理学療法の実習生(学生)・新人教育をやってみよう!(前編)
公開日:2016.04.04 更新日:2023.03.14
文:吉倉 孝則
理学療法士/保健学修士/認定理学療法士
臨床実習指導者になってみよう
皆さんは臨床実習指導者をやったことがありますか?
指導者はスーパーバイザーやバイザー、SVとも呼ばれますね。
臨床実習と言えば学生時代に国家試験と並んで大きな壁であり、苦労をしたという記憶のある方がほとんどではないでしょうか。
私も学生時代の実習を思い出すと、忙しい上に初めてのことばかりで右往左往した覚えがあります。まったく病院では緊張して疲れるし、分からないことが多くて戸惑うし、道具を取ってくるのを手伝おうとしたときでさえ、どこに備品があるのかもわかりませんでした。帰宅してからも様々なレポートなどの課題に追われ、翌朝は眠くて眠くて階段を踏み外しそうになるくらい。それでも担当患者さんと話したり、感謝されたりしたことがとても嬉しかったことを記憶しています。
さて、実習生(学生)や新人教育の話に戻ります。臨床実習の指導者をやっていますか?
「私、知識や技術がないから」
「教えることないし」
「頭のいい人がやればいいと思う」
「やって何か意味があるの?」
こんな風に考えている方もいるでしょう。
私も知識や技術に自信があるわけではないですし、教育係をやったからといって評価されることはあっても、それで給料があがるわけではありません(多分)。
それでも指導者をやることをお勧めします。それは自分の成長にもつながるからです。
例えば、学生や新人に指導していると自分の知識の不十分さに気がつくことがあります。また時折される鋭い質問にドキッとさせられることも度々です。
しかし、それを一緒に学んでいくことが重要です。そこで知ったかぶりをしたり、学生・新人にだけ「調べてみて」と逃げるのは自分の成長にはつながりません。
学生や新人と一緒に調べると、自分もスキルアップする
自分自身もわからないことがあれば、学生・新人と一緒に調べて、ともにスキルアップをすることが大切です。理学療法士になったからといってすべてを知っているというわけではなく、私自身、まだまだわからないことだらけです。ただ、わからない病気の症状や薬の名前が出てきた時に、自分で調べ対応するという姿勢を学生・新人には示して欲しいと思います。
また、学生の担当した症例の報告会を院内でやっているという施設は多いと思いますが、実はこれは自分自身の最高の成長の場でもあります。
院内の報告会では現役セラピストから実習生に対して色々な質問が出ます。
「この筋力低下の原因はなんだと思いますか?」
「この患者さんが自宅退院するには、どのようにする必要がありますか?」
このような現役セラピストからの質問に、実習生は四苦八苦しながら答えています。
でも実はこの質問は学生・新人にだけでなく、指導をした教育係にも質問をしているようなものなのです!
つまり、『実習生とこの部分を十分に討議したのか?』ということです。
私は学生によく、
「あなたは先生たちを前に発表することで緊張するかもしれないけど、その横で指導している私たちも緊張している」と伝えています。こうした指導を通じて、学生・新人の成長とともに自分自身の成長にもつながるというのが一つのやりがいかもしれません。また、上司から「臨床実習指導者をやらないか?」という誘いがあるということは、それだけ信頼が置けると自分が認められているということであり、現場での卒後教育の一環だと感じて欲しいです。
クリニカルクラークシップとは?
ではどのように指導すればよいのでしょうか?「クリニカルクラークシップ」という言葉を聞いたことがありますか?
クリニカルクラークシップとは、学生が医療チームの一員として、実際の診療に参加する臨床参加型実習のことです。
今まではマンツーマン型指導を基本として一人の症例を担当して、レポート指導を重視の実習が多く行われてきました(従来型)。
最近では、そのクリニカルクラークシップの必要性が言われています。部分的に複数の症例を担当し、レポート指導は簡略し、臨床に参加しながら行うものです(参加型)。
あなたが受けてきた実習はどちらでしょうか?
従来型の実習は、一人の患者さんを一通り経験し、レポートを作成する中で深く患者さんのことを考える機会になるというメリットがあると思います。一方で、レポート作成は、帰宅してからのことが多く、自宅学習に時間が取られ、「睡眠時間が取れない」という実習の悪循環が生まれます。一昔前なら「実習中は寝られないのが当たり前」という伝説(?)が養成校の先輩から代々伝わっているくらいでした。
私も学生時代に先輩方からそのような噂は聞いており、実習中の帰宅時間は睡眠時間を削ってレポート作成に追われていました。しかし、そのような状態では病院で眠気に襲われ、ボーッとしたまま実習に行った日もありました。今思えば、頭がもうろうとして覚えが悪く、非常にもったいないことをしましたし、患者さんへのリスク管理の面からも問題があったんじゃないかと思います。
臨床実習は学校では学べない、実際の現場で経験できる非常に重要で貴重な時間です。
そんな思いで、私は現在の臨床実習はクリニカルクラークシップを意識して、実習生にはできるだけ臨床に参加してもらい、患者さんと関わり、他のセラピストと一緒に考える作業を繰り返ししてもらいます。クリニカルクラークシップでは実習生を助手として診療チームに参加させるという表現がされます。
実習生(学生)・新人指導の流れ
そんなときでも、とにかく患者さんの治療を経験してもらえばいいというだけではないのです。
私の意識している実習生(学生)・新人指導の流れは以下の通りです。
1.説明しながら見学してもらう
2.討論をしながら患者さんや病気についての理解を深める
3.部分的に患者さんの治療を経験してもらう
4.横で見ながらアドバイスしたりどのように考えて治療したのか議論する
5.だんだん実習生に患者さんを任せて、報告する練習をする
このような流れを実習生の能力や患者さんの重症度・リスクなどを見極めながら進めています。
次回は実習生(学生)・新人への指導の仕方を詳しくご説明します。

吉倉孝則 (よしくら たかのり)
理学療法士。保健学修士。認定理学療法士(運動器)。
星城大学リハビリテーション学部理学療法学専攻卒業。浜松医科大学附属病院リハビリテーション部入職。星城大学大学院健康支援学研究科修了。
大学病院への勤務時代は、整形外科疾患、がんのリハビリテーションを中心に幅広い疾患のリハビリテーションに従事。院内の緩和ケアチームにも携わり多職種連携を心がけている。
臨床業務以外にも研究活動や学生の指導など教育、地域包括リーダーとして地域包括ケアの構築にも力を入れている。
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