医療介護・リハビリ・療法士のお役立ち情報

セラピストプラス

マイナビコメディカル
マイナビコメディカル

医療介護・リハビリ・療法士のお役立ち情報

セラピストプラス

甲状腺機能低下症とその治療2019.08.13

セラピストプラス編集部からのコメント

橋本病・バセドウ病で知られる甲状腺機能低下症。妊娠中,新生児,幼児の甲状腺機能低下症,粘液水腫性昏睡など特に緊急治療が必要なものや、治療薬の効果を弱める昆布、昆布だし、コーヒー、ヨウ素系うがい薬などについても吉村 弘 伊藤病院内科部長が解説しています。

甲状腺機能低下症とは

生体が必要とする甲状腺ホルモンの産生が低下した状態である。甲状腺ホルモンの産生は下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)によって調節されている。TSHの分泌は血液中FT4と視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone:TRH)によって調節されている。甲状腺機能低下症の病因としては甲状腺に原因がある原発性と,視床下部,下垂体に原因がある中枢性があるが,ほとんどは原発性である。原発性の原因で最も多いのは橋本病(慢性甲状腺炎)であるが,バセドウ病では131I内用療法の目標を甲状腺機能低下症にする施設が多くなってきており,また,手術も全摘術による甲状腺機能低下症が増えてきている。

▶診断のポイント

原発性には,TSH高値でFT4基準値内の潜在性甲状腺機能低下症と,TSH高値,FT4基準値以下の甲状腺機能低下症の2種類がある。中枢性甲状腺機能低下症はホルモン活性を有する活性型TSHの分泌低下によりFT3,FT4が基準値以下になる。ここで注意が必要なのは,現在使用されているTSHの検査試薬ではホルモン活性を有さない非活性型TSHも測定するために,TSHは10μU/mLくらいまでは上昇することである。

▶私の治療方針・処方の組み立て方

TSHの健常人の分布は0.75~1.5μU/mLくらいが最も高頻度で約90%の健常人がTSH<3.0μU/mL(20~60歳の基準値はおおよそ0.2~4.5μU/mL)である。また,TSHの基準範囲は年齢によって異なり,高齢者では基準値上限が上昇する。高齢者ではTSHの目標を3~7μU/mLくらいに設定する。チラーヂンS®(レボチロキシン)の服用を開始してTSHが安定するまでは6週間~2カ月必要である。再検査は,チラーヂンS®の投与を開始してから1カ月は空けたほうがよい。

甲状腺ホルモン薬として現在使用できるのはチラーヂンS®,チロナミン®(リオチロニン)の2種類のみである。チロナミン®は粘液水腫性昏睡のときに使用されることがあるが,原則はチラーヂンS®のみで加療する。

【服薬時間】

チラーヂンS®の吸収は,食事中の食物繊維,コーヒーなどによって阻害されるので,就寝前または空腹時がよい(起床時で朝食前30分,または就寝時で食後3~4時間以降)。鉄剤,コレスチラミン,アルミニウムや亜鉛含有胃薬など,吸収に影響する薬剤は服用時間をずらす必要がある。

患者の状態によって治療方法が異なるので,注意が必要である。

①緊急治療を要する状態:妊娠中,新生児,幼児の甲状腺機能低下症,粘液水腫性昏睡。
②急激に甲状腺ホルモンを補充すると危険な状態:虚血性心疾患,高齢者。
③副腎不全の合併:副腎不全を合併している場合は,グルココルチコイドの投与を数日行ってからチラーヂンS®を12.5~25μg/日から開始する。
④昆布,昆布だしなどの多食,ヨウ素系咳嗽薬の常用などヨウ素の過剰摂取が疑われる場合は,これらを制限するだけで甲状腺機能が回復することが多い。

▶治療の実際

【虚血性心疾患がない場合】
〈20歳以上50歳未満〉
①TSHが基準範囲上限から10μU/mL未満の場合

一手目 :原則は経過観察。1カ月後に再検して,改善傾向なら2~3カ月後に再検。落ち着いていれば半年に1回の経過観察でよい。高度肥満,脂質異常症,糖尿病を認める場合は,チラーヂンS®錠(レボチロキシン)を12.5~25μg投与して基準値内にコントロールしてもよい。代謝状態を改善することにより,これらの疾患の管理が良くなることが期待できるからである。また,健常人でもチラーヂンS®を少量投与することにより倦怠感などの症状が改善する場合がある

②TSHが10μU/mL以上20μU/mL未満の場合

一手目 :チラーヂンS®錠25μgから開始。1カ月以上投与してTSHが10μU/mL以上であれば25μg増量。TSHが5~10 μU/mLまで改善すればチラーヂンS®を12.5~25μg増量

③TSH>20μU/mLの場合

一手目 :チラーヂンS®錠50μgから開始。1カ月以上投与してTSH>10μU/mLでは25μg増量し,1カ月以上投与してからTSHを再検。TSHが10μU/mL未満になるまで25 μgずつ増量。TSHが5~10μU/mLまで改善すればチラーヂンS®を12.5~25μg増量

〈50歳以上70歳未満〉

一手目 :チラーヂンS®錠12.5~25μgから開始。1カ月以上投与してから25μgずつ増量。TSHの治療目標値は2~5μU/mLくらいに設定

〈70歳以上〉

一手目 :チラーヂンS®錠12.5μgから開始。1カ月以上投与してからTSHを測定して全身状態に応じて12.5~25μgずつ増量。TSHの治療目標値は3~7μU/mLに設定

【虚血性心疾患がある場合】

一手目 :チラーヂンS®錠12.5μgから開始。1カ月以上投与してからTSHを測定して全身状態に応じて12.5~25μgずつ増量。TSHの治療目標値は3~6μU/mLくらいに設定

【妊婦】

一手目 :甲状腺機能低下症の程度で異なるが,できるだけ早く正常化するように初めからチラーヂンS®錠50~100μg/日で加療開始。治療目標値は,妊娠初期はTSH<2.5μU/mL,それ以降は<3.0μU/mL

【チラーヂンS®錠で薬疹などの副作用を認めた場合】

一手目 :Lサイロキシンそのものによる副作用ではなく,賦形剤によるものである。チラーヂンS®散0.01%に変更してみる

吉村 弘(伊藤病院内科部長)

>>マイナビコメディカルに登録して自分の条件に合った職場を紹介してもらう(無料)

    <PR>マイナビコメディカル

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  •  LINEで送る

出典:Web医事新報

おすすめ

TOPへ