病院でのバイザーとは?具体的な指導法やポイントを解説!
公開日:2016.04.04 更新日:2025.01.22
文:吉倉 孝則
理学療法士/保健学修士/認定理学療法士
病院や施設で臨床実習を行う際に、バイザーとしての役割を担うこともあるのではないでしょうか。
今回はバイザーの役割や実習生・新人指導の流れなどを詳しく解説していきます。
病院でいわれるバイザーとは?
バイザーとは「臨床実習指導者」とも言われており、実習のサポートを行います。
・実習生の症例決め
・実習スケジュール管理
・学校との連携
・実習生が担当する症例の補助
などさまざまな業務が挙げられます。
また、バイザーにはスーパーバイザーやケースバイザー、サブバイザーなどの種類があり、それぞれ役割が異なることも。
バイザーによる実習生・新人指導の流れ
バイザーは、とにかく患者さんの治療を経験してもらえばいいというだけではないのです。
今回は私の意識している実習生(学生)・新人指導の流れを紹介します。
2.討論をしながら患者さんや病気についての理解を深める
3.部分的に患者さんの治療を経験してもらう
4.横で見ながらアドバイスしたりどのように考えて治療したのか議論する
5.だんだん実習生に患者さんを任せて、報告する練習をする
このような流れを実習生の能力や患者さんの重症度・リスクなどを見極めながら進めています。
順番に詳しく解説します。
1.説明しながら見学してもらう
これは最初の段階です。まず実習生(学生)・新人を患者さんに紹介した後、可能な範囲で「疾患名、経過、現在の治療プログラム」などを説明します。そして、実際に私のやっている理学療法場面を見学してもらいます。つまり「やってみせる」の部分です。
2.討論をしながら患者さんや病気についての理解を深める
学生・新人が見学した後、「どうしてこのような治療をしているのか?」と、疾患の治療方法やリスク管理などを質疑応答も含めながら討論します。必要な知識があれば、教科書等で確認してもらいます。
ここでは、討論を通して患者さんの病態やリスク管理等を理解してもらい、「だからこのような理学療法をやっているのか!」と感じてもらうように意識しています。
3.部分的に患者さんの治療を経験してもらう
患者さんの病態やリスク管理を学生・新人が理解できれば、実際に患者さんの治療や評価を行ってもらいます。最初は指導者の「模倣」でよいと思います。
4.横で見ながらアドバイスしたり、どのように考えて治療したのか議論する
3の学生・新人の様子を指導者は横で見ながらその都度アドバイスしたり、治療後、どのようなことを感じたのか、何に注意してやったのかを議論します。
ここでは、「見学」と「模擬・経験」のギャップについて話したり、実際は指導者も横で見ているわけですが、学生・新人に患者さんの状態や治療内容を解説してもらったり報告してもらうようにしています。このような経験をしながら報告の仕方も練習していきます。
5.だんだん学生・新人に患者さんの治療を任せて、報告する練習もしてもらう
最初は治療の一部だけですが、徐々に学生・新人に全体の治療を任せていきます。
例えば、最初は関節可動域訓練だけだったものを、歩行訓練や筋力訓練なども経験してもらい、一連のリハビリ場面を経験していきます。
バイザーをする上でのポイント
バイザーとしての役割を担った際のポイントはいくつかあります。
1.一緒に調べて自分のスキルアップアップを図る
2.討論や質疑応答を大切にする
3.学生・新人のコミュニケーションを大切にする
順番に見ていきましょう。
1.一緒に調べて自分のスキルアップアップを図る
自分自身もわからないことがあれば、学生・新人と一緒に調べて、ともにスキルアップをすることが大切です。
理学療法士になったからといってすべてを知っているというわけではなく、私自身、まだまだわからないことだらけです。ただ、わからない病気の症状や薬の名前が出てきた時に、自分で調べ対応するという姿勢を学生・新人には示して欲しいと思います。
また、学生の担当した症例の報告会を院内でやっているという施設は多いと思いますが、実はこれは自分自身の最高の成長の場でもあります。
院内の報告会では現役セラピストから実習生に対して色々な質問が出ます。
「この筋力低下の原因はなんだと思いますか?」
「この患者さんが自宅退院するには、どのようにする必要がありますか?」
このような現役セラピストからの質問に、実習生は四苦八苦しながら答えています。
でも実はこの質問は学生・新人にだけでなく、指導をした教育係にも質問をしているようなものなのです!
つまり、『実習生とこの部分を十分に討議したのか?』ということです。
私は学生によく、「あなたは先生たちを前に発表することで緊張するかもしれないけど、その横で指導している私たちも緊張している」と伝えています。
こうした指導を通じて、学生・新人の成長とともに自分自身の成長にもつながるというのが一つのやりがいかもしれません。
また、上司から「臨床実習指導者をやらないか?」という誘いがあるということは、それだけ信頼が置けると自分が認められているということであり、現場での卒後教育の一環だと感じて欲しいです。
2.討論や質疑応答を大切にする
学生・新人にも多くの臨床経験を積んでもらいます。そのため、「睡眠時間が短く、集中力を欠き、リスク管理を怠ってしまう」という状態になられては困ります。
ですから、自宅での学習は睡眠時間が短くなり過ぎない範囲に留めるように伝えています。このような体調管理はプロになったら当たり前のことですよね。私だって睡眠時間3時間以下では次の日の臨床に支障をきたすでしょう。
私は自宅での学習時間を短くする代わりに、上述したように職場で学生・新人との討論や質疑応答する時間を大切にしています。
「この患者はどうして安定して歩けないの?」
「筋力低下? 麻痺? それとも疼痛?」
「どうしてそのように考えたのか? なぜ筋力低下が起きているのか?」
「どのようなリハビリを行えばよいと思うか?」
このような討論を患者さんごとに行います。
これって学生・新人がレポートで書いてくる「問題点の抽出」だったり、「統合と解釈」であったり、「理学療法プログラム」ですよね?
つまり、レポートを通して症例を考えていくわけではなく、患者さんを目の前にして(または治療後に)一緒に考えていきます。
ここでは教えすぎたり、自分の考えを押しつけたりしすぎてはいけません。
「なぜそのように考えたのか?」「どうしてそれが影響するのか?」など学生・新人の考えを促し、気づかせることを私は意識しています。ファシリテーター役です。
これを学生・新人が忘れない程度にレポートなどにまとめることは必要だと思いますが、臨床実習にレポートを作りに来ているわけではないことを指導する側は再認識する必要があるでしょう。
3.学生・新人のコミュニケーションを大切にする
討論や質疑応答を円滑に進めるには、学生・新人と指導者(スーパーバイザー)のコミュニケーションが重要なのは言うまでもありません。
彼らは慣れない実習地に主に一人で来ることになります。さらに、学生の場合実習での成績は、養成校での進級や卒業にも影響します。
「間違ったことを答えたらどうしよう」
「変なことを聞いて、不合格にされたらどうしよう」
など学生・新人も非常に緊張し、発言することに慎重になっている場合があります。
学生の場合、私自身は実習の初日に「挨拶など社会人、医療人としてどうかと感じる所がなければ不合格にするつもりはありません。
知識や経験がないことを恥じずに、この実習中に成長すればそれでいいのです。合格か不合格を気にして、質問や行動ができない方がもったいない」と伝えます。
日本理学療法士協会が作成した「理学療法教育ガイドライン」では、臨床実習における到達目標のミニマムを「ある程度の助言・指導のもとに基本的理学療法を遂行できる」としています。
養成校によって到達目標は異なるかもしれませんが、ある程度の助言があれば、基本的な理学療法ができるということでよいと思います。
皆さんが臨床経験を積んで、知識や経験を高めていくと、その分、学生・新人とのギャップが生まれてくるでしょう。1年目の理学療法士より、5年目や10年目の理学療法士の方が知識や経験があり、学生・新人との能力差が生まれます。
自分自身の理学療法士としての知識や技術、経験が学生・新人の到達目標となってしまうと、
「この学生は知識が不足している」
「こんな事もできないのか」
と思うかもしれません。
バイザーをする際は過去の自分を思い出そう
あなたが学生・新人だった時はそこまでできていましたか? 知識を持っていましたか?
私はそれほど優秀な学生ではなかったので、学生・新人の時には知識不足、技術不足でしたが、実習を通して多くのことを学ぶことができました。
確かに近年は養成校の増加に伴い、学生・新人の能力が低下しているということも聞きますが、それと同時に、呼吸や心臓など専門性も広がり、また在宅リハビリなどカバーをしないといけない分野も増えているのも事実です。
卒前教育だけでは不十分で、卒後教育の充実も求められています。
もう一度、お尋ねします。
あなたはどのような実習を経験したでしょうか?
そしてあなたが学生や新人だったらどんな実習を経験したいでしょうか?
臨床実習は本当に貴重な時間です。
もちろん数週間で完璧な知識や技術が確立できると期待してはいけません。
ただ、わからないことがあれば調べる姿勢を学び、またはどのように考えて理学療法を実施するべきなのかということを経験してもらう必要があると思います。
そして、プロの理学療法士となった時も学び続ける必要がある、と語る背中を後輩たちに見せてほしいと思います。
皆さんもぜひ臨床実習指導者となり、自分自身の成長と将来の理学療法士の質の向上に貢献してみてはいかがでしょうか?
※この記事は2016年3月に執筆されました。

吉倉孝則 (よしくら たかのり)
理学療法士。保健学修士。認定理学療法士(運動器)。
星城大学リハビリテーション学部理学療法学専攻卒業。浜松医科大学附属病院リハビリテーション部入職。星城大学大学院健康支援学研究科修了。
大学病院への勤務時代は、整形外科疾患、がんのリハビリテーションを中心に幅広い疾患のリハビリテーションに従事。院内の緩和ケアチームにも携わり多職種連携を心がけている。
臨床業務以外にも研究活動や学生の指導など教育、地域包括リーダーとして地域包括ケアの構築にも力を入れている。
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