高齢者の低栄養とは?サルコペニアの予防と対策は食事から
公開日:2021.03.26 更新日:2021.04.02
文:篠塚 明日香
(管理栄養士・分子栄養学カウンセラー)
2020年に世界保健機関が発表した平均寿命ランキング。日本の平均寿命は84.2歳で、これは、世界一の数字です。それこそ「人生100年時代」ともいわれるほど超高齢化社会に突入した日本では、いかに健康寿命を延ばせるかが重要なテーマになっています。
ただ、同じ80歳でも元気に働いている人もいれば、歩くのが困難でほぼ寝たきりの人もいるなど、体の健康状態は実に様々です。
この個人差の要因は、運動量や生活習慣だけでなく、栄養状態も大きく関係してくるものです。この記事では「サルコペニア予防に役立つ栄養素と食事のポイント」をわかりやすく解説します。
目次
サルコペニアとは?高齢者に起こりやすい理由
筋肉量が減少することで咀嚼力や歩行など全身の身体機能の低下が起こること。
筋肉量は「運動」や「食事からのたんぱく質摂取」によって維持されています。しかし加齢とともにどちらも減少するため、高齢者になるとサルコペニアが起こりやすい状況になります。
サルコペニアが進むと転倒での骨折リスクが高まり、実際に骨折して寝たきりの原因にもなることも珍しくありません。そうならないためにも、運動や栄養摂取によって予防することがなにより大切です。
まずは、どうして筋力が低下してしまうのかについて栄養面から見ていきましょう。
筋肉の量は「たんぱく質の構成成分であるアミノ酸が、体内で合成と分解が繰り返すこと」によって保たれています。
成人では毎日約200gのアミノ酸が合成と分解を繰り返しており、このうちの約80gは食べ物から、約120gは体内でリサイクルしたアミノ酸でまかなっているとされます。
筋肉量を維持するには「合成」=「分解」という均衡状態をつくることがポイントになるのですが、高齢になるにつれてこのサイクルが衰えてくると「合成」<「分解」となりやすく、筋肉量が低下してしまうのです。
「合成」の能力が低下する原因のひとつに、「たんぱく質の摂取量不足」が挙げられます。「ならばたんぱく質を含む食材をたくさん食べればいいのでは?」と思いがちですが、高齢者の場合は消化力の低下が著しく、簡単に解決できません。
高齢者の低栄養を予防するために、まずは「消化力低下」が疑おう
健康な成人における消化力低下の要因は、自律神経のバランスの乱れや低体温など様々な理由があるのですが、高齢者に多いのは胃酸を抑える胃薬の長期服用や、口腔状態と腸内環境の悪化によるものが考えられます。
のちほど詳しく述べますが、胃酸はたんぱく質の吸収には欠かせません。胃酸を薬によって長期間に渡り抑えてしまうと、しっかりと消化できない状態が続くことになります。未消化のまま腸に流れていくたんぱく質は、悪玉菌を増やす原因にもなるため、便秘の原因にもなります。
それから、食べ物を消化するときに分泌される消化酵素はすべてたんぱく質を材料につくられていますので、消化力低下によって食べる量が減り慢性的なたんぱく質不足になると、さらなる消化力低下を招くという悪循環に陥ります。
ではここで、消化力低下が疑われるサインをいくつか挙げてみます。
【消化力低下が疑われるサイン】
・食欲の低下、食欲のムラ
・胃もたれ、胃痛
・油ものや肉があまり食べられない
・便通が悪い
・お腹にガスが溜まる
このような症状があれば、消化力低下を疑いましょう。
もちろん、消化力低下とたんぱく質不足の悪循環に陥る前に、栄養摂取方法を工夫して筋肉量を維持できるようにしたいところです。
低栄養の改善は食事から!「簡単チキンスープ」のレシピを紹介
では、すでに消化力が低下してきている高齢者はどんな食事をしたらいいのでしょうか。
たんぱく質というのはアミノ酸がつながってできている物質なのですが、腸で吸収するためにはその構造をほぐして小さなアミノ酸まで分解する必要があり、この分解に胃酸や消化酵素が必要になります。
そこで、最初からアミノ酸のかたちで食べれば消化力の弱い高齢者でも負担がかからずに吸収することが可能になります。
アミノ酸のかたちで吸収できるものとしては、肉や魚の出汁がおすすめです。鶏肉や豚肉、かつお節や煮干しなどからスープをつくってもいいですし、化学調味料を含まない無添加の出汁パックを使うとアミノ酸が摂取できます。
固形物を食べるのが容易ではない場合は、鶏手羽肉を煮込めばしっかりアミノ酸が溶け出しますので、具の肉を食べずにスープを飲むだけでも効果的です。そこに野菜や卵など、あまり固くないお好みの具をいれてもいいでしょう。ご飯を入れて雑炊にするというのもいいですよね。
また、醤油や酢などの調味料は、しっかりと発酵させたものを選ぶこともポイントです。
なぜなら、これらの調味料は米や大豆を原料として微生物によって発酵させているのですが、その過程で旨味成分であるアミノ酸が生成されているからです。
調味料に含まれるアミノ酸は出汁にくらべると少量ですが、毎日使うものですから貴重なアミノ酸の摂取源となります。
ではここで一品、簡単につくれる栄養満点のスープレシピを紹介します。
【無添加チキンスープ】
水 600㏄
鶏の手羽元 4本
生姜スライス 好みの量
ねぎ 好みの量
塩 小さじ2/3杯
醤油 小さじ1杯
具材を鍋に入れて中火で煮込み、最後に塩と醤油で味をつけて完成です。シンプルですが、とても美味しいうえにしっかりとアミノ酸を摂取できます。
調味料を入れる前の状態でスープだけを冷凍にしてストックしておくと、炒め物やあんかけ料理、パスタなど他の料理にも使え便利です。
胃酸・消化酵素の代用となる食材や甘酒で消化力アップを
消化力の補助として、食物の持つ酸味や酵素を使うという方法もあります。
【胃酸の代わりになる食品】
・梅干し、レモン、酢 など
【消化酵素の代わりになる食品】
・麹(塩こうじ、醤油麹、甘酒)、大根おろし、キウイなどのフルーツ、まいたけ など
これらを食事にこまめに取り入れることは、体内の消化酵素の代用となり、消化力をアップさせることにつながります。
鶏肉を大根おろしにつけておくだけでもたんぱく質の一部が分解されて消化がよくなりますし、そのまま煮物にすればみぞれ煮の完成です。食後に適量のフルーツをとったり、食事中に甘酒を少しずつ飲んだりするのもいいでしょう。
甘酒に含まれる麹には「アミラーゼ・プロテアーゼ・リパーゼという3大栄養素」すべてを分解できる酵素が含まれています。腸内環境の改善にも役立つ優秀な発酵食品です。
ここまで、たんぱく質が不足することの懸念、それから消化力低下をどう補うかについてお伝えしてきました。食べることそのものがおっくうになっているような状態でも、ちょっとした工夫をすることでサルコペニア予防、または症状の悪化を防ぐことができます。
高齢者のみなさんがいつまでも元気な日々を送れるよう、ぜひ取り組んでみてください。
写真/櫻井健司
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管理栄養士・分子栄養学カウンセラー
1977年、茨城県に生まれる。管理栄養士、分子栄養学カウンセラー。東京家政大学短期学部栄養科卒業後、老人介護保健施設での給食管理の実務を経て管理栄養士となる。現在は、フリーランスとして分子栄養学のセミナー開催やエステサロンでのダイエット指導、企業商品の考案などにも携わる。
所属:合同会社スリップストリーム
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