第6回作業療法士の仕事は就職先でどう変わる?先輩に聞く選び方と共通点
公開日:2017.06.16 更新日:2021.01.18
作業療法士の働く場所は、整形外科や精神科などの病院、リハビリ施設、デイケアや老人ホームなどの介護付き有料老人ホームと多岐に渡ります。
「場所が異なれば、業務内容も異なる……?」と思うかもしれませんが、実際は共通する部分も多いそう。一体どういうことなのでしょうか。羽山さんにうかがってみました。
- Profile
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羽山恵里夏さん(37歳)
作業療法士、整体師、アロマセラピスト。
15歳の誕生日に阪神大震災が起こり、強い衝撃を受ける。子どもの頃から福祉施設でボランティア活動をしていたこともあり、「将来は人のためになるようなことをしたい」と医療の道を志す。専門学校を卒業後、作業療法士として病院や老人施設などに勤務し、その後、独立。現在はフリーのセラピストとして活動。
人生の辛苦を乗り越えてきた高齢者と向かい合うときは
治療だけでなく“応対の引き出し”をより多く
専門学校を卒業後、新設の一般病院に就職した羽山さん。キャリアのスタートは、身体障害者や高齢者のリハビリ業務でした。
「新しい病院の立ち上げスタッフとして就職したので、先輩もいませんでした。そのため、非常勤の大学病院の先生に教わりながら、看護師さんと協力してリハビリをつくっていきました。年齢も幅広く、さまざまな立場の方がいらっしゃるので、専門的な知識以外の能力も必要とされましたね」
このときは専門学校を出たばかりということもあり、とにかく一生懸命やるしかない日々。その病院で3年ほど“突っ走るように”勤務したあと、介護老人保健施設で作業療法士を探しているという話を受け、転職します。
「介護老人保健施設では、入居者さまの身体と心の両面を扱います。ご高齢の皆さんは、長い人生であらゆる経験をしてきた方たち。幅広い知識をもっているほうが、提供できることも多くあるんだなと感じました」
羽山さんはこの施設でしばらく勤務するものの行き詰まりを感じ、新しいことを学んでみようとアロマテラピーや整体など、西洋医学ではない“癒し”について学びはじめました。
しかし、学業と仕事の両立は時間や体力の面で厳しく、上京して勉強を中心とした生活に切り替える決意をします。次に非常勤として入職したのが、精神科・心療内科の病院でした。
心と身体、両面からのアプローチで効果をあげる
「作業療法士は学校時代に、精神分析など臨床心理士が学ぶような授業も受けます。なぜ心の勉強もするのかずっと不思議に思っていましたが、実践の場に出てみて、それを納得しました」
羽山さんは精神科での業務として、患者さんの気分を発散させたり、精神的な安静を提供したりするデイケア業務を主に担うことになりました。
入職した病院がちょうどデイケアのサービスを立ち上げる時期でもあったため、プログラムをゼロから創る貴重な機会。その他、代替医療を学んでいたことで、院内サロンを開設し、アロマを利用したオイルトリートメントや整体も行います。
「摂食障害、DV被害を受けてトラウマがある、うつなどさまざまな症状の患者さんと接しました。メンタルの健康が侵されると体力も落ちるというように、身体にも大きな影響があります。身体と心はつながっているんだなあと日々実感していました」
この精神科での経験は、整形外科や介護付き有料老人ホームなどの勤務でも非常に役に立つそうです。
「整形外科での目的は、筋力アップや関節の可動域を広げることだったりします。けれども、ただ単純にその目的を達成できるようなリハビリをすればいいのかというと違うんですよね。例えば大きなケガをして、将来に不安を抱き、気持ちがふさぎ込んでしまう人もいます。うつのような状態になってしまった患者さんに対しては、整形外科的なリハビリに加え、精神科的なアプローチも必要だと実感しました」
他の病院で培った経験がまったく別のジャンルの科目に移っても役に立つため、「さまざまな治療経験をもてる機会があるなら、貪欲に挑戦したほうがいい」と羽山さんは話します。
もっとも身近な家族だからこそできる“癒し”もある
羽山さんが勤務作業療法士として最後に働いたのが、介護付き有料老人ホームです。配属されたのはスタッフを教育する部署。十数カ所ある事業所で介護にあたるスタッフに、作業療法士として研修を行うことでした。
「作業療法士として専門的な福祉機器の使い方や、ご利用者さまの身体に負担のかからない介助方法などを教えていました。そのほか、専用の器具がなくてもできるリハビリメニューを組み立てたりしていましたが、これが非常に私に気づきを与えてくれました」
リハビリ施設ではなく老人ホームのため、リハビリ専用の器具もなければ、リハビリを専門に勉強したスタッフもいません。そのため介護士が普段のケアのなかでできること、椅子や階段など家具や家の設備を使ってできることを羽山さん自身が考え、介護スタッフに教える必要がありました。
「当時は「生活リハビリ」というメニューを作って、『入居者さんと一緒にやってください』と指導をしていました。今振り返ると、訪問介護や訪問リハビリに近い業務だったのかなと思います。徒手アプローチは専門家でないとできませんから、それを介護士の方に求めるのは危険です。そのため『安全で、専門的な知識をあまり使わないでできることを』と意識していました。
このときは代替療法を学んだ経験が非常に活きましたね。また入居者さまへの言葉がけなどを教えたり、自分より年上の介護士さんと接する際には、病院や学校でさまざまな人と接した経験が役立ちました」
教えたのはリハビリというよりはリラクゼーションに近い施術。それらを業務のなかで行ったとき、入居者の方々からとても喜ばれたそうです。
作業療法士として自分にできることを考える
今、「妊活支援」をしている羽山さんは、夫婦でできるマッサージなど、身近な人同士でのケアに可能性を見出しています。その答えにいきついたのも、“さまざまな経験”をしたから。
「施設によって働き方やルールは異なるので、自分に合ったものを探すといいと思います。働き方や施設によって目的は異なりますが、作業療法士としての役割は同じだと感じています。それは『目の前のクライアントさんが、よりよい生活を送れるように、人生に幸せを感じてもらえるように、自分にできることは何だろうか?』と考え、施術すること。私にとってリハビリは、ただ身体の機能回復を目指すためだけのことではなく、とても幅が広く、奥深いことなんですよね」
作業療法士の仕事は楽しいことも多いけれど、楽なことはありません―—そう話す羽山さんの姿が印象的でした。
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