第4回【ステップアップ】豊富な実務経験によって磨かれる観察力
公開日:2017.04.10 更新日:2017.04.24
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草木雄二さん(39歳)
資格:理学療法士、日本体育協会アスレチックトレーナー
船橋整形外科病院、理学診療統括部統括部長。専門学校在籍中に実習生として船橋整形外科病院へ。その後、新卒採用で、同病院へ。外来のリハビリ業務、老健施設、整形外科クリニックを経て、現職の船橋整形外科病院・統括部長に。世界選手権やオリンピックの選手の試合に同行し、アスリートの身体を多く診てきた経験をもつ。
地域の親交にも積極的で、地元スポーツチームや地元校の部活動からの依頼を受け、大会救護なども行っている。
手厚いリハビリを行っていても時にはトラブルが起こることも……
患者一人ひとりに担当のドクターとPT・OTがつき、回復を支えていく船橋整形外科病院。治癒に向け手厚くリハビリを行っていますが、それでもトラブルは発生することも……。
「患者さんのなかには、手術が終わればすべて治る、すぐによくなると勘違いしている方もいらっしゃいます。しかし、手術のあとにはリハビリを行うことが必要です。リハビリも合わせて『治療』なのだという部分をしっかりと説明し、きちんと理解していただくことが大切ですね」
と話す草木さん。このとき、患者さんとうまくコミュニケーションが取れていないと、ちょっとしたトラブルに発展してしまうこともあるそうです。
そんなときはどのように対応しているのでしょうか。
「患者さんの間で『あの先生はダメだから、この先生に代えてもらった方がいいわよ』などの話が出てきてしまうと軌道修正も難しくなってしまうので、まず、担当を経験が豊富なPTもしくはOTへすみやかに変更します。少しでも歯車が噛み合わなくなると修正が難しくなり、インフォームドコンセントが図れなくなります。それから患者さんに不利益がないようにするのがもうひとつの理由です」
プランを作るのが難しいリハビリ
注意すべきはレールからずれてしまった場合です
リハビリ中に注意しなければならないことは、「この手術をした後に、こういうリハビリを行っていれば、この時期にこれくらい治る」というレールからずれてしまうことだと、草木さんは言います。
「『手術後2ヵ月が経過しているのに、痛みが出てかばう動作が出ているのはおかしい』など、レールから逸脱している症例をいかに早く気づけるかがポイントです。リハビリは学術的にいっても経験値をいかに増やしていくか、豊富な経験により察知できる能力を上げていくかが要です。そして、おかしいなと気づいたら軌道修正をしていく。このとき、例えば通院頻度が週1回の患者さんなら週2回にするといいのか、1回あたりのリハビリ時間を長くするといいのかなどプランを変更していかなければなりません。この辺りを上手に対応していくには、PTやOTの経験はもちろんですが、対人関係を上手に築くための人間力も必要だと思います」
PT・OTに必要な能力は “自分なりにアレンジする”こと
患者の状態を観察する際に、草木さんが後輩などによくアドバイスしていることがあるそうです。
「私たちの仕事は『評価に始まって評価に終わる』といわれるほど、観察力が必要とされる職業です。このとき、患者さんを“一般的に”“平均的に”診るのではなく、『オリジナリティ、パーソナリティをもって対応しなさい』と話しています。つまり、学校の座学では、『こういう症例ではこうやればいい』と一般論で教わりますが、実践の場では教わったとおりにはいかないことが多いわけです。
一人ひとりをしっかりと診て、自分なりにアレンジしてみる――『一般的にはこういわれているけれど、こういうふうにやってみたらどうだろうか?』と自分なりに考えたことを実践してみようと助言することが多いですね」
患者さんが「学校でボールを投げたら肩が痛かった」と話したら、実際に屋外のリハビリ場でボールを投げてもらうということも行います。
「走る、投げる、跳ぶ、バットを振る……リハビリ室が広いため、実際の動作を直接見られる。非常にありがたい環境ですね」
実際の動作を行うことで、身体のどの部分がどのように傷むのか、どの動作をするときに痛みが出るのかなどを患者自身がはっきり伝えられるだけでなく、担当のPTやOTも「かばう動作をしているな」などと気づけるなど、治療のヒントを得られることが多くあるそうです。
観察によって得た気づきによって、自分なりに工夫を凝らし、治療を柔軟にプランニングしていく……このためには経験だけでなく、医師や先輩からの助言を上手に受けていくことも大切です。院内のホウ・レン・ソウのコミュニケーションをスムーズにとっていくためには、日頃の関係性の善し悪しがものをいいます。
スタッフと定期的な面談を行い、一人ひとりの「今の技術」「働き方」などを確認している草木さん。豊富な実務経験によって磨かれた観察力は、患者だけでなく、働くスタッフをみる上でも役に立っていました。
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