言語聴覚士の就職先と選び方~働く場所の割合と病院以外の選択肢~
公開日:2021.09.16 更新日:2021.11.10
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
今回は言語聴覚士を目指す学生の皆さんに向けて、言語聴覚士の就職活動についてお話しします。
実際の就職活動では、「就職見学では何をチェックするの?」「情報がたくさんあるけれども何を重要視したら良いの?」など、気になることやわからないこともいろいろあるのではないでしょうか。
実際に回復期リハビリテーション病院で言語聴覚士の採用を担当している立場から「どんな就職先があるのか」「就職活動のポイント」について解説していきます。
私自身が考える、就職活動で最も考慮すべきことは「自分自身の言語聴覚士としてのキャリアについてよく検討する」ことです。このことが就職活動に役立つ理由や、言語聴覚士の就職の背景について詳しくお伝えします。
言語聴覚士の就職先の割合は?小児・聴覚分野の求人は少ない傾向
日本言語聴覚士協会によると、言語聴覚士の71.7%が病院などの「医療機関」に勤務しています。
病院以外の勤務先には「老健・特養」や「福祉施設」などがあり、ごく少数ですが「学校教育機関」で働く言語聴覚士もいることがわかります。7割以上の言語聴覚士が医療機関に勤務していることから、言語聴覚士の養成校を卒業した後は、大半が病院などの医療機関に就職すると推測されます。
言語聴覚士の対象は「摂食嚥下」「成人言語」「発声・発語」が中心
このように言語聴覚士のほとんどが病院勤務ですが、対象としているおもな領域は何でしょうか。
「日本言語聴覚士協会」の調査によると、言語聴覚士が対象としている領域の特徴は、「摂食嚥下」「成人言語」「発声・発語」が中心であり、小児領域や聴覚は少ないことがわかります。
したがって日本の言語聴覚士の多くは、病院に勤務し、成人領域を対象にしているといえます。
しかし、ほとんどの学生が言語聴覚士の養成校の入学時にも、成人領域での就職を希望していたわけではありません。これについては、以下のような報告があります。
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“学校教育等での勤務を希望しているにもかかわらず医療機関が求人の大多数を占めるため,やむなく就職する学生も少なくありません。”
「言語聴覚士の就職に関する課題」として、対象とする領域が成人領域へと偏りがちであることが指摘されているのです。
小児領域での言語聴覚士の仕事や現状については別記事「小児分野における言語聴覚士の役割とは?主な就職先と仕事内容」にて詳しく解説していますので、こちらのコラムもあわせて参考にしてください。
補聴器メーカーや放課後デイサービスなど、新たに言語聴覚士が活躍する就職先も
ここまで言語聴覚士の就職先の割合には偏りがあることをお話ししてきましたが、新たに言語聴覚士が活躍する分野も少しずつ広がっています。
具体例を挙げると「聴覚領域では補聴器のフィッティングや営業などを行う補聴器メーカー」や、「小児領域では発達支援を行う放課後デイサービス」などが挙げられます。ただ、このような少数派の就職先では即戦力を求めており、新卒採用よりも中途採用で就職するケースが多いようです。
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自分に合った就職先や働く場所を選ぶポイント
それでは言語聴覚士として就職を成功させるにはどんなポイントに気をつけたらよいのでしょうか?
言語聴覚士の採用を担当している私が考える「就職先の選び方」のポイントは次の3点です。
(2) 就職する地域
(3) 教育(指導)体制の充実度
新卒の言語聴覚士の就職先はほとんどが(病院などの)医療機関のため、今回は医療機関への就職についてひとつずつ解説していきます。
(1) 対象とする領域は何か?
これまでに説明してきたように、言語聴覚士が対象とする領域は、成人や小児、聴覚など多岐にわたっています。そのため、その病院の言語聴覚士が対象としている領域が何かを把握することは重要です。
小児領域については、成人領域を対象としている病院においても、一部外来で小児の臨床を行っている病院もあります。自分の希望する領域は明確にしたうえで、就職先を選択していくことが大切です。
また、病院には急性期・回復期・生活期と3つの機能があります。これら3つの機能において、リハビリテーションや言語聴覚士の役割にはそれぞれ位置づけがあり、病院の機能によって求められる働きが異なります。したがって、成人領域が希望である場合には、病院の機能についても明確にしておくことがポイントになります。
(2) 就職する地域はどこか?
言語聴覚士に限らず、どの地域で働くかは就職活動において重要です。また、「言語聴覚士でも異動や転勤はあるの?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。これは「場合によってはある」が答えになると考えます。
近年は公立病院のみならず、民間の病院でも系列病院やグループ施設への異動があります。そのため就職を希望する病院において、異動など転勤の可能性があるかを把握することも重要なポイントになります。
(3) 教育(指導)体制の充実度
最後に教育(指導)体制が充実しているのかといったこともポイントになります。言語聴覚士などの医療専門職は、養成校を卒業した時点では「専門職として一人前」の段階にはありません。そのため、就職してからの生涯学習が重要視されています。
生涯学習の方法は、職場で実際に働きながら学んでいく機会と、外部の研修会などの2つの方法が柱になります。言語聴覚士としての成長やキャリアに関わることですので、就職を希望する病院では実際にどのような指導を行っているかを把握することが重要です。
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就職見学や病院見学での”質問”を考えるポイント
就職を希望する職場に対しては、仕事内容や教育体制だけではなく、職場環境や雰囲気なども気になるのではないでしょうか。「先輩は怖くないか」「残業が多くないか」など心配なことはさまざま。しかし、就職見学の際には、こんなことを質問していいのか…とためらうかもしれませんね。
採用担当の立場から正直にお伝えするなら、「聞きたいことは全部聞いた方が良い。ただし、採用側としては、ネガティブな質問よりもポジティブな質問をしてほしい」といったところでしょうか。
就職活動中の学生さんが不安に思われる気持ちはよくわかります。しかし、すべての不安を払しょくできる職場と出会える機会は、なかなか難しいと思われます。
不安に焦点をあてるよりも、「自分自身が言語聴覚士としてどのように働きたいのか」を考え、その達成に一番近い場所を職場として選択していくことが、納得のいく就職活動につながると考えます。
ですから就職見学や病院見学での質問も「学会での発表や研究をやってみたいが、チャンスはあるか?」とか、「摂食嚥下の領域に興味があり、電気治療などもやってみたい」など、具体的に希望や関心のあることを質問し、自分自身が言語聴覚士としてどのように働いていきたいのかを就職先に伝えていくとよいでしょう。
言語聴覚士としてキャリアを積んでいくのであれば、就職活動は「不安」をベースにした活動ではなく、「希望」をベースとした活動になることが理想です。
就職活動とは、自分に合う職場とのマッチングの機会ではなく、自分自身の言語聴覚士としてのキャリアについて深く考える機会であると思うのです。
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近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
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