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ナッジ理論ってなんだ?人々の行動を促す力(2)

公開日:2021.08.26 更新日:2021.10.04

ナッジ理論ってなんだ?人々の行動を促す力

前回は「ナッジ理論ってなんだ?人々の行動を促す力(1)」にて、ナッジ理論とはなにかを説明しました。

続いて今回は実際の現場で使いやすい手法のフレームワークとして有名な「EAST」について、詳しく紹介していきます。

選択しやすさが大事 「Make it Easy(簡単に)」

人々の選択や行動は、ささやかな障害や、一見全く関係なさそうことによって、実は大きな影響を受けています。こうした障害をできるだけ排除するだけで、望ましい選択や行動が行われやすくなります。

―デフォルト(初期設定)

デフォルトとは、何も選択しない場合に自動で選択される選択肢のことです。例えば、ネットショッピングで買い物をした際に、デフォルトでそのお店からのメルマガを「受け取る」にチェックが入っていることが多く、それを外して「受け取らない」を選択することも可能ですが、多くの場合、そのままメルマガを「受け取る」を選択してしまいます。

このように、人は現状に留まろうとする傾向(現状維持バイアス)があります。

―面倒な要因をなくす

ある選択や行動をとるうえで面倒に感じさせる要因を、できる限り最小限にとどめることで(つまり必要な努力を減らすことで)、そうした選択や行動が行われやすくなります。皆さんも携帯電話や保険など見直そうと思ってもなかなかやらないのは、契約の手続き、比較などが面倒なことも要因です。

これが、ワンクリックでできれば、行動が変わるかもしれません。またランチに入ったお店で、メニューのなかで「本日のおすすめ」を選びやすいのも、たくさんのメニューから選ぶという面倒に感じる無意識のストレスを回避しているといえます。

―メッセージはシンプルに

皆さんが何かの案内チラシをもらった時に、そのチラシにびっしり文字が書いてあったり、なかには専門用語が混じっている場合、どのように感じるでしょう。読む気をなくして、最後まで読まなくなる、または後回しになるでしょう。それが研修会の案内であった場合、その研修がどんなに魅力のある内容でも、参加申し込みがされにくくなります。

このように、情報が多くなると選択・行動がされにくくなります。メッセージをシンプルにし(必要最低限にして)、わかりやすく、そして最初にとってほしい行動が明確なほうが良いです。例えば、最初にとってほしい行動が、申込フォームをクリックしてほしい場合、わかりやすく、目立たせて「申し込みはこちら」と書いてあるほうが、シンプルです。

Easyの観点で通知を作成る場合は、以下の5つがポイントとされていますので、参考にしてみてください。

「重要なメッセージは冒頭に」、「簡単な言葉で」、「なにをすればよいのか、具体的に」、「求めるアクションは一つに絞る」、「必要のないことは思い切って削除」

<リハビリ場面での応用例>

・自主訓練の訓練内容の種類を限定する
・道具や場所、服装などを選ばなくてもできるような自主訓練内容にする
・自主訓練内容について、専門用語や詳細なエビデンスなど書きすぎない

リハビリ場面において外来などで自宅でもできる自主訓練を指導することは多いでしょう。その際に、たくさんの種類の訓練内容を伝えすぎると、何をやればよいのか迷い、結果的に行動に移すことをやめてしまう可能性があります(つまり自主訓練をしない)。

同様に、道具や場所が限定されると準備に時間がかかり手間になります。さらに、自主訓練の説明された文章が、専門用語などでたくさんの文字で書いてあったら読む気がなくなってしまいます。もちろん、これはナッジ理論から考えた例ですので、メニューの数や道具を使った訓練内容、さらにエビデンスや筋肉の付着位置などを説明することも必要なケースもあります。

誰だって損はしたくない 「Make it Attractive(魅力的に)」

人々は日常多くの情報にさらされて、私たちの脳は毎秒数千のシグナルを受け取っており、何に注意を向けるか、情報をどのように判断するか癖を持っています。いかに注意を引きつけ、効果的に伝えるかが大事になります。

―注意を引く

冒頭に書いたレジに並ぶための足型や小便器のハエなども注意を引きつけている事例の一つです。皆さんも学生時代に授業のノートをとっていて、大事なことを赤色など配色したりアンダーラインを引いたり、蛍光ペンでマーカーを引いたりやっていたのではないでしょうか。これは、まさに注意を引き付けるため、目立たせるための行動です。また個人名を用いることも注意を引く方法の一つです。

イギリスの事例で、裁判所が罰金命令を通知しても未払いの方々に対して、封筒に目立つように「〇〇さん、この通知を開けなければなりません」と個人名を記載したところ、支払い率が上昇しました。

このように、行動をとってもらうためには、まずは気づいてもらうことが重要で、そのためにフォントや色、デザインの工夫をして、画像、写真など用いて、さらに個人名などでパーソナライズをすることが有効です。

―見せ方(フレーミング)

注意を引きつけても、メッセージが心に刺さらなければ行動には移してくれません。そこで、一般的にやられることはインセンティブです。何かをやるとポイントなどの特典がもらえるというものです。買い物をするとポイントをもらい、またそのお店で買い物を促したり、最近では健康アプリなどでも歩数に応じて商品や金券と交換できるものがあったりします。

こうしたインセンティブも強力な方法ではありますが、見せ方(フレーミング)次第でその効果は大きく変わります。つまり、インセンティブを利得と見せるか、損失とみせるかによって効果が異なります。例えば、同じ1万円のインセンティブであっても、「一万円得します」というか「一万円損します」と見せるかで、印象や効果が異なります。

「〇〇すると一万円もらえます」と言われると、ラッキーと思って行動に移す人はいると思いますが、一方で、行動しなくても損をするわけではないので、面倒と思い行動に移さない人もいます。一方で、「〇〇しないと1万円の罰金です」と言われると、行動をしないと1万円を失ってしまうので行動に移す人が多くなります。一般的に利得よりも損失に1.5~2.5倍強く反応するとされています。つまり、人々は損をすることを嫌がります(損失回避)

東京都八王子市の大腸がん検診の事例が有名です。八王子市では、大腸がん検診のために検査キットを毎年検診のお知らせと一緒に送付していましたが、なかなか毎年受診してもらえないことが課題でした。そこで、ナッジの損失回避を利用して、「今年度、検診に行かないと来年度は大腸がんの検査キットを送付しません」とメッセージをつけて受診案内の通知を送りました。今年度の検診に行かないと検査キッドを送ってもらえなくなるという損失を示すことで受診率が7.2%高くなったのです。(ここで注意したいのは、今年度検診に行かなくても、申請をすれば検査キットは送ってもらえるという選択肢は残したまま実施)

損失回避を利用した逆インセンティブは有効ではありますが、なかなか、罰則や損失の設定をしにくい状況もあります。そういった場合は、一旦、インセンティブを渡して、もし行動しなかったら返却・回収するという方法もあります。海外のある研究では、Apple Watchを無料で提供し、目標の運動量(活動量)を達成すれば、毎月の利用料は0円だが、達成しない場合は利用料を払ってもらうという方法をした結果、活動量は増加したという報告があります。

<リハビリ場面での応用例>

・自主訓練の説明したメニュー表には、患者さん個人の名前を入れる
・重要な内容を太字、フォントの色を変える、また写真や画像を使う
・リハビリをやらないと〇〇になってしまうといった悪影響を伝える

自主訓練の説明が書かれたメニュー表を、患者さんに印刷して渡すということはよくあることだと思います。その際に、「○○様のリハビリメニュー」といった患者さん個人の名前を入れることで、パーソナライズされ、より自主訓練を実施してくれるかもしれません。またより注意を引くために、フォントや画像などデザインにも意識してみましょう。

さらに、損失回避を考慮すると、「これをやると歩けるようになります」と利得を伝えるより、「これをやらないとまた転んでしまう可能性があります」など悪影響・損失を強調することも患者さんの行動を効果的に変えるためには必要かもしれません。

>>「ナッジ理論ってなんだ?人々の行動を促す力(3)」に続きます。

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参考

受診率向上施策ハンドブック「明日から使えるナッジ理論」.厚生労働省

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