今すぐ実践可能 腰部疾患 ヘルニアのリハビリ
公開日:2019.10.07 更新日:2019.11.14
文:伊東浩樹 理学療法士・ NPO法人 地域医療連繋団体.Needs 代表理事
整形外科分野に特化した実践リハビリシリーズ。 前回までは下肢疾患に伴うリハビリテーション例を紹介しました。今回からは患者さんの数も多い腰部疾患について考えてみましょう。なかでもリハビリテーションを実施する割合が多い「ヘルニア」の患者さんに向けたリハビリテーションの一例を解説します。
腰椎椎間板ヘルニアとは?
腰椎に限らず、背骨の間には椎間板という線維輪と髄核でできたクッションが存在します。椎間板は歩行、運動時のバランスや衝撃吸収に役立っていますが、腰部にある椎間板に何らかの起因が生じた際に起こるのが「ヘルニア」です。ヘルニアは髄核が線維輪を出て神経を圧迫することにより症状が出現するものであり、加齢や悪い姿勢、労働などの影響で生じやすくなることがわかっています。
男女比としては3.3:1となっており、男性に多く出現するのが特徴です。なかでも事務作業などの軽作業よりも重労働(重いものを持つ、または腰部回旋)をする方に多く発症する傾向があります。主に腰、臀部に疼痛が生じ、下肢に痺れが起きます。その結果、歩行や下肢の動作が困難になる疾患です。
腰椎椎間板ヘルニアの理学療法評価
では、腰椎椎間板ヘルニアの患者さんに対する基本的なリハビリテーションはどのように進めるべきでしょうか? まずは、以下のような視点で理学療法評価を行ってみましょう。
理学所見(主観的評価) 疼痛など
まず、理学療法を実施するうえで重要となるのは疼痛状況の把握です。腰椎椎間板ヘルニアの患者さんが訴える疼痛の種類は、放散痛が多いと言われています。
ヘルニアの患者さんが疼痛を訴えるのが、安静時なのか夜間時か、また運動時なのかといった痛みを感じるタイミングを把握するのが基本です。
場合によっては、医師によるMRIなどの診断で早期手術が必要(膀胱直腸障害などを呈するもの)なケースもありますが、基本的には保存療法が多く、疼痛状況の把握は保存療法時にリハビリテーションを実施するうえでは欠かせないポイントです。
理学所見(客観的評価) SLRなど
一般的には主観評価で実施する疼痛評価とSLR(straight leg raising)テストを合わせて確認します。SLRは疼痛部位と坐骨神経痛の有無を判断することにつながるものです。疼痛の有無や神経障害を評価した後は、それによってどの程度の筋力低下があるのか、歩行時に疼痛が出現することによって側弯などが生じていないか、その他ADLとして阻害されることはないかを評価します。一般的に保存療法と手術療法とでは、その後の疼痛や就業率に差異はあまりないとされており、手術療法を実施した場合も、基本的な評価方法は同じです。
腰椎椎間板ヘルニアへの理学療法
上記のような評価を行い、状況を見極めたら実際のリハビリテーションに進みます。以下の3つの視点を持って、実施するリハの内容を決定しましょう。
1.運動療法
運動療法には様々な介入方法がありますが、一般的には急性期なのか慢性期なのか術後なのかで変わります。
急性期の場合
急性期であれば、運動療法は極力負荷の少ないものにして疼痛軽減を目指します。状態に合わせながら早期に運動をすることで、職場復帰などにも影響を与えるためMcKenzie(マッキンジー)エクササイズを実施することもあります。
亜急性期の場合
職場復帰や日常生活での活動量を回復させるためにも自転車エルゴメーターを使用した低負荷な運動から実施します。また、筋力低下が起きている下肢などについても同様にトレーニングを行います。
慢性期の場合
毎週1〜3回程度のリハビリテーションを実施することが望ましい時期です。低下した筋力を回復させ、長期的に運動を実施することでヘルニアを生じる前と同じ身体状況が継続できるように目指します。筋力トレーニングは体幹筋や下肢筋を中心に実施しましょう。またストレッチも有効です。
手術後の場合
術後も疼痛状況に合わせた介入が求められますが、できるだけ早期から運動療法を開始することが、予後的にも望ましいでしょう。ストレッチ、筋力トレーニングはもちろんですが、腰椎伸展筋へのアプローチはQOL、および職場復帰などに効果があるとされています。
2.腰椎椎間板ヘルニアの物理療法
腰椎椎間板ヘルニアにおける物理療法はさまざまありますが、こちらも急性期、慢性期で方法が異なります。
急性期
一般的に多く実施されるのが電気治療(TENS)や牽引などの治療です。急性期に実施するこれらの治療に大きな効果があるという報告は少ないものの、疼痛減少のためにはプラセボ効果と合わせて意味があると考えます。
慢性期
温熱療法、超音波療法などが実施されることがありますが、いずれも効果的には少ないとされています。
3.教育
腰椎椎間板ヘルニアにおいては、教育(心理面)へのアプローチが大きな効果をもたらします。ヘルニアを生じた際の原因を明らかにして、将来的な二次障害、三次障害を予防することが大切です。そのためには亜急性期以降の運動療法に関して、セルフケアのみで運動を実施するのではなく、理学療法士が指導する環境下においてリハビリテーションを実施してもらうことが重要です。
まとめ
腰椎椎間板ヘルニアは年齢、性別関係なく誰にでも起こりうる疾患です。リハビリテーションに関しては物理療法よりも運動療法と教育(心理面)へのアプローチを重視する必要があるでしょう。膀胱直腸障害といった神経症状が重度に出現していない限り、手術よりも保存療法が選択される傾向にあります。二次障害、三次障害防止のため、医師と連携しながら症状に合わせてリハビリテーションを実施していくことが大切です。
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【参考文献】
- 標準整形外科学・中村利孝・医学書院
- 理学療法診療ガイドライン・日本理学療法士協会・株式会社ガイアブックス
- 標準理学療法学 専門分野 運動療法学 総論・奈良 勲・医学書院
- 標準理学療法学 専門分野 運動療法学 各論・奈良 勲・医学書院
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