者の病態、筋力や関節の動く範囲、そして動作能力等を評価し、どの程度介護するべきかアセスメントする必要があるのです。またそれらを専門用語を使わずに分かりやすく介護事業所の職員に適切に伝える能力が必要となり、説明力が求められると思います。
地域に期待されるリハビリセラピストになるために、私たちも努力が必要でしょう。
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