第25回摂食・嚥下チームが「口から食べる」を支援
関東労災病院 中央リハビリテーション部(その4)
公開日:2020.06.26

- Profile
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佐藤智子さん(入職2年目)
所有資格:言語聴覚士、管理栄養士
管理栄養士の仕事を辞めて言語聴覚士の学校に通い、2018年に入職。言語聴覚士として摂食・嚥下障害や失語症・構音障害などのリハビリテーション(以下、リハビリ)に携わっている。趣味はフェイクスイーツづくりで、マカロンのメモスタンドを制作するのが得意。
文:佐野勝大
「自分の口から食べたい」という患者の想いに、可能な限り応えたい。そんな関東労災病院で働く言語聴覚士は4名。そのうちのひとりである佐藤さんから、関東労災病院で働く魅力や言語聴覚士としての苦労、実現したい夢である「リハビリテーション栄養」についてお話を伺いました。
摂食・嚥下チームとしての活動がスキルアップに直結

「自分の口から食べたい」という患者の想いに、可能な限り応えたい。そのように考える関東労災病院では、摂食・嚥下チームによる活動を行っています。患者の摂食嚥下機能について正しい評価をし、安全な経口摂取の情報を提供することで、身体機能の向上や生活の質の改善を実現。言語聴覚士として勤務する入職2年目の佐藤さんも、チームの一員として活躍しています。
「摂食・嚥下チームは、言語聴覚士や理学療法士、作業療法士といったリハビリスタッフのほか、医師や看護師、管理栄養士、歯科衛生士、薬剤師などで構成されています。院内ラウンドを週2回、カンファレンスを月2回実施し、患者さん一人ひとりに応じたケアを実践しています」(佐藤さん/以下同)
佐藤さんによると、他職種との情報共有や連携は、言語聴覚士として働く上でとても役立っているそうです。
「以前、嚥下内視鏡検査(VE)検査を行う予定の患者さんが喉頭痙攣を起こす危険性がある、という情報を看護師から得ていたことで、適切に対処できたことがありました。幅広い知見が得られるのが、他職種とチームを組んで活動するメリットです」
患者さんからの一言が、新人時代の私に自信を与えてくれた

関東労災病院で働く言語聴覚士は4名。佐藤さん以外の3名は、10年以上のキャリアを誇るベテランなのだそう。新人時代は先輩とのスキルの差に愕然とし、足を引っ張っていないか心配で仕方なかったといいます。
「そんな私に自信を与えてくれたのは、当時担当していた患者さんでした。脳梗塞の後遺症で、軽度の構音障害が残ったその方のリハビリを担当した際、先輩に意見を求めたり、文献を調べたり、学会に参加したりしながら、ベストなリハビリの方法を模索しました。そんな私の様子を見て、『いろいろ考えてくれてありがとう』と喜んでくださったのです」
新人時代の佐藤さんには、面倒見のいい先輩たちの存在もとても心強かったそう。「どれだけ忙しくても、質問をしたときは嫌な顔ひとつせず、丁寧に指導してくれたのがうれしかった」と、当時を振り返ります。
「1人でうまくリハビリができるかどうか不安なときは、先輩たちが同行して助けてくれました。また毎月1回、症例を発表しながらの勉強会も開催していて、先輩たちの手厚いサポートのおかげで、少しずつ成長を実感しています」
2つの資格を活かし、「リハビリ栄養」を実践していきたい

佐藤さんにとって、関東労災病院で働く魅力は、急性期病院なのでさまざまな患者と向き合えること。また、リハビリを通して患者の変化が目に見えてわかるのが、大きなモチベーションになっているそうです。
「リハビリによって、患者さんが自分の口から食事ができるようになったときは、大きな達成感を味わえます。ただ、現実はそういうケースばかりではありません。容態が悪くなっていくなかで、次第に食事をとるのが難しくなっていく患者さんもいらっしゃいます。誤嚥の危険性があるから、と経口摂取をあきらめてしまうのは簡単です。けれども、自分の口から食べる楽しみを少しでも残してあげたいと日々考えています」
佐藤さんは、管理栄養士の資格も保有しています。管理栄養士として障害者支援施設に勤務していたときに摂食・嚥下に興味を抱き、仕事を辞めて2年間学校に通い、言語聴覚士の資格を取得しました。
「その施設には、摂食嚥下障害で普通の食形態のお食事を食べられない、という方が少なくありませんでした。それがきっかけで、食べることを支援したいという気持ちが強まり、思いきってこの世界に飛び込んだのです」
佐藤さんには、関東労災病院で実現したいことがあります。それは、近年注目を集めている「リハビリ栄養」を追求していくこと。それによって、患者のQOLやADLをさらに高めていきたいと考えているそうです。
「『リハビリ栄養』とは、リハビリの内容を考慮した栄養管理と、栄養状態を考慮したリハビリを行うこと。管理栄養士と言語聴覚士、両方の資格をもっている私だからこその強みを活かし、さらに活躍の場を広げていきたいです」
■ライタープロフィール
佐野勝大
編集者・ライター
雑誌編集者を経て独立。多数のウェブサイト・雑誌でインタビュー記事などを執筆。介護雑誌『介護のことがよくわかる本』の編集ライター、介護施設情報サイト、マイナビ介護職ライターなど、介護現場の取材を多く行っている。
タイムテーブル
佐藤さんの1日
- 7:50
- 病院到着
- 8:15
- ミーティング
- 9:00
- リハビリ業務
- 11:50
- 食事の嚥下訓練
- 12:30
- 昼休み
- 13:15
- リハビリ業務
- 16:00
- 患者さんのベッドサイドを訪問
- 16:45
- カルテ記入
- 17:15
- 帰宅
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1日あたり、12~15人の患者さんにリハビリを行っています。職場は、何でも気軽に質問できるフランクな雰囲気。おかげで、すぐ打ち解けることができました。