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児童虐待から子どもを救うために、どう向き合えばよいのか2019.05.28

医師の対応力向上が課題

児童相談所への医師の配置義務化を盛り込んだ児童福祉法の改正案が5月10日、衆議院本会議で審議入りした。改正法のうち医師の配置義務化は、2022年度からの施行を目指している。

厚生労働省によると、全国の児童相談所210カ所における2017年度の児童虐待相談対応件数は13万778件で過去最多だ。児童虐待防止法では、医師は児童虐待を発見しやすい立場であるとして虐待の早期発見に努めるよう規定しているが、相談対応件数のうち、医療機関を経路としたものは2%にすぎない。児童虐待を早期に発見するための医師の対応力の向上が課題となっている。

日本医師会も問題意識を表明している。道永麻里常任理事は3月に開かれた臨時代議員会で、児童虐待の早期発見・早期対応に向けて、医師・医師会の積極的な関与や周辺の医療機関の協力が重要だと強調。医師の対応能力強化に向けては、「行政や自治体、学会などが開催している研修への医師の参加や医師会の協力についても推進していく必要がある」との見解を示した。

通告は「診療行為」、ためらわずに実施を

厚労省研究班が12年に作成した「一般医療機関における子ども虐待初期対応ガイド」では「虐待は、見逃しが予後に直結する、鑑別すべき重要な小児期の《疾患》」だと強調している。その上で、虐待を疑うべき周辺状況(表)や身体症状などを提示。通告については、「告発ではなく、状況を確認し、援助を開始する為の《診療行為》」だとして、ためらわずに行うよう求めている。認定NPO法人チャイルドファーストジャパンの「虐待対応マニュアル」では、話の聞き取りが可能な2歳8カ月以上の子どもの診察で虐待を疑う場合、「子どもと保護者は別室に分けて、別々に面接する」必要性を指摘。子どもは保護者の虚偽の説明を覆してまで事実を話せないとして、注意を促している。

また日本子ども虐待医学会では15年より医療者向けの虐待対応啓発プログラム「BEAMS」を開催。すべての医療者を対象としたステージ1から児童虐待の専門医を目指すステージ3までの研修を実施している。これまでの受講者総数は約1万4000人に上っており、ニーズの高まりを見せている。

介入・支援が必要な事例を地域に開く役割が求められる

山田不二子氏


認定NGO法人チャイルドファーストジャパン理事長

─虐待死事件をどう振り返るか?

身体症状があったら全員医師の目を通すべきだ。福祉だけで虐待の重症度を判断してはいけない。昨年発生した目黒区の事件では、被害児は一時保護された際に専門的な医師の診察を受けている。しかしその診断結果は、児相へ適切に伝わらなかった。児相は、外傷が軽症だから虐待が軽度と判断した。これは大きな過ちだ。外傷と虐待の重症度は必ずしも一致しない。加害者の精神病理を含め、メカニズムをアセスメントする必要がある。

─今後の児相のあり方は?

虐待対応の先進国である米国や英国との最大の違いは、児童虐待の特化機関がないことだ。

児相は、虐待相談のみならず、保健相談、育成相談、障害相談、非行相談、養護相談を受ける役割を担っている。このうち育成相談や障害相談は、親が子どもの利益を考えているため、親を支援すれば子どもの環境は改善される。親が加害者である虐待のフレームワークとは異なるものだ。また現在は自治体が保健所を整備しているため、児相が保健相談を担う必要はない。児童虐待相談件数は増加の一途をたどっている。虐待以外の業務は自治体に移して、児相を虐待特化機関に衣替えしていく必要がある。

虐待の第一ファクターは貧困だ。児相において精神治療を無償で提供できる体制を構築すべきだ。

─児相に配置される医師に求められる役割は?

児童精神科医や児童心理に強い小児科医など、ある程度治療学に詳しい医師の配置が求められる。必ずしも虐待の専門家である必要はないと考える。児相は福祉機関であり、医療の専門機関ではない。配置される医師には、専門医の診断結果を福祉サイドと共有するために翻訳する役回りが期待される。

─クリニックではどう対応すればいいのか?

虐待疑いケースは、心理的虐待やネグレクトが圧倒的大多数だ。体重増加が悪い、親が子どもを怒鳴っている、不衛生であるなど、保護するほどではないが介入や支援が必要な事例について、地域に開く役割を担ってほしい。

たとえば、顔面以外で命に関わりそうにないところに不審な痣がある子どもとその親が受診したとする。外来でフォローアップする場合は、2~3日のオーダーで再診予約を入れ、「心配だから来てほしい。もし来なかったら、市の保健師さんに連絡するよ」と声をかけていただきたい。再診で引っ張りながら時間をかけて、経済的な問題を含め困っていることがないか聞いていく。リスクを把握したら、「保健師さんに訪問してもらおうよ」とその場で保健師に連絡をとる流れが理想的だ。虐待者は罪悪感を持っているため、追い詰めるほど虐待の事実を隠そうとし、支援を拒絶する。一時保護が必要な重度の虐待の場合は虐待者には内密にしながら通告の手段をとるが、在宅でフォローが可能なケースは「よくあることだから大丈夫」というように、虐待という言葉を使わずに、医師が家族を保健師等の専門職につなげるといいだろう。

虐待対応の原則は、多機関連携による地域での孤立防止だ。専門家自身も抱え込まないことがポイントだ。医師は、患者が受診しなければフォローできない。家庭訪問という技術を持つ保健師と特につながりを持つべきだ。

─今後の課題は?

小児死亡事例を全数検証するチャイルド・デス・レビュー(CDR)の制度化が必要だ。国が主導して、生まれてきた子どもを1人も欠かさずに大人に育てるための施策を打つべきだ。

また多くの虐待事例では、加害者である父親がケアを受けていない。加害者をケアした上で、子どもを家庭に帰す制度の構築が必要だ。

子どもは国家の宝だ。一方で、世の中で最も弱い存在だ。本来子どもを守る立場にいる親が危害を加えている場合、国家が子どもを守らないでどうするのか。

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出典:Web医事新報

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