理学療法の実習生(学生)・新人教育をやってみよう!(後編)
公開日:2016.04.08 更新日:2023.03.14
文:吉倉 孝則
理学療法士/保健学修士/認定理学療法士
前回は病院や施設で、理学療法の臨床実習指導者(スーパーバイザー)や、新人教育をするのがなぜ自分にとってためになるのかを説明しました。
今回は具体的な指導法をもう少し詳しく書いてみます。
私が行った理学療法、指導のフロー
1.説明しながら見学してもらう
2.討論をしながら患者さんや病気についての理解を深める
ここでは、討論を通して患者さんの病態やリスク管理等を理解してもらい、「だからこのような理学療法をやっているのか!」と感じてもらうように意識しています。
3.部分的に患者さんの治療を経験してもらう
4.横で見ながらアドバイスしたり、どのように考えて治療したのか議論する
5.だんだん学生・新人に患者さんの治療を任せて、報告する練習もしてもらう
上記のような流れは、学生・新人の能力や患者さんの重症度等に応じて早めに5までいくこともありますし、3や4のところでじっくり討論しながら病態の理解やどのような問題があるのか、そのためにどのような理学療法を行えばよいのか学んでいく場合もあります。
学生も実習の後半となれば、私の担当しているほとんどの患者さんを理解し、一連の治療を経験できるようになり、またその内容をしっかりと報告できるようになっていきます。
討論や質疑応答を大切に
このように、学生・新人にも多くの臨床経験を積んでもらいます。そのため、「睡眠時間が短く、集中力を欠き、リスク管理を怠ってしまう」という状態になられては困ります。
ですから、自宅での学習は睡眠時間が短くなり過ぎない範囲に留めるように伝えています。このような体調管理はプロになったら当たり前のことですよね。
私だって睡眠時間3時間以下では次の日の臨床に支障をきたすでしょう。
私は自宅での学習時間を短くする代わりに、上述したように職場で学生・新人との討論や質疑応答する時間を大切にしています。
「この患者はどうして安定して歩けないの?」
「筋力低下? 麻痺? それとも疼痛?」
「どうしてそのように考えたのか? なぜ筋力低下が起きているのか?」
「どのようなリハビリを行えばよいと思うか?」
このような討論を患者さんごとに行います。
これって学生・新人がレポートで書いてくる「問題点の抽出」だったり、「統合と解釈」であったり、「理学療法プログラム」ですよね?
つまり、レポートを通して症例を考えていくわけではなく、患者さんを目の前にして(または治療後に)一緒に考えていきます。
ここでは教えすぎたり、自分の考えを押しつけたりしすぎてはいけません。
「なぜそのように考えたのか?」「どうしてそれが影響するのか?」など学生・新人の考えを促し、気づかせることを私は意識しています。ファシリテーター役です。
これを学生・新人が忘れない程度にレポートなどにまとめることは必要だと思いますが、臨床実習にレポートを作りに来ているわけではないことを指導する側は再認識する必要があるでしょう。
スーパーバイザーと学生・新人のコミュニケーション
討論や質疑応答を円滑に進めるには、学生・新人と指導者(スーパーバイザー)のコミュニケーションが重要なのは言うまでもありません。彼らは慣れない実習地に主に一人で来ることになります。さらに、学生の場合実習での成績は、養成校での進級や卒業にも影響します。
そのような状況下で
「間違ったことを答えたらどうしよう」
「変なことを聞いて、不合格にされたらどうしよう」
など学生・新人も非常に緊張し、発言することに慎重になっている場合があります。
学生の場合、私自身は実習の初日に「挨拶など社会人、医療人としてどうかと感じる所がなければ不合格にするつもりはありません。知識や経験がないことを恥じずに、この実習中に成長すればそれでいいのです。合格か不合格を気にして、質問や行動ができない方がもったいない」と伝えます。
日本理学療法士協会が作成した「理学療法教育ガイドライン」では、臨床実習における到達目標のミニマムを「ある程度の助言・指導のもとに基本的理学療法を遂行できる」としています。
養成校によって到達目標は異なるかもしれませんが、ある程度の助言があれば、基本的な理学療法ができるということでよいと思います。
皆さんが臨床経験を積んで、知識や経験を高めていくと、その分、学生・新人とのギャップが生まれてくるでしょう。1年目の理学療法士より、5年目や10年目の理学療法士の方が知識や経験があり、学生・新人との能力差が生まれます。自分自身の理学療法士としての知識や技術、経験が学生・新人の到達目標となってしまうと、
「この学生は知識が不足している」
「こんな事もできないのか」
と思うかもしれません。
自分が学生・新人だった時を思い出そう
しかし、あなたが学生・新人だった時はそこまでできていましたか? 知識を持っていましたか?
私はそれほど優秀な学生ではなかったので、学生・新人の時には知識不足、技術不足でしたが、実習を通して多くのことを学ぶことができました。
確かに近年は養成校の増加に伴い、学生・新人の能力が低下しているということも聞きますが、それと同時に、呼吸や心臓など専門性も広がり、また在宅リハビリなどカバーをしないといけない分野も増えているのも事実です。卒前教育だけでは不十分で、卒後教育の充実も求められています。
もう一度、お尋ねします。
あなたはどのような実習を経験したでしょうか?
そしてあなたが学生や新人だったらどんな実習を経験したいでしょうか?
臨床実習は本当に貴重な時間です。
もちろん数週間で完璧な知識や技術が確立できると期待してはいけません。
ただ、わからないことがあれば調べる姿勢を学び、またはどのように考えて理学療法を実施するべきなのかということを経験してもらう必要があると思います。
そして、プロの理学療法士となった時も学び続ける必要がある、と語る背中を後輩たちに見せてほしいと思います。
皆さんもぜひ臨床実習指導者となり、自分自身の成長と将来の理学療法士の質の向上に貢献してみてはいかがでしょうか?
※この記事は2016年3月に執筆されました。
吉倉孝則 (よしくら たかのり)
理学療法士。保健学修士。認定理学療法士(運動器)。
星城大学リハビリテーション学部理学療法学専攻卒業。浜松医科大学附属病院リハビリテーション部入職。星城大学大学院健康支援学研究科修了。
大学病院への勤務時代は、整形外科疾患、がんのリハビリテーションを中心に幅広い疾患のリハビリテーションに従事。院内の緩和ケアチームにも携わり多職種連携を心がけている。
臨床業務以外にも研究活動や学生の指導など教育、地域包括リーダーとして地域包括ケアの構築にも力を入れている。
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