医療介護専門職は離婚が多い? 離婚が認められるケースとは
公開日:2019.10.28 更新日:2023.02.09
こんにちは。
弁護士の中沢信介です。近年離婚問題が増加しています。厚生労働省の統計によると(平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況)2018年の年間婚姻数は約59万件、年間離婚件数は約21万件と単純に割った場合は3分の1強の割合です。また、医療従事者の間でも離婚は多く、読者の方々にとっても身近な話題になっているのではないでしょうか。
そこで、今回はクイズを混ぜながら、どのような場合に離婚できるのかという点について勉強をしていきましょう。
弁護士の中沢信介です。近年離婚問題が増加しています。厚生労働省の統計によると(平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況)2018年の年間婚姻数は約59万件、年間離婚件数は約21万件と単純に割った場合は3分の1強の割合です。また、医療従事者の間でも離婚は多く、読者の方々にとっても身近な話題になっているのではないでしょうか。
そこで、今回はクイズを混ぜながら、どのような場合に離婚できるのかという点について勉強をしていきましょう。
きっかけ
- A次郎さん
- 私は、つい最近結婚をしたのですが、同僚の間では離婚している人たちも結構いるんですよ。夫婦ともにセラピストの場合とかだとお互い仕事もあるし、早めにやり直したいということなんですかね。
- 中沢弁護士
- 医療関係者は仕事が忙しい方が多いというのも影響しているんでしょうね。
- A次郎さん
- 2人とも離婚に合意していて、問題なく別れる夫婦がいる一方で、奥さんは離婚したいのに旦那さんが離婚を嫌がっていて困っているという知人の話を聞きました。その場合って、離婚できるのでしょうか。
- 中沢弁護士
- 場合によっては相手が望まなくても離婚できるのですが……。医療関係者の方々が離婚について勉強する機会ってあまりありませんよね。これを機会に勉強してみましょう。
今回は、具体的事例を元に、クイズ形式を混ぜながら勉強していきたいと思います。 - A次郎さん
- よろしくお願いします。
事例1 妻が全く家事を手伝ってくれない
- 中沢弁護士
- それでは一つ目のケースです。結婚3年目の夫婦です。夫はb男さん(33歳)で、妻はc子さん(31歳)で、二人とも現役の作業療法士です。
- A次郎さん
- 互いに理解しあってそうな家庭ですね。
- 中沢弁護士
- そうなんです。ただ、c子さんに少しだけ問題が…。というのも、c子さんは、家事を一切やってくれません。
- A次郎さん
- えっ、じゃあ、全部家庭のことはb男さんが一人でやるんですか。それだとb男さん、大変じゃないですか。c子さんは普段何をしているのですか。
- 中沢弁護士
- 外でお酒を飲むのが大好きなようで、よく地元の友達と飲み会をしているようです。たまに早く家に帰ってきても、ソファーに寝転んで、ゲームをやったり、動画を見たりと、ずっとスマホをいじっています。
- A次郎さん
- なんとも言えませんね……。
- 中沢弁護士
- b男さんは、何度も家事を手伝ってほしいとお願いしましたが、c子さんは「忙しいし疲れているから。」の一点張りで全く態度を改めてくれません。こんなことが3年間も続いており、b男さんは、ついに、c子さんに「離婚したい。」と切り出しました。この場合、b男さんは、離婚ができるでしょうか。
- A次郎さん
- うーん、これは離婚できるのではないでしょうか。
- 中沢弁護士
- 正解は……
「c子さんが離婚に合意すれば離婚できるけど、c子さんが離婚を拒めば離婚できない。」です。 - A次郎さん
- えっ、そうなんですか!? 2人とも働いていてc子さんは全然家事もしていないのに離婚は認められないのですか?
- 中沢弁護士
- 意外かもしれないのですが、これだけだと離婚は認められません。逆もまた然りで、夫が全く家事をしてくれなくて、妻が毎日家事を全部やっていたとしても、それだけで離婚が認められることはありません。最後にまとめて法律論は解説します。
事例2 夫が姑の味方ばかりする
- 中沢弁護士
- さて、2つ目のケースです。一般企業にお勤めの夫d男さん(40歳)と言語聴覚士の妻e子さん(40歳)と8歳の女の子fちゃんのご家族です。事件は、毎回お盆と年末年始に起こります。
- A次郎さん
- 帰省の話ですかね。
- 中沢弁護士
- そうです。d男さん一家は、家族全員で毎回お盆と年末年始にd男さんの実家に帰省します。その際、e子さんは毎回お姑さんから執拗な嫌がらせを受けます。e子さんが子供の世話などで疲れて少し休んでいようものなら、お姑さんから即座に嫌味を言われます。その際、お姑さんは、同居している長男一家(d男さんのお兄さん)と比較して嫌味を言ってきます。「あなたは何もやらないのね。親御さんからどのような教育を受けたのかしら。」「長男の子供は勉強もできるし、静かなのに…それに引き換え、fちゃんはすぐ泣いてうるさいし、ぐずってばかりね。」などとひどい嫌味を言われます。
- A次郎さん
- 親とか子供の悪口を言うのですか。それはひどいですね。
- 中沢弁護士
- ただ、e子さんを一番苛立たせているのは、d男さんの態度です。d男さんは先ほどのお姑さんの態度を見ても、e子さんを庇うわけでもなく、お姑さんに同調して、「お前も働いて来いよ。」とか、「お袋が言っていることはもっともだろ。」など言ったりしています。
- A次郎さん
- e子さんは四面楚歌ですね。
- 中沢弁護士
- このような状態が毎年、毎回続いています。e子さんもfちゃんも実家に帰りたくないと言っています。そのことを言っても、d男さんは「そういうわけにはいかないだろ。お袋もfに会いたがっているし。」などといって取り合ってくれません。
- A次郎さん
- そういう問題ではないですよね。
- 中沢弁護士
- e子さんも、孫の成長をみたいお姑さんの気持ちがわからないわけではなく、帰省しないわけにはいかないと思っています。そこで、e子さんは、帰省前後で、d男さんに、少なくとも両親の悪口を言ったり、長男一家と比較するのはやめてもらうよう促してほしいとお願いするのですが、d男さんは、お姑さんを注意したりしたことはなく、却って、「なんでお袋の文句を言うんだよ。」「そもそも、お前のfのしつけが悪いんじゃないのか。」と逆に怒ったりします。
さて、このような状況で、e子さんが、離婚を切り出した場合、d男さんと離婚できるでしょうか。 - A次郎さん
- いや、最後のはひどいですね。親御さんがいない時でもその調子なんですか。
そんな感じだと離婚するしかないですよ!!離婚できるに決まっています。 - 中沢弁護士
- 正解は……
「d男さんが離婚に合意すれば離婚できるけど、d男さんが離婚を拒むと離婚できない。」です。 - A次郎さん
- またはずれですか。
事例3 妻の浮気が発覚
- 中沢弁護士
- 最後に3つ目のケースです。理学療法士のg男さん(55歳)と専業主婦のh子(57歳)さんの夫婦で、お子さんはすでに独立しています。この専業主婦のh子さんの浮気が発覚します。
- A次郎さん
- お子さんが独立してh子さんも少し寂しかったのですかね。
- 中沢弁護士
- この場合、g男さんは、離婚をすることができるでしょうか。
- A次郎さん
- 浮気は許されないことだと思います。ただ、さっきから、合意がないとなかなか離婚できないという話が続いています。この流れだと今回のケースも離婚できないんじゃないですか。
- 中沢弁護士
- 今回はh子さんの合意があろうとなかろうと離婚することができます。これは妻と夫の立場が逆転した場合も同様です。夫が浮気したとき、夫が離婚したくないと主張しても、通りません。
- A次郎さん
- 今回は全然当たらないなぁ。
離婚事由
- 中沢弁護士
- さて、各事例の結論となる理由をみていきましょう。
- A次郎さん
- 今回のクイズ、全く当たってないので、詳しく説明して下さい。
- 中沢弁護士
- まず、離婚できるかどうかの最初のポイントは、離婚について双方の合意があるかという点です。
- A次郎さん
- 離婚って、いつでもできるんじゃないんですか。
- 中沢弁護士
- A次郎さんと同じように考えている依頼者の方が多いのですが、実はそういうわけではありません。離婚がいつでもできるのは双方が離婚に合意している場合に限られます。
これは、結婚のことを考えればわかりやすいと思います。どんなに片方が結婚したいと思っていても、もう片方が、結婚したいと思わないと、結婚はできませんよね。A次郎さんの結婚の時も同様ですよね。 - A次郎さん
- そっ、それはそうですね。お互い愛し合っていますから!(笑)
- 中沢弁護士
- ここは非常に重要です。双方に合意があれば、どのような理由でも離婚することができます。性格の不一致でも、極端な話、なんとなくでもかまいません。
- A次郎さん
- そうなんですね。だから、先ほどの、全く家事を手伝ってくれないc子さんと、妻e子さんの味方になってくれないd男さんのケースも、合意があれば離婚できるのですね。
- 中沢弁護士
- そういうことになります。実際、離婚をする夫婦の90%は、双方合意の上で離婚しています。そして、その時は、先ほど言った通り、離婚の理由は問いません。だから、どんな理由でも離婚できると思う方が多いのです。
- A次郎さん
- あっ、だから私はどんな理由でも離婚ができると思っていたのですね。
- 中沢弁護士
- 次の次元の話として、片方に離婚の意思がない場合が問題となります。離婚する場合の僅か10%のケースになります。合意がないと、原則離婚することはできません。しかし、いかなるときも離婚できないとなると不都合が生じることもあります。
- A次郎さん
- それがg男さんの浮気のケースですか。
- 中沢弁護士
- その通りです。合意がない場合でも、離婚ができるのは、法律に規定されている場合だけです。
皆さんが知っている民法という法律に離婚できる場合というのが5つ挙げられています。(民法770条)その5つの場合というのは次の通りです。① 配偶者に不貞な行為があったとき。
② 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
③ 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。 - A次郎さん
- 結構限定的なのですね。
- 中沢弁護士
- メリハリをつけながら、一つずつみてみましょうか。まずは、①です。
- A次郎さん
- これが先ほどのh子さんのケースで、要するに浮気した場合ということですよね。離婚事由として法律で定められていたのですね。
- 中沢弁護士
- だから合意がなくても、離婚ができるケースとなります。
ちなみに、ここでいう不貞行為は、性交渉・その他の類似行為を指します。そこまではいかない場合、どのように評価されるのかは後でお話をします。
次に、②から④です。 - A次郎さん
- ②の悪意の遺棄とはなんですか。
- 中沢弁護士
- 悪意の遺棄というのは、正当な理由がないにもかかわらず、夫婦が同居したり、協力したりする扶助義務を怠ることです。
また、③の生死不明というのは読んで字のごとくですね。 - A次郎さん
- ④の配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがない場合というのはどういう症状の場合ですか。
- 中沢弁護士
- これは難しい問題ですが、重度の痴ほう症(認知症)などがこれに当たります。ただ、そういった症状が出たからといって直ちに離婚が認められるというわけではありません。一方の配偶者が看病などで手を尽くしたりしたにもかかわらず、回復の見込みがないなど、かなり限定的な場合にしか認められません。
- A次郎さん
- 確かに、認知症になったら捨てられるというのでは悲しいです。
- 中沢弁護士
- そして、最後が⑤です。
- A次郎さん
- その他婚姻を継続し難い重大な事由って、なんか抽象的ですね。
- 中沢弁護士
- そうですね。それがよさでもあります。
- A次郎さん
- どういうことですか。
- 中沢弁護士
- 今までみてもらって気が付いたかもしれませんが、これまでの離婚事由の中にはDV(ドメスティック・バイオレンス)などが全く入っていません。
- A次郎さん
- 言われてみればそうですね。
- 中沢弁護士
- 片方が嫌というと、本来離婚させてあげなければ不適切な場合でも、①から④の離婚事由だけだと離婚できない場合が生じてしまいます。例えば、DV夫が頻繁に妻に暴力をふるい、全治1カ月の骨折という怪我を何度も負わせているような場合でも、DV夫が意地になって妻と別れたくないと言えば通ってしまいます。そのような場合に、⑤に当たるかどうかを判断することで、DV被害者を救済したりします。
- A次郎さん
- 婚姻を継続し難い重大な事情というのは具体的にどのような事情があればいいのですか。
- 中沢弁護士
- 明確には何があればよいということは決まっていません。
- A次郎さん
- c子さんとd男さんのケースは婚姻を継続し難い重大な事由に該当しないのですか。
- 中沢弁護士
- ①から④には該当しないので、検討するとしたらこの⑤になりますが、先ほどの事情だけだと婚姻を継続し難い重大な事由になることはほとんどないでしょう。
- A次郎さん
- 確かに、考えてみれば別の価値観の人が一つの家庭をつくるんですもんね…。婚姻をした後、片方の意思だけでいつでも離婚できるのは、変な気もしてきました。
- 中沢弁護士
- ただ、先ほどの話がDVなどに発展すると話が別になります。
また、先ほど出た話ですが、性交渉・その他の類似行為までの関係にならない場合には、①の不貞行為に該当しません。ただ、不倫の行為内容・程度・回数などによっては、⑤で婚姻を継続し難い重大な事由と判断されることもあります。
どういう場合に婚姻を継続し難い重大な事由として認められるかは、次の回以降で具体的な裁判例を見ながら追加で解説します。 - A次郎さん
- わかりました。ありがとうございました。
まとめ
- 中沢弁護士
- 今回学んだことで重要なことは、以下の二つです。
① 合意があればどんな理由でも離婚できる(離婚の90%)。
② 片方が離婚に合意しないと5つの場合にしか離婚できない(離婚の10%)。 - A次郎さん
- わかりました。ありがとうございました。
中沢信介 弁護士
弁護士。1984年生まれ。2013年弁護士登録。
明治大学経営学部会計学科卒業後に弁護士になることを決意。明治大学法科大学院修了。法教育にも力を入れており年間十数件程度の小・中学校や高校を訪問している。
多数の医療関係の法人の顧問も務め、病院の第三者委員会の委員としての経験も有している。
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