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東京オリンピック・パラリンピックがやってくる(5)ある義足の青年の話

公開日:2018.11.16 更新日:2021.04.09

文:吉倉 孝則
理学療法士/保健学修士/認定理学療法士

いよいよ2年後に開催される東京オリンピック・パラリンピック!
前回は、障害者が生活習慣病防止や健康増進のためにも障害者スポーツに参加する必要があり、そのような提案をセラピストからできるようにするためには、セラピスト自身も障害者スポーツのことを知っておく必要があることを書きました。
 
今回は、急性期病院で担当した患者さんのことについて書きたいと思います。
 

下肢切断をした青年、軸足も骨折している場合

私がリハビリの担当になった20歳の青年A。彼は、高校卒業後、地元の鉄鋼関係の工場で勤務していました。ある日、仕事中に2トンの鉄骨の下敷きになり、両下肢が挟まってしまい、当院へ救急搬送されました。右足の大腿切断と、左足の大腿骨骨幹部骨折でプレート固定がされ、リハビリ開始となりました。

通常のリハビリの場合、一側の下肢切断であれば、断端の傷の治り具合等にもよりますが、通常約1カ月程度で仮義足を作成し、立位・歩行訓練を開始します。仮義足での訓練は、最初は仮義足をつけた状態で平行棒内で義足側に体重を徐々に移動させる練習やそれが可能になれば1歩だけのステップ練習、そして松葉杖や歩行器を使った歩行訓練と順次進められます。そのため、非切断側の足が軸足として主要な働きをします
また一側の下肢骨折によるプレート固定の手術後であれば、手術側(骨折側)の足をつくことはできないため、反対側の足と松葉杖を使って免荷歩行練習から開始し、主治医の指示(骨の癒合状態に応じて)のもと、約4週目から部分荷重(体重の20%、50%、75%)で徐々に適切な量の体重をかけながら、松葉杖等で歩く練習を進めます。

しかし、A君の場合、右下肢が大腿切断、左下肢が大腿骨骨幹部骨折のため、どちらも体重を乗せることができず、左の骨折が荷重許可されるまで約3カ月は歩行訓練ができませんでした。だからといって、リハビリでやることがないわけではありません。2人がかりで足をつかないように抱え込んで車いすに移乗し(これなら足はついていないから大丈夫)、リハビリ室まで来て両上肢の筋力訓練や車いすに15㎏の重りをつけて、ひたすら病院の廊下を車いす駆動してもらい体力の維持向上を目指した理学療法を実施しました。(車いす生活で、歩行をしないだけで身体活動量は低下し、体力が低下する恐れがあります
このようにA君とのリハビリは、教科書通りにはいかず、やや難渋し、また長期を要しました。

目標はパラリンピック出場!?

リハビリを開始した最初のころは、右足を失ったショックもあり、落ち込んでいましたが、私やリハビリ医師が「ちゃんとリハビリすれば、義足をつけて歩けるし、普段の生活に戻れるよ」と今後の方針を丁寧に説明していくうちに、徐々にやる気が出てきて、リハビリの時間を楽しみにしてくれるようになりました。リハビリをしながら色々と話をするうちに、彼は高校生の時は陸上部であったことを知りました。短距離選手で県大会に出場するほどの実力だったようですが、高校の陸上部を引退後は、特に運動をしていないとのことでした。そこで私は「義足になっても走ることはできるよ。ちょうど2020年は東京でオリンピック・パラリンピックがあるし、そこを目指しては」と提案しました。もちろん、パラリンピックに出ることが全てではなく、趣味として健康増進として運動することの重要性も伝えました。

翌日、彼から「義足で走っている動画をスマホで見たけど、あれ凄いね! かっこいい!」と反応が返ってきました。その後より一層、リハビリにやる気が出てきた彼は、約3カ月後に主治医から歩行の許可が出てからは、スムーズに仮義足をつけて片松葉杖歩行の獲得ができました。退院することも可能でしたが、本人が仕事復帰などの高いレベルを求めたため、回復期病院へ転院することになりました。
それから2カ月後、回復期病院を退院したA君は、すっかり義足での歩行も安定し、日常生活も自立していました。あとは義足の調整・チェックと社会復帰に向けた総仕上げを外来で私が担当することになりました。そんなある日、義足を作成する会社の義肢装具士から「義足の陸上競技の練習会」に誘われました。私は同行できませんでしたが、A君は参加することになりました。
陸上競技用の義足は、普段使用する義足とは形もパーツも異なります。また公的制度を利用して作製できないため、全額自己負担となります。体験会では、その陸上用の義足を貸してもらい、実際に走ってみるそうです。次に外来に来た彼は「マジですごかった。走れた! 楽しかった!」と興奮気味に教えてくれました。その後、仕事にも復帰し、外来も終了。陸上の体験会には定期的に参加しているようでした。
残念ながら、私が当時の病院から転職してしまったため、その後のことが分かりませんが、2020年のスタジアムで立っていたら私はすごく驚くでしょう。
そこまでいかなくても、彼がどこかで楽しく走っていてくれれば嬉しいです。

セラピストとして大事なこと

障害を持った人に、一番時間をかけて関わる医療専門職はセラピストでしょう。目標が「日常生活動作を獲得し自宅復帰」とすることは、まずは大事だと思いますが、その先の「社会復帰」を目標に掲げることが必要だと思います。また障害者も私たちと同じように、運動しなければ生活習慣病の恐れもあるため、スポーツへの参加を促すべきです。
その提案ができるのはセラピストです。福祉用具などと同じように、知識がないと提案もできません。是非、セラピストの皆さんには「障害者スポーツ」に興味を持ってもらいたいです。東京オリンピック・パラリンピックがそのきっかけになればと思います。
東京オリンピック・パラリンピックは2年後に迫っています。

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