地域包括ケアってなんだ?(9)まとめ
公開日:2018.06.15 更新日:2021.04.09
文:吉倉 孝則
理学療法士/保健学修士/認定理学療法士
第17回から8回にわたり「地域包括ケアってなんだ?」について書いてきました。今回はその全体を振り返りながら、まとめとしたいと思います。
地域包括ケアシステムを理解しよう
高齢化が進むと、医療、介護サービスを利用する人が増えて社会保障費が増大します。現在でも日本のGDPの約20%を超えており、税金を上げずにこのままのペースで医療・介護費を使い続けると、公的保険が崩壊すると言われています。さらに認知症の増加、高齢者の単身・夫婦のみ世帯が多いなど複雑な課題を抱えています。一方で、実はこの高齢化は地域によって進行度など実情が異なっており、地方ではすでに高齢化のピークを迎えているところもあります。そのため、団塊の世代が75歳以上になる2025年を目途にしつつ、地域ごとに医療・介護・予防・住まい・生活支援の体制の整備が急がれています。
地域包括ケアシステムの構築には、「自助」「互助」「共助」「公助」のバランスが必要です。リハビリセラピストが主に活躍している医療保険、介護保険下でのリハビリは「共助」の部分であり、その他の部分でもセラピストとして役割を担えることもあるでしょう。
診療報酬・介護報酬の改定がリハビリセラピストに与える影響
第20回以降に書いてきたのが、診療報酬・介護報酬改定の話です。医療保険(診療報酬)は2年に1回、介護保険(介護報酬)は3年に1回の見直しがされ、そのため6年に1度は診療報酬と介護報酬の同時改定になります。まさに平成30年(2018年)が、同時改定の年でした。次回の同時改定は6年後の2024年にあるため、2025年の地域包括ケアシステムの完成に向けて、今回の同時改定は重要な改定でした。
皆さんは平成30年4月から何か変わりましたか? 上司が何か言っていたなぁ程度の方もいると思います。実際に働き方が変わらない人がほとんどであると思いますが、実は診療報酬・介護報酬改定を受けて、リハビリセラピストに求められていることが明らかになってきました。
まず、回復期病院で「リハビリテーション実績指数」の評価が重視されるようになりました。これはリハビリが量から質へ転換していることを意味しています。患者さんに対して効果的なリハビリを提供することが求められる一方で、その患者が入院でのリハビリが必要か? 退院がいつになりそうか? 介護保険でのリハビリに移行できるか? など適切な評価と予後予測による判断が求められます。PDCA(P:Plan計画、D:Do実行、C:Check評価、A:Act改善)サイクルでいうところのDoにあたる患者の治療の質も重要ですが、その他の計画や評価などで見通しをもった効率的なリハビリが求められているでしょう。
同じく、介護報酬改定でもリハビリマネジメントの強化がされましたし、また外部連携として「生活機能向上連携加算」が新しく設定されました。これは、リハビリセラピストのいないような介護事業所のスタッフと連携して、利用者の能力を評価し、適切な介助方法や必要な訓練などの助言をすることが促されているといえます。この利用者さんはリハビリセラピストと一緒に訓練するわけではないので、PDCAのDoは介護事業所のスタッフ担当ということです。そのため、リハビリセラピストに求められるのは、P、C、Aといったアセスメント能力です。また助言する際には、専門用語ではなく、わかりやすい言葉で伝える、説明能力が必要だと思います。
リハビリセラピストの新たな役割
地域包括ケアシステムの構築が進む中で、リハビリセラピストに新たな役割・期待がされています。それが介護予防・日常生活支援総合事業です。そのひとつである、地域リハビリテーション活動支援事業では、リハビリセラピストが通所、訪問、地域ケア会議、住民運営の通いの場などに出向き、介護予防の取組みを地域包括支援センターと連携しながら支援するものです。
例えば地域ケア会議ではケアプランについて自立支援・リハビリセラピストの観点から意見が求められます。ここでも、1対1での関わりではなく、リハビリセラピストの持つアセスメント能力が必要となります。病院や介護施設、訪問リハビリなどで働きながら、このような市町村の事業にも参画し、私たちリハビリセラピストの専門性を発揮し、住民が安心して暮らせる地域を作っていくこともリハビリセラピストの新たな役割です。
最後に
「地域包括ケアってなんだ?」というテーマで連載してきましたが、ここでは限られた文字数で詳細に述べられなかったものもあります。リハビリセラピストとして国民の健康、医療、介護、福祉に携わる者として、地域包括ケアについてしっかり理解しましょう。国や市町村がどのように動いているのか、その動向にも注目し、報酬改定などルール変更があってもそれを理解し、柔軟な対応をし期待に応える必要があるでしょう。
今回は十分に書けませんでしたが、「自助」・「互助」にもリハビリセラピストとして関与していく方法はたくさんあります。どのように関与していけるか、セラピストの役割はないのかなど一度考えてみるのもよいでしょう。
そして、そのように先を見通す力こそが、リハビリセラピストとして自身のキャリアを描くことにもつながると思います。
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