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編み物を使った精神科作業療法~うつ病の場合

公開日:2019.12.09 更新日:2023.09.04

編み物にはさまざまな健康効果があるといわれています。海外の研究では、編み物によりセロトニンの分泌量が増えるという報告もあり、うつ病における症状軽減に効果的であることが広く知られるようになりました。今回は、うつ病の作業療法の基本と編み物のバリエーションについていくつかご紹介します。


うつ病の作業療法~回復過程に沿った関わり

抑うつ気分、無力感や罪悪感を特徴とするうつ病の人には、自分を責めたり、ささいな体調の変化も敏感に感じ取ったり、重い病気にでもかかったのかもしれないと過度に不安(心気妄想)を抱きやすい傾向が見られます。記憶力や思考力の低下、不眠、早朝覚醒、食欲の低下も表れやすく、毎日の生活を「おっくう」に感じていそうな印象があるかもしれません。

うつ病の作業療法では、対象者の偏りがちな思考を改め、ストレスの対処方法や休養の取り入れ方を具体的に検討しながら、対象者自身が健康であると実感できるよう良好な生活習慣の確立を支援していきます。

また、統合失調症などの他疾患と同様に、回復過程に沿った関わりをとることが大切です。急性期から回復前期の時間は安静が第一とされ、入院中の場合は、病棟内での安静が推奨されます。

回復後期では、休憩の時間や場所を確保したうえで、少しずつ作業活動を取り入れていきます。回復後期の仕上げには、休憩の取り方や対人関係(認知)の修正を促していきますが、はじめの段階では枠組み(手順・仕上がり)が明確で、単純・単調、疲れが残らない作業が適しているでしょう。

うつ病の作業療法~心のエネルギーを満タンに

作業中の会話は少ないかもしれませんが、まずは失敗を回避できるよう見守ることを優先し「心のエネルギー」を充足させていきます。対象者が場に慣れ、熟眠感や食事をおいしく完食できたという感覚が出てきたら、作業の進捗や体調を確認しながら、ありのままの自分を感じられるよう会話を工夫しましょう。

うつ病の作業療法では、作業をしている最中だけではなく、作業を終えた後の爽快感や心が解放されたような気分(リラックス)を味わってもらうことが大切です。そのため、対象者にはできる限り責任感や役割、時間といった制約を与えないよう配慮する時期も必要です。どのような状態がリラックスしているのかわからない対象者には、その状態を一つずつ言葉にあらわしていけるようお手伝いをするといいでしょう。

編み物でリラックス状態を導く

リラックスしている状態を味わうのに効果的な作業の一つが編み物です。編み物をすることにより、自律神経の調整に働くセロトニンの分泌が高まり心を穏やかにしたり、反復動作が心をリラックス状態に導いたり、瞑想と類似した効果が期待できるなど、さまざまなメリットがあることが研究により明らかにされています。

単調な作業の繰り返しが軌道に乗っている最中は、なにも感じられないかもしれませんが、休憩中に肩の力が抜けた瞬間に、その気分を言葉で表現してもらうといいでしょう。なかには、「全然進んでいない……」「私ってやっぱり何をやっても不器用」などと、自分を批判してしまう人もいるかもしれません。この場合は、ほめ過ぎず、そして批判もせず、ありのままの自分を感じられるよう対話することが大切です。

編み物には、おなじみの棒編みやかぎ針編みだけではなく、リリアン編み、指編みなど、いくつかのバリエーションがあります。対象者の身体機能や作業を行う環境、課題の難易度に応じてバリエーションを工夫できるのも、作業療法として導入しやすい理由ではないでしょうか。
特に特別な道具を必要としない指編みは、ポケットに毛糸をしのばせておくだけで、どんなときでも鎖編みが伸びていく様子に慰労されることができるのでおすすめです。

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【参考文献】
佐二木 順子(2015)「抑うつや不安を抱える人々のマインドフルネス(注意集中)に与える 手編みの効果について」 調査研究ジャーナル = Chiba survey research journal 4(1)、ちば県民保健予防財団,pp.11-21

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