EBPTってなんだ? ~エビデンスを確認するために(後編)
公開日:2017.01.06 更新日:2023.08.24
文:吉倉 孝則
理学療法士/保健学修士/認定理学療法士
エビデンスがあるなら何でもいいの?
前回は「EBPT」とはなにか、またエビデンス(科学的根拠)に基づいた理学療法を行うために知っておきたい基本項目について、お話ししました。
エビデンスを確認するのであれば、自分でインターネットや図書館の雑誌、研究論文を探して読んでもいいでしょう。英文であれば「Pubmed」(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed)というサイトが有名です。
さて、エビデンスにはレベルがあるのをご存知でしょうか。つまり研究の質といってもよいでしょう。
よく知られているのは
Ⅰb:ランダム化比較試験(RCT)
Ⅱa:準ランダム化比較試験(CCT)
Ⅱb:その他の準実験的研究
Ⅲ:非実験的な観察研究
Ⅳ:専門委員会や権威者の意見
このようなもので、Ⅰaの「システマティックレビュー」で証明されていれば、エビデンスレベルが高い(質の高い研究で証明されている)ことになります。逆にⅣの「専門家の意見」だけではエビデンスが低いことになります。
「システマティックレビュー」とは文献をくまなく調査し、「Ⅰb:ランダム化比較試験(RCT)」のような質の高い研究のデータから偏りを限りなく除き、分析を行ったものです。いくつか行われた研究の「まとめ」ともいえるでしょう。
「Ⅰb:ランダム化比較試験(RCT)」とは、データの偏り(バイアス)を軽減するため、被験者を無作為(ランダム)に「治療群」と「比較対照群」に割りつけて治療を行い、評価する試験のことです。
たとえば「治療A」と「治療B」の治療後の握力を比較するとしましょう。そのときに、評価者(研究者)が治療Aを実施するのかBを実施するのかを故意に決めたとします。
治療A群の方に若い人や男性が多かったりすると、仮に治療後にAの方が握力が高かったとしても、「治療Aは効果的である」という確証にはなりません。(もともとA群の方が、男性が多く、若い人も多いので握力がつよくなりやすい)このようなデータの偏りをなくすために、被験者は無作為に「治療A群」と「B群」に振り分ける必要があります。
このような形で「Ⅰb:ランダム化比較試験(RCT)」は行われ、その結果のデータがエビデンスとして使用されているのです。
論文や学会は結論だけを“鵜呑み”にしない!
論文を読むときは、どのレベルの論文であるのかを確認しておくことも大事です。
私が以前勤務していた大学病院では、週に1回、英語論文の抄読会を行っていました。上述したようにインターネットのPubMedや英語論文雑誌から自分の好きな英語論文を選び、英文を読んで、日本語でまとめ、みんなの前で発表し、最新の知見を学ぶというものです。
こうして書くと簡単なようですが、もちろん最初は英語ができず、たいへんな苦労をしながら論文を読み解くことになりました。その際の苦労話はまた今度お話しします。
論文を読むときに大切なことは結論だけで判断するのではなく、どのような人が対象なのか、何に比べて効果があるのか、本当に効果があるといえるのかなど、論文の内容をよく吟味することでしょう。
学会で発表を聴講するときも同じように注意を払う必要があります。学会の結論だけを鵜呑みにするのではなく結論が正しいのか、どのような対象者で効果が立証されたのか、吟味して聴いてみましょう。
EBPTだけではうまくいかない?
EBPTが重要なことは理解していただけましたか? しかし、すべてをEBPTが行えるわけでもないのが実際でしょう。
なぜなら、理学療法士が実際に関わっている患者さんの症状は、多様だからです。
例えば脳卒中の患者さんに早期から起立歩行訓練をやろうとしても、非麻痺側に重度な変形性膝関節症があり、積極的に理学療法ができないというケースもあるでしょう。このような場合、どのように対応するかが本当の理学療法士の腕の見せ所なのかもしれません。
その他にも、患者さんはさまざまな合併症を有しています。脈拍を抑えるような薬を使用している場合、運動療法の際に、科学的な根拠のある脈拍数まで上がらないケースもあります。
あるいは、まだまだ科学的にしっかりと根拠が示されていないことも多いでしょう。それを一つひとつ解決するためには、研究することも必要かもしれません。
「EBPT」、科学的な根拠に基づいた理学療法を実践して、患者さんがしっかりと機能回復、動作能力や生活の改善ができるような、“効果的”な理学療法を提供できるようにしていきましょう。
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研究デザインの種類とエビデンスレベル
吉倉孝則 (よしくら たかのり)
理学療法士。保健学修士。認定理学療法士(運動器)。
星城大学リハビリテーション学部理学療法学専攻卒業。浜松医科大学附属病院リハビリテーション部入職。星城大学大学院健康支援学研究科修了。
大学病院への勤務時代は、整形外科疾患、がんのリハビリテーションを中心に幅広い疾患のリハビリテーションに従事。院内の緩和ケアチームにも携わり多職種連携を心がけている。
臨床業務以外にも研究活動や学生の指導など教育、地域包括リーダーとして地域包括ケアの構築にも力を入れている。
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